第5話 Dead or Alive

 救命救急センターの入口から中へ入ると左手の小部屋に通された。

 俺とお袋と弟の二郎は医者のデスクの前に置いてあった丸イスにそれぞれ腰掛けた。

 担当医の大藪も簡素な事務用チェアに座り、デスクに設置されたシャウカステンに親父の頭部のレントゲン写真を投影させた。


「こちらが小野的平さんの頭部の写真です。ご覧の通り、出血は見られません。但し、神経にダメージがないかどうかまでは分かりません。レントゲン写真には神経までは写らないのです」

 大藪は穏やかに言った。

「意識は戻るんでしょうか?」

 俺が訊いた。

「今は分かりません。小野さんは肺挫傷も受傷しているので麻酔と鎮痛剤を射って眠らせています。肺の状態が回復して麻酔が不要になるまで判断できないんです。あと、肋骨も二本折れてます」

「助からないんでしょうか?」

 お袋が訊いた。

「脳の神経に損傷が無ければ回復すると思います。但し、相当のショックを受けていますから意識障害はあるかも知れません」

「意識障害?」と俺。

「所々、記憶が無いかも知れません。それと、折れた歯の一部が肺に入っています」

 大藪は肺のレントゲン写真をシャウカステンに貼った。

「取れるんですか?」

「容態が落ち着いたら内視鏡で摘除します」

「肺と肋骨は治るんですか」

「肺も肋骨も自然に治ります。ただ、今は損傷が激しいので鎮痛剤を使っています」

「脳の状態次第なんですね、元に戻るからどうかは」

「そうです。よろしければ、面会していただけますが」

「いいんですか?」

「はい。但し、人数は限定してください。他の患者さんもいますので」

「分かりました。ありがとうございます」


 礼を述べ、一旦、俺達は待ち合い室に戻った。

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