第2話 救命救急センター

 深夜の幹線道路は行き交う車もまばらで貸切状態だった。

 いくらでもスピードを出せそうな気もしたが、路面がアイスバーンと化し、スケートリンクの様だった。

 むしろ慎重に走らなければ車の制御が覚束なかった。

 小一時間程、ノロノロ運転し、ようやく札幌の中心街にある北海道大学まで辿り着いた。キャンパスの後方には道央病院のシルエットが浮かんでいた。


 大学のキャンパスを南側から回り込み、下手稲札幌線に出ると左手に病院の大きな駐車場が現れた。

 深夜のためか貸し切りのようにがらんと空いていた。建物の近くに寄せて止め、氷上を歩くのをできるだけ避けた。


 正面玄関は案の定、閉まっていた。標示を見つけ、更に南側にある時間外出入口へ向かった。

 簡素なドアを開けると直ぐに防災センターの窓口が見えた。

 要件を伝え、指示に従い来院者名簿に記名した。お袋と弟の二郎の名も既に書かれていた。


 防災センターの脇の通路を右に折れるとすぐに救命救急センターが現れた。

 入口のシートには憔悴しきった二人の姿があった。

「あ、兄ちゃん」

 お袋が赤い目をした顔を上げた。

「親父は?」

「ICUにいる」

 二郎が答えた。

「意識はあるのか?」

「わからない」

「医者は何て言ってるんだ?」

「まだ会ってない。今、治療中だから、ここで待ってろと看護師に言われた」

「事故現場には行ったのか?」

「ああ」

「どんな事故だったんだ?」

「赤信号の交差点にスリップしながら侵入した時に左から来た直進車に追突されたらしい」

「だったら助手席側から突っ込まれたんだろ?」

「交差点内で反転した所へミニバンが運転席に追突したんだ」

「……」

「ドアがくの字にへこんでて、運転席が押し潰されてた」

「よく即死しなかったな」

「ああ。車だけ見たら、運転手、死んだなって思うよな事故だ」

 親父の小型セダンは、真上から見ると運転席の所が凹み、アイマスクの様になっていた。あまりの衝撃にシートベルトが引きちぎれ、体ごと助手席に飛ばされていた。

「車をレッカーするから貴重品を持って帰ってくれ、って警察に言われてグローブボックスを開けたら通帳が出てきたぞ」

「通帳?!」

「ああ」

「いくら入ってるんだ?」

「2~300万円」

「何だって! 母ちゃん、知ってたか?」

 お袋を見た。

「いいや。知らないよ」

「ヘソクリか?」

「さあ」

「そんな所に入れといて盗まれたらどうすんだ? バカじゃねえの」


 そんな話をしていたらICUから担当医が血相を変えて飛び出して来た。

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