蟹食って帰ろう

 しばらく車で走り続け与謝野町よさのちょうを通り宮津の町に向かう。

途中男山という地名の場所を通る時に何やら益留が真っ赤な顔をして爆笑していた。想像力豊かな子だと思い呆れる。箸が転がっても可笑しい年頃なのだと一人納得する。

天橋立は車で通過する事が出来ない為、近くの駐車場に車を止めて観光に行くことにする。

 そういえば、彼女が股のぞきをしたいと言っていた事を思い出して浜の方に行く前に『天橋立ビューランド』に行こうと提案した。益留はなんだか楽しそうと言って嬉しそうに頷いた。

 天橋立ビューランドにはスキーで良く見るリフトに乗って山の頂上を目指していく。リフトの宙に浮いたような感じが怖いのか益留は一人キャーキャーと悲鳴を上げていた。

「もしかして、帰りもあれに乗るのですか・・・・・・」頂上に到着した彼女は少し泣きそうな顔をして俺の目を見つめた。帰りはモノレールで下に降りる事にしようと彼女をなだめる。

 『天橋立ビューランド』に到着すると早速、股のぞき台と書かれたベンチのような足場へと赴く。平日である為か比較的観光局も少ない様子である。どうすればいいのか解からない様子の益留に俺が手本を見せる。

「こうして、後ろ向きになって足を開いて股の下から天橋立をみるんだ。そうすれば天に龍がいるように見えるって言われているのだけど・・・・・・・!?」と、ここで益留の恰好を見て俺の顔が引きつった。あまり彼女の恰好を意識していなかったので解からなかったが、今日の彼女はデニム地で膝上までしか生地の無いミニスカートを履いていた。股のぞきをするって言ったはずなのになんて恰好で来ているのかと呆れる。

「私もやってみます!がんばりまっす!!」彼女は妙に気合を入れて台の上に飛び乗ったかと思うと果敢に挑もうとする。

「いやいや、なにを頑張るねん!そんな恰好じゃ無理だろう!!」俺の必死の制止を聞かず彼女は俺と同じように天橋立に背中を向けると屈んでから股の下から眺望を望んだ。俺は手で顔を覆うようにしたのだが、怖い物見たさのように自然と指の間から彼女の様子を確認した。

「うわー!綺麗!!上条社長、滅茶苦茶綺麗です!」屈んだことでスカートは少し上にズレたようだが下着が見えるまでには至らなかったようである。それでも艶めかしい脚が露出されていて十分に淫靡であった。周りの男性観光客達もその様子を一斉に鼻の下を伸ばして眺めていた。

「お前!大きな声で俺の名前を呼ぶなよ!」

「なぜですか?」彼女はキョトンした顔をして俺を見つめた。もしかして計算してやっているのではないかと疑ってしまった。


 帰りはモノレールで下山する。彼女は山道を下るモノレールに乗るのも初めてという事でテンションが上がっているようであった。両手と顔をほぼガラスに密着するのではないかというくらい近づけて外の景色を堪能している。まるで小学生の子供を連れてきているのではないかと錯覚しそうになり苦笑いする。

「ちょっとお腹が空いたな」そう言えばまともに出石蕎麦も食べていなかったので小腹が空いていた。

「宮津って何が美味しいのですか?」

「そうだな、やっぱり海が近いから海鮮類が美味しいかな」

「あ、あれ美味しそうです!!」益留が指を指した先には、観光客をターゲットにした屋台のような物が出ていた。彼女はイカのげそ焼きの匂いにやられたようであった。

「確かにうまそうだな」俺は財布から代金を払いげそ焼きを二本受け取り、一本を彼女に渡す。益留は嬉しそうにそれを食べた。その様子を見ながら俺も同じようにイカの太い脚にかぶりついた。


「本当に綺麗なところですね」益留がつぶやく。

 俺達は、天橋立を対岸に向かって歩く。遠くに工場のような建物が見える。たしか火力発電所で現在は稼働していなかったと思う。少しだけ日が陰ってきて夕日で海が綺麗に輝いている。益留はうっとりとしてその風景を眺めている。

「あれっ・・・・・・!?」水辺に一人たたずむ女の姿があった。なんだか見覚えのある感じがする。

「社長・・・・・・・、私・・・・・・、なんだか今晩・・・・・・帰りたくない気分です・・・・・・・」益留はうっとりとしながら呟く。

「あ、ああ、そうか・・・・・・・」しかしながら俺の耳には彼女の言葉は届いていない。あの海辺に立つ女、その顔は・・・・・・見覚えがある。そう如月・・・・・・・、如月遥であった。

「泊まっていちゃおうかな・・・・・・・、な~んて!」

「お、おい!」俺は海辺に立つ女のほうに歩み寄っていく。

「えっ、どうしたんですか!?社長!」益留は酷く驚いている様子であった。

「君は、君は如月さんだよね?」女の傍で話しかける。振り向いた女は急に声をかけられて恐れにも近い表情をした。

「あ、あなたはどなたですか?」その声も確かに聞き覚えがあった。間違いなく如月遥であった。

「あれ?上条さん!こんなところで何をしているんですか?」突然聞いたことのある男の声に名前を呼ばれて驚く。そこには刑事 狩屋の姿があった。その隣は彼よりも若そうな男が一人同伴している。

「な、なんでここに狩屋君がいるんだ!?」そう言えば出石で益留が彼の姿を見たと言っていた事を思い出した。まさか、俺を逮捕するつもりなのか。

「上条さんこそ、なぜここにいるんですか・・・・・・・、まあいいや、そこにいる女性に僕は用があるんですよ」言いながら狩屋は如月遥に目をやった。「金田明美さんですね。大阪で起きた殺人事件の件で聞きたい事があるのですがご同行願えますか?」狩屋は真剣な面持ちで彼女に迫った。その狩屋の言葉を聞いて彼女は観念したような表情を見せて頷いた。

「い、一体どういう事なんだ!?」俺は状況が理解出来ずに困惑する。

「まあまあまあ、これは我々警察の仕事なので・・・・・・・、しかし、お二人はそういうご関係だったのですか?いやいや、上条さんには恐れ入りました」そう言い残すと彼らは如月遥を連行するように連れて行った。

「はあ、俺達も帰るか・・・・・・・」なんだか訳の分からない疲労感の襲われて、俺はガクリと項垂れた。

「えーーー!!」益留はなぜか不服そうに感情を爆発させた。

「はっ?」彼女がなぜ怒っているのかが解からなかった。

「もう、いいです!!」そう言うと近くにあった石ころを蹴飛ばし、彼女は蟹股で来た道を歩いて行った。


その益留の歩く姿を見て蟹を食って帰ろうとなだめるように彼女に言った。


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