第3話 親父の癖《へき》

小野的平おのまとへいさんのご家族の方はいらっしゃいますか?」

 親父の担当医の大藪が額の汗を拭いながら訊いてきた。

「はい。私達がそうです」

 代表して俺が応じた。

「小野さんの鼠径部から腸が飛び出しているんですが、今回の事故のせいなのか、元々、脱腸だったのか、確認したいんです」

「何だって!」

「脱腸です」

 お袋が間髪入れずに答えた。

「どういう事だ?」

「子供の頃から脱腸なんだって」

「そんな事、初めて聞いたぞ」

「うん。言う機会が無かったから」

 お袋は俯いた。

「どうして、ほったらかしにしたんだ?」

「腸が飛び出ても、手で押し込んだら元に戻るからいいんだって、お父さん言ってた」

「まったく!」

 子供の頃から60過ぎまで持病が脱腸って、どういう事なんだ。

「分かりました。取り敢えず、腸は納めておきました」

 俺達の話を聞いていた医者は合点したようだった。

「父の容態はどうなんですか?」

「今、処置をしている最中なので、後で改めてご説明します。もう少しこちらでお待ちください」

 医者は踵を返し、ICUへ戻って行った。

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