第30話 コウモリ
モンス山脈で轟音とともに巨大な火柱が立ち上る。数は八つ。俺たちがアイテール解放の志士のアジトを囲うように陣取った場所だ。
「はははははははは!!」
高笑が空に突き抜ける。笑っているのはマゾーレットだ。黒いドラゴンに乗り、火柱が上がった一ヶ所を、円を描くように飛び回っている。その周りをコウモリが八匹飛び交っており、どうやらあのコウモリたちが、俺たちの情報を逐次マゾーレットに伝えていたようだ。
「何がそんなに可笑しいんだ?」
俺の問いにマゾーレットの笑いが止まる。上空から地上を見下せば、俺たちが誰一人欠けていない事が一目瞭然だろう。
「バカな!?」
「バカはお前だ。敵の本拠地に乗り込もうと言うのに、何の準備もしないでただでやって来る訳ないだろう」
上空から歯軋りの音が聞こえてくる。余程悔しかったようだ。
準備には10日掛かった。
ミアキス公はその間各国を飛び回り、今この時にアイテール解放の志士を打倒しておく事がどれ程重要であるか各国で説いて回り、戦後の様々な取り決めもその場で行われたそうだ。
会談では各国から自国が助かりたいだけの言い逃れだと
では魔族がアイテールから手を引いた後に、テロリストを一掃すれば良い。との声が上がれば、こちらにも武器化した魔族がいる今が好機なのだ。と反論した。
結局の所、ミアキス公が考えていたのはミアキス公国の存続で間違いないのだが、折れずに粘り強く説得したのが奏功し、武器化した魔族を持つ者たちによる1000名を超える五か国連合部隊が結成されたのだった。
ミアキス公がこのように各国を飛び回り、約定を取り付けている間、俺は何をしていたのかと言えば、ミアキス公国内で襲い来る魔族たちと戦っていた。
それはそうだろう。ミアキス公が話を付けている間、魔族やアイテール解放の志士が侵攻をやめてくれる都合がないのだから。
勇者一人を欠いての防衛戦は更に苛烈であった。
日に日に仲間が一人、また一人と帰らぬ人となっていくのは、例えそれが日常化しても、日々どこかふとした瞬間に感傷的にならざるを得ず、それで気が狂わないのは、レベルが上がったからなのか、既に狂気に落ちているのか。ステータス画面にマインドやメンタルのような精神力を表す数値が無いので分からない。
魔族のアイテールからの撤退4日前でのアイテール解放の志士への総攻撃は、これが魔族たちとの最後の大戦である事を意味していた。
故に準備や打ち合わせは入念に行われ、俺の『風林火山』によるバフについても、いつやるのか打ち合わせてあった。
それはモンス山脈のアイテール解放の志士のアジトを、八ヶ所から取り囲んでから行う事になっていた。
この時点で恐らくマゾーレットは情報を掴んでいた。だから俺の『風林火山』を使われる前に潰す為、八ヶ所に転移した瞬間に八ヶ所を襲撃したのだ。
これを回避出来たのは偶然だったのだ。
仲間たちが狂気に駆り立てられるように、目に付くものを狩り回る。そんな夜が何日も続いていた。
その報告にコウモリ型の魔物が多数上がっていたのが気になった。
毎日上げられるコウモリの目撃例は、他の魔物と違い、数が一定数だったのだ。
コウモリと言えば洞窟をイメージするが、森林に生息するものも少なくない。とは言えその飛行数が森林や山岳部で同じくらいなら分かるが、荒れ果てた草原でも同じという事はないだろう。しかも同種のコウモリがだ。
それが俺にとって虫の知らせだった。自分のこの直感を信じた俺は、部隊がアジト周辺に転移するより早く、俺は転移魔法の使い手に頼み込んで各部隊へ『風林火山』を唱えて回り、更に勇気くんのいるメリディエス王国へと足を伸ばして、カウンターシールドを調達して、各部隊に配置させたのだった。
「どうやら初手に関しては俺が一枚上手だったようだな」
俺は結構なドヤ顔をしていた事だろう。マゾーレットは顔を真っ赤にしてドラゴンのが背で地団駄を踏んでいる。
「だからお前は当てにならないんだ」
地の底から黒く蠢くような声が直ぐ後ろから聞こえた。
バッと振り返ると同時にビシャールを剣へと変身させた所に、斬擊が一閃される。
吹っ飛ばされた俺は、ビシャールごと後ろの樹に打ち付けられる。
「ほう? 今のを受けるとは、やはりマゾーレットの話は当てにならないな」
そう言って男は悠々と俺に向けて歩を進める。
全身を赤黒い鎧に包み込み、手には同じく赤黒い大剣を握った男。その全身鎧と大剣には、無数の目玉が付いていた。それだけで分かる。こいつがアイテール解放の志士のリーダーだ。
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