第8話 金策
親父が入院して1週間が過ぎた。
未だにICUから出られる気配はない。
月が変わり、最初の支払い請求が病院から来た、とお袋から電話があった。
なんと、20万円近い金額だと言う。
俺は慌ててお袋のいる実家へ向かった。
「請求書を見せてくれ」
実家に着くや否や挨拶もそこそこに俺はお袋に言った。
「はい。これだよ」
お袋はやつれた顔で病院からの請求書を差し出した。
「たった1週間でこんなに掛かるのか?」
「うーん……」
お袋に訊いた所で分かる筈がない。
「俺、見舞いがてら病院に行って訊いてくるわ」
「じゃあ、私も一緒に乗せて行って」
「いいよ」
俺はお袋を連れ立って道央病院へ向かった。
病院に到着するとお袋をICUに見送り、俺は会計窓口へと相談しに行った。
カウンターに行くと、込み入った案件だと理解したのか、女子職員は隣のドアから入室するよう俺に指示した。
「すみません、治療費の支払いの事で相談に来たんですけど」
話し掛けた俺の目の前には年配の男と若そうな男が座っていた。
「どうぞお掛けください」
年配の男が椅子を進めてきた。
「請求書を貰ったんですけど、1週間で20万円近い金額になっていまして……」
俺はお袋から預かった請求書を二人に見せた。
「交通事故で入院されていますので診療報酬点数が倍になるんですよね」
年配の男が気の毒そうな
「健康保健を使いたいんですけど。自動車保険の会社に訊いたら10対0で父が悪くて、保険が下りないんです」
保険会社には事前に二郎が確認してくれていた。
「健康保健については健康保健協会で確認してください。こちらはどの保健でも構いませんので。ローン払いのご相談にも乗れます」
「……分かりました」
これ以上、ここで得るものはないと諦め、辞去した。
翌日、会社に申し出、有給休暇を取得した。
健康保健協会のオフィスは札幌駅北口近くのビルの4階にあった。
敷居の高そうなをドアを思い切って開け、中に入ると整理券の機械が設置されていた。ボタンを押すとベロの様に感熱紙が吐き出され、13と書いてあった。俺以外に客はいなかった。
「お次でお待ちの方どうぞ」
白髪混じりの痩せ細った男に呼ばれた。
男に整理券を見せると、カウンター前の椅子を勧められた。
「ご用件は?」
男は口元だけの笑みで訊いた。
「父が交通事故で入院したんですけど、健康保健を使いたいんです」
「どんな事故ですか?」
「赤信号をスリップして交差点に入ってしまい、左から直進してきたミニバンに追突されたんです」
「自動車保険は下りないんですか?」
「百パーセント父が悪いと保険会社から言われています」
「なるほど」
「どうにかなりませんか?」
俺はすがるように尋ねた。
「私用であれば健康保健が適用されますが、仕事中や通勤または職場からの帰宅途中であれば労災保険を使っていただく事になります」
「そうですか……」
仕事帰りである事はお袋から聴いていた。しかし、時間が土曜日の深夜であり、飲食店に行っている形跡もある。はっきりどちらだと言い難い。酒を飲んでいたとしたら厄介である。迂闊に質問もできない。
「仕事帰りだったんですか?」
男が訊いて来た。
「いやあ、分かりません。母に訊いて見ます」
「じゃあ、お母さまに確認して、仕事帰りの事故でなければこちらの書類を提出してください」
受け取った『第三者行為による傷病届』を握り締め、俺は健康保健協会を後にした。
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