第32話 蛮勇を振るう者たち
ドラゴン戦士となったナムゾンの尾の一撃が俺を襲い、樹まで吹き飛ばされて叩き付けられる。
「ガハッ」
叩き付けられた衝撃で息が詰まる。それと同時に激痛が全身を襲う。ステータスを見ないでも分かる。これは貫通ダメージが入った。
俺は地に伏しながらも何とか立ち上がり前を見た。その俺をナムゾンの振り上げられた左手が襲い掛かろうとしていた。
そこに勇気くんの剣と駒場さんの銃が攻撃与える事で防いでくれた。
しかしまるで効いていないようで、それは一瞬身体を止めさせる適度、ドラゴン戦士となったナムゾンの身体には傷一つ付いていない。
そして振り下ろされるナムゾンの左手。それを俺は間一髪で右に飛んで避ける。だがそれを予知していたかのようにナムゾンの尾が俺を打ちのめし、俺はまた近くの樹に叩き付けられてしまった。
HPがガンガン減っていくのが分かる。あと数発尾の攻撃を食らうだけで、俺は天国行きだろう。それまでに何か策を講じなければならない。
しかし考えている時間が無い。勇気くんも駒場さんも、攻撃してナムゾンの気を反らそうとしてくれているが、まるで意に介していない様子だ。完全に俺にロックオンしている。
俺は何とか攻撃から逃げ回るのに精一杯だ。『魔化』は既に使っている。それでも戦力差は埋めようが無さそうだ。
「ちっ、面倒臭いな」
そう愚痴を漏らしたナムゾンは、勇気くんと駒場さんの攻撃に、目の前の虫を払うような仕草をしてみせると、その背の翼でもって空中に飛翔する。
空中に留まったナムゾンは、こちらに向けてドラゴンの顎を大きく開く。その奥が高温で真っ赤に燃えていた。ブレス攻撃だ。
「勇気くん! 駒場さん! 覚悟を決めよう! やらなければこっちが殺られる!」
俺の叫びに二人が決意の顔で頷く。そこにお見舞いされるナムゾンの高熱のブレス攻撃。視界が熱の発光で塞がれ、二人の姿が消えた。
「ガッハッハッハッ! 骨まで溶けて消えたか!」
呵々大笑するナムゾンは、灼熱に焼け爛れる大地を眺めながら捨て台詞を吐くが、まだ終わりではない。
ナムゾンより更に上空から、俺と勇気くんの剣による一閃がナムゾンの翼を斬り捨てる。
「ぬがあ!?」
呻き声を上げて地に倒れ伏すナムゾン。しかしそれも一瞬で、直ぐに上空を振り返った。
「その姿、『魔人化』か!?」
その通り。人間のままで勝てないのなら魔人と化するしかない。俺と勇気くんと駒場さんは、いざと言う時に備えその準備をしていた。今の俺たちはビシャールたち魔族と融合し、身体の大部分を黒く変容させ、背には黒い翼を生やし、右手はそれぞれ剣と銃に変容している。
「ガッハッハッハッ! 面白い! 面白いぞ貴様ら! 戦闘はこうでなくてはならん!」
自身の翼を斬られたと言うのに、ナムゾンは悦んでいた。かなりの戦闘狂のようだ。
だが、魔人化した俺たち三人を相手に、そう易々と相対せると思うなよ。
動こうとするナムゾンに対し、駒場さんが右手の銃を連射しその場に釘付けにする。魔人化した駒場さんの銃は、威力、連射速度そのどちらもその前の比ではない。ガンガンとナムゾンの外皮の鱗を削っていく。
駒場さんが時間を稼いでくれているうちに、俺と勇気くんがナムゾンに突貫していく。
俺たちの突貫を察知したナムゾンが、手足を矢鱈目鱈に振るい、それを退けようとするが、そんな攻撃、AGIの大幅上昇した俺たちには避けるのは容易い。
だがそれはナムゾンも分かっての行動だったようだ。奴は俺と勇気くんの一撃を腕を硬化させて受け止めると、攻撃後に硬直した一瞬を狙い、尾で攻撃してきた。
それを素早く避けた所に、顎から炎弾を連発して放ってくる。駒場さんはその間も攻撃してダメージを与え続けているが無視だ。どうやら接近戦型の俺と勇気くんを先に仕留めるつもりらしい。
炎弾を避けて近付くと、また硬化で俺たちの攻撃を受けきり、尾が鋭く飛んでくる。
折角魔人化まで果たしたと言うのに、こちらの攻撃が奏功しない。そんな時間が続く。
「加藤くん! 佐藤くん! 時間を稼いでくれ!」
そこに駒場さんの声が飛んでくる。見れば駒場さんは連射を止め、魔力を右手に充填させて大技をぶっ放す算段のようだ。
ナムゾンもそれを察知し、今度は狙いを駒場さんに切り替えるが、それを俺たちが阻止する。
近付いて斬り、近くを飛行する事で炎弾の邪魔をする。しかしそれも長くは続かない。駒場さんを守るように動かなければならない為、炎弾や他の攻撃をある程度受けなければいけないからだ。
魔人化でかなりVITが上昇しているとは言え、ダメージを受けない訳じゃない。少しずつナムゾンに押し込まれていく俺と勇気くん。まだか駒場さん? と思った所に、
「離れろ二人とも!」
駒場さんの声。俺たちが直ぐにその場から離脱すると、そこに駒場さんの大砲が撃ち込まれた。
空気を揺るがす大振動を轟かせながら、駒場さんの大砲がナムゾンに直撃した。その直後にナムゾンを中心に大爆発が起こる。俺はその凄い風圧に吹き飛ばされてしまった。
「どうなった!?」
もうもうと立ち上る煙の開始点で、ナムゾンは焦げ付き痙攣していた。左上半身は吹き飛ばされたようで消失している。
が、トドメを刺しきれなかった。ギョロリとその目が俺たちを睨み、左半身を失いながらも、駒場さんに襲い掛かろうとするナムゾン。大砲を撃って魔力を消費仕切った駒場さんはフラフラで避ける気力も無さそうだ。吹き飛ばされた俺からでは間に合わない。
「ぜあああっ!!」
そこに勇気くんが立ちはだかった。この事を見越していたのだろう。右手の剣は相当量の魔力を溜め込み、眩しい程の光を放っていた。その剣を迫りくるナムゾンに向けて一閃する。
ナムゾンは勇気くんの一撃を食らうと、声を上げる事も出来ずに黒い靄へと消失していこうとしていた。
それを背にした勇気くんが、駒場さんを立たせようと手を差し伸べた瞬間、消えゆくナムゾンが最期の力を振り絞り、二人にその牙を突き立てようと顎を開く。
ザシュ! だがそれは俺の一撃によって阻止され、ナムゾンは黒い靄となって消え去ったのだった。
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