第6話 ICU

 待ち合い室に戻ると心配そうに親戚縁者が俺達の方を見てきた。

 全員に向けて、医者に聴いた話を説明した。

 生きているとは言え、ハッキリしない容態のため、皆、スッキリしない表情を見せていた。


「人数は制限的されるけど面会の許可が出ました。叔父さん、代表して一緒に来てくれるかな?」

 俺は親父の兄弟の末っ子である純男すみお叔父さんに頼んだ。

「分かった。行こう」


 俺達は再び、叔父さんを連れ立って、ICUへ入った。


 中に入ると看護師に促され、右手の手洗いスペースで消毒を行った。

 集中治療室内には左右に4床ずつのベッドが配置されており、医療スタッフが忙しそうに患者の治療に当たっていた。

 親父のベッドは左手の手前から二つ目だった。

 遠巻きに見ても身体中に色んな管が施されているのが分かった。

 躊躇したが、恐る恐る近付いた。


「親父、分かるか?」

 腕の辺りを揺すって見たが、反応は無かった。

 体の周りには体温を調節するためか沢山のドライアイスが敷かれていた。

「お父さん」

 今度はお袋が揺すった。

「うーん」と呻きながら白眼を見せ少し体をくねらせた。

 取り敢えず死んではいない。

「こりゃあ、いつ、目え覚ますか分かんねえな」

 叔父はぼそりと呟いた。

「戻るわ」

 叔父はそう言い残して集中治療室から出ていった。

 叔父が出て行ったなあと思ったら、今度は伯母が3人入ってきた。


 叔父さんだけ代表でって言っただろ!


 伯母達は何食わぬ顔をして手洗いスペースで消毒を始めた。

「ああ、マトちゃん。こんなになっちゃて」

 長女の昭子伯母ちゃんが親父の側に来るやいなや嘆いた。

 次女の和泉伯母ちゃんが親父の顔を撫でながら、「マトちゃんには幸せになって貰わないといけないのに」と言い放った。


 60過ぎて、これから幸せになるとか無いだろ!


「太郎ちゃん、マトちゃんの事、お願いね」

 三女の歌子伯母ちゃんが俺に念押しした。

「うん。分かった」


 勘弁してくれ。こっちが何とかして欲しいわ!


 伯母達は、言いたい事だけ残して、そそくさと出ていった。


 ホッと胸を撫で下ろす間も無く、今度は嫁の家族が入室してきた。更にその後ろを俺の従兄弟達まで付いてきた。


 止めろ! そろそろ、本当に怒られるぞ!


「小野さん!」

 案の定、担当医が泡を食った顔をして俺達に近付いてきた。

「すみません」

「他の患者さんの迷惑になりますからこれ以上の面会は遠慮してください」

「分かりました。直ぐに全員、退室します」


 俺は急いで嫁家族と従兄弟達を追い出し、親父を振り向きもせず、集中治療室を後にした。

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