第17話:特訓週間③

「この世界の海って凄くきれいですね。写真で見たグアムとかハワイまでとは行きませんがきれいな青色です。現実だともうちょっとどす黒いというかなんというか」

「そうだね。これくらいだったら迷いなく飛び込める」

横浜の街をいったん離れて砂浜に来ていた俺たちは海のグラフィックの綺麗さに驚いていた。文明の発展の代償として汚れてしまった海も、人間が繁栄する前はこんな感じだったのだろうか。もちろん現実でタイムスリップはできないので知る術はないが。

「海のモンスターってどのくらいのレベルなんですかね?」

「門番の人に聞いたら東京周辺より多少強いくらいって言ってた。まあ楽勝じゃない?」

「じゃああれから行きましょうか」

香音が指を指した方向には50センチくらいのヤドカリがいた。

「先制攻撃しますね。その間に近づいて切ってください」

「じゃあそれでいこう」

香音は弓を取り出してヤドカリに放つ。ヤドカリはハサミで矢を弾く。ダメージはないようだ。その間にも俺は近づいて刀を振り下ろす。しかし、斬撃は空を切り、剣先が砂浜に突き刺さる。ヤドカリは瞬時に殻に引っ込み、攻撃を回避したようだ。

「何だこれ凄い独特な行動だな。貝殻って多分硬いよな」

そう言いながら刀で軽く突く。

《レベルが上がりました》

「え、待ってなんで倒せたの今?おかしいおかしい!バグだろこれ」

「これってどういうバグなんですかね?体力が異様に低いとかですかね?」

「次のヤドカリで試してみるしかないなこれは」

砂浜にはまだ別のヤドカリがいる。とりあえず近くにいたヤドカリに近づく。ヤドカリは同じように殻にこもる。

「魔法ならどう変わるのかを調べようか。【リーフカッター】」

魔力でできた複数の葉の刃はヤドカリが籠城する殻に当たる。葉の刃は消滅してヤドカリの体力を少しだけ削る。

「少しだけ減ったから体力が異様に低いって言う事は無くなったのか」

「じゃあ防御力が低いんですかね?」

「じゃあ素手で殴ってみようか」

刀を腰の鞘に仕舞い、拳を握りしめて構える。右腕を勢いよく前に突き出し、殻に攻撃する。

「手が痛いなこれ。でも倒せた。香音の予想通り防御力がおかしいみたいだ」

とりあえずバグを報告し、狩りを続けることにした。

「香音、素手でも倒せるみたいだから手分けしよう。経験値は両方に入るし、緊急時でもテキストチャットが使える」

「はい、じゃあまた数時間後に」

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先輩と別れて一人で狩りだ。一人でゲームをやることなんて無かったから新鮮だなと思う。先輩はこういうことに慣れてるみたいだった。今後も一緒にやっていたいけどあと1年で卒業していってしまう。それまでに慣れておかないと。

「はぁ、でも慣れる前にまずは強くならないとだめだよね。先輩みたいに新しいスキルとか考えなきゃ」

弓は部活で使っていたが、この世界でやったみたいな拡散矢とかはやる機会がなかった。常識に囚われてはいけない。この世界はリアルじゃないんだから。

私はひたすらヤドカリを叩き続けた。

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