積極的
あの天橋立の話をした日、上条と大西がクレーム処理で外出し百合子と二人きりになった。
「益留ちゃん!もっと積極的に行かないと社長は鈍感だから気がつかないわよ!」百合子が仕事の手を止めてコーヒーを2つ用意した。
「えっ、え、ど、どういうことでしょうか?」恭子は百合子が何を言いたいのか理解出来なかった。彼女はコーヒーを一口に含んだ。
「やーねー。もうモロ解りよ。益留ちゃん社長の事好きなんでしょう?」百合子はコーヒーに砂糖を二つ入れてからスプーンでかき回した。
ブー!!
恭子は驚いたように口に含んだコーヒーを吹き出してしまった。
「ちょ、ちょっと、止めてよ!」百合子は見事にそれを避けた。
「何を言い出すんですか!?私が社長を……って、うっ、うける!」なんだか目の下辺りがピクピク引きつっている。この子は嘘をつくのが本当に下手だと呆れた。
「いい?今度の休みに私が熱を出すから」
「えっ!百合子さん病気なんですか!?」益留は驚きの声をあげる。
「あなたバカなの?違うわよ。私が当日の朝、仮病で熱が出たって社長の携帯に電話するから、二人で天橋立に行ってきなさい。あなたも子供じゃないんだから……、ねっ」百合子はウインクをする。
「ええ、私23歳ですから大人ですけど……」益留は訳の解らない事を言っている。
「もう、しっかりしなさい。そんなことじゃ男を物に出来ないわよ!時には女から積極的に行かないと、鈍感な男は駄目なのよ!!」百合子は持論を力説する。
「あっ、なるほど……、そういうことですか。頑張ってみます。ありがとうございます。」恭子は両手を握りながらガッツポーズを取る。
「頑張ってね、出来たら既成事実作るくらいにね」百合子はニヤニヤと笑った。
「えーと……、勝負下着買ったほうがいいですかね?」
「そんな事知らないわよ!とにかくグイグイ行きなさい。ああいうタイプは積極的な女に弱い筈よ!」なんだか名監督のようになっている。
「グイグイですか……、グイグイ……、いやだぁ、うふふふふ」恭子が顔を真っ赤にしてニヤニヤ笑いだした。百合子は妄想の豊かな子だなと思いながら自分の入れたコーヒーを飲み干した。
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