第5話:不思議のバグダンジョン

時計の短針が9を刺した頃、俺はもう一度『アースクエスト』の世界に入っていた。予定より少し早い時間だが他のゲームの技などを復習してきた成果を試したかったのだ。光に包まれた後、目を開くと明らかに見覚えのない建造物内にいることに気が付いた。再起動した場合は最後に入った街から、もしくは中断した位置から始まるはずなのだ。香音はまだ来ていないようなので多少進めることにした。

「とりあえずステータスに異常はないらしい。バグの報告だけしておこう」

バグの報告を終え、再度辺りを見回す。レンガ造りの壁とタイルの貼られた床。天井からは電光掲示板が吊り下げられている。ここはどうやら駅のようだ。

「はぁ・・・。東京の駅なんて全部ダンジョンみたいなものじゃないか。それにRPG要素が入ってるとかどうかしてるだろ」

そうつぶやいていると天井から何かが落ちてきた。こげ茶色のそれは1センチほどのサイズで複数降ってくる。恐る恐る見上げると50センチほどのコウモリ型の魔物がぶら下がっていた。

「くそっ、気づかなかった。高さ的には魔法だけしか効かなそうだな」

とは言っても強力な魔法でダンジョンが崩れないとも限らないので破壊力は少ないものを選ぶ必要がある。

「【サンダー】【サンダー】っ!」

とりあえず手のひらから最下級雷魔法を放つ。目にもとまらぬ速さでコウモリ目掛け飛んで行ったそれは外れることなくコウモリを仕留め、倒すことができた。

「うわっ、2体で700経験値も入ってる・・・カマキリが1匹で200経験値だったからこっちの方が効率がいいな」

実際部活中に狩った何匹かのカマキリとスライムの合計で3レベルしか上がらなかったのにこの二体だけで2レベル上がった。ダンジョンは経験値が多かったりするのだろうか。

「あ、晴斗先輩!もう来てたんですか?」

ふと掛けられた声に反応して顔をあげると香音が立っていた。

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「状況は理解しました。でもこれどうすれば出られるんですか?」

香音に一通り状況を説明し、とりあえず進むことにした。しかし香音も言ったようにこれからどうすればいいのか分からないので最深部を攻略するのを目標にした。

「香音、矢はあまり無駄遣いしないようにね。どこで補給できるのか分からないから」

「んー・・・でも通常の矢は無限に使えるみたいですよ?」

「え?本気で言ってる?」

ゲームバランス的に大丈夫なのだろうか。まあ今はありがたいので活用させてもらうが。

「あれって敵ですかね?」

考え事をしていると香音が正面に指を指しながら言った。そこには2メートルほどのモグラがいた。つるはしを持ったそのモグラはこちらに気づいていないようだ。

「敵だろうね。俺がやってもいい?」

そう聞くと香音は親指と黄と指し指でOKのサインを送ってきた。

「ありがとう。ちょっとやってみたかったことがあってね」

俺は腰に刺した木刀を居合の形で構えた。鞘がないので若干違うがログインする前に動画で見た形とほぼ同じだ。技名はスキル欄に既にあるやつをマネて・・・。

「【瞬斬・居合式】」

技を繰り出した瞬間、体が勝手に動く。運動神経が無くてもプログラムの力で固定動作をやってくれるのはとてもありがたい。一瞬で間合いを詰めた後モグラの腹に打撃を叩き込む。モグラはよろめき、後ずさりする。

「決まった」

「先輩後ろ!」

香音の声が聞こえたころには体が宙に浮き、飛ばされた。体力は3分の1ほど削られた。攻撃を喰らったところに静電気ほどの痛みが走る。どうやらもう1匹いたようだ。

「ダメージは静電気くらいに感じるんだな。痛みでひるまなくて助かる」

「もう、油断しないでください!あとは私がやります。【毒矢】」

持ち物から買った毒入り瓶を取り出し、モグラに叩き込む。モグラは弱り、残りの体力は削れてなくなった。

「はぁ、やりましたよ。回復しますね」

香音の治癒魔法で体力は回復した。

「ありがとう。先に進もう」

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