第8話:東京駅地下ダンジョン③

このダンジョンに潜ってから1時間ほど経ったがあまり敵と会っていない。ここまで出会ったのはコウモリ2体、モグラ2体、水銀スライム1体だけだ。ゲームでダンジョンと言ったら数十歩進むごとに敵と出会うようなものだろう。しかし、バグで飛ばされたからか、敵は少ない。

「腱鞘炎治るまでどのくらい掛かる?」

「んー、あと30分ですかね。それまで守ってくださいね」

ダンジョンの通路を進んでいくと開けた場所に来た。部屋の先にはエスカレーターが見える。

「香音、最終フロア行きのエスカレータだ」

「ほんとですか?行きましょう!」

俺たちが部屋に足を踏み入れた瞬間、壁に空いた穴から大型のネズミが複数出てきた。サイズが自分たちの腰くらいまであるのが9体、一際大きく150センチほどあるのが1体。大きいのは恐らくネズミのボスだろう。

「これって俗にいうモンスターハウスていうやつか。このゲームにもあったんだな」

「多いですよこれは!私も戦います!」

香音が弓を構えようとする。

「待て、腱鞘炎なんだから無理をしない方がいい。補助魔法だけかけてくれればいい」

そういうと香音は大人しく弓を仕舞い、腰に差していた細めの木の杖を取り出した。

「補助と言っても最下級補助魔法ですから期待しないでくださいね」

香音がいくつかの魔法を唱えると全ステータスが5%くらい上がっている。

「ありがとう!行ってくる!」

とは言っても恐らくこの先にはボスがいるので、魔力は温存したい。となると木刀で戦うほかはないだろう。しかし、ネズミは10体もいる。あれを相手にするには一気に片付けるのがよさそうだ。

ふと思いついた。ターン制がないならスキルでコンボを繋げられるのではないか?

「【瞬斬・居合式】からの【円斬】!」

思い付きの連撃は想像通り発動した。群れの中央のネズミを捕捉、そのまま距離を詰め一閃。続けざまに回転しながら周囲に斬撃を繰り出す。ボスネズミ以外は数メートル後ろに飛ばされ、最初に居合を喰らったネズミは経験値になった。残り9体。

仲間が死んだからか、もしくは反撃のつもりか、ボスネズミの号令と共にネズミが一斉に飛び掛かってくる。メインの攻撃方法は牙らしい。文字通り八方塞がり。さらに上からはボスネズミが飛び掛かる。

「ちっ、さすがに全部は捌き切れないか。一番やばいのはボスネズミだな」

一瞬で判断し、目の前のネズミを巻き込みながら上に攻撃する。

《スキル【上昇斬】を習得しました》

アナウンスが聞こえる。特徴的な動きをするとスキルになるのか。と、考えている暇は無かった。残りの7匹が噛み付いてくる。防御力が上がっているはずなのに体力が半分削られた。

「補助魔法掛けてもらっても滅茶苦茶痛いなこれ。体感的なダメージは静電気だけど」

「先輩!やっぱり私も・・・!」

「いや、俺がやる!」

俺は体についたネズミを振り払いながら答える。現実では無理でもこの世界くらいはかっこつけたいのだ。

残り8体。振り払いにもダメージ判定はあるらしく、ボスネズミが残り体力80%なのに対し、他は残り25%ほどだ。俺は部屋内を走り回ってネズミを追いかけ、全てを木刀で叩いていった。

残り1体。後はボスネズミだけだ。

「観念しろ。とどめを刺してやる」

ボスネズミに木刀を向けながら言う。しかし、ボスネズミは恐れる様子がない。攻撃しようと木刀を構えなおしたとき、ボスネズミの両手が蒼白く光った。その途端、ボスネズミの両側から1体ずつ、骨格標本のようなネズミが出てきた。

「ネクロマンサーか!?」

骨のネズミは素早く飛び掛かってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る