第10話:電車ガ参リマス

エスカレーターを降りると地下鉄の駅のホームがあった。明滅を繰り返す蛍光灯に、第二階層よりも老朽化の進んだ様子から不気味な雰囲気が漂っている。

「なんか夢にまで出てきそうな感じですね」

「都市伝説とかにありそうだよね」

《・・・ザザー・・・ザ・・・間モナク・・・電車・・・ガ・・・参リ・・・マス・・・》

不意に電光掲示板に文字化けした文章が流れ始め、駅構内にアナウンスが流れた。

「えっ!?何!?」

香音が驚き腕にしがみついてくる。

「落ち着いて。こんなところに電車が来るなんておかしい。警戒しておこう」

そう言っている間にも電車の音が近づいてくる。徐々に光が見え、全体像が見えるようになってきた。

『霊界地下鉄深淵東京線』

そう書かれた車両に運転手は乗っていない。

「まじで都市伝説にありそうなの出てきたんだけど・・・」

俺は冷や汗をかきつつ、木刀を構える。香音も後ろで弓を構えているようだ。

電車は緩やかに停止し、間もなくドアが開く。不気味な音楽と共に電車から降りてきたのはスーツを着た亡霊だった。

「繧ゅ≧縺ッ縺溘i縺阪◆縺上↑縺?>縺医↓縺九∴繧翫◆縺」

亡霊はつぶやくように怨嗟の声を上げる。虚ろな目の周りには濃い隈があり、もともとは美男の枠に入るような顔は面影しかない。

「なんですかあれ・・・」

香音は少し怯えたように声を震えさせている。そう言えばホラーゲームは苦手だとか言っていた覚えがある。

「お前は敵か?」

埒が明かないと思った俺は亡霊に声を掛ける。亡霊は顔を上げ、真っ黒な目がこちらを見つめる。こうして正面から見ると本当に体が透けている。まさに幽霊といった様子だ。亡霊が何かつぶやくと、亡霊の胸部に魔方陣が現れ、紫色の火の玉が飛来する。

「遠距離系の敵か!ならこっちも【ブライト】」

俺は光属性の最下級魔法を放とうとした。しかし、

《魔力が足りません》

というアナウンスに遮られてしまう。

「なっ、この時のために魔法を使わないでここまで来たのにどうしてだ!」

そうしている間にも亡霊・・・仮に社畜霊とでも呼んでおこう・・・彼が魔法を放ち、くらってしまう。

「先輩!私に任せてください!」

香音は番えた矢を放つ。その場から動かない社畜霊は格好の的替わりのものらしく、ヘッドショットを決める。しかし、当たったはずの矢は後ろの壁に刺さった。

「えっやっぱり幽霊には効かないの!?」

「それだと魔法を何としても使わなきゃならないのか・・・。どうすればいいんだ」

社畜霊は虚ろな目で魔法を撃ち続けている。数は少ないが、弾速は走るよりは早いだろう。逃げるのは厳しい。

「魔法を使えた時と今の状態では何が変わった・・・?」

最初に魔法を使ったのはこのダンジョン最初の戦闘。2回目以降の戦闘は全て木刀だ。その戦闘でレベルがいくつか上がっている。しかし、平原で戦ったカマキリでレベルが上がって以降も魔法は使えたはず。

「先輩!避けて!」

香音の声で意識を前に向けると目の前まで紫炎の凶弾が迫っていた。

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