第29話 変貌
目を醒ますと、コウの宿営地のベッドの上だった。
簡易なテントに簡易なベッド。化け物たちとの連戦に次ぐ連戦。ここは日本どころか地球でさえないと言うのに、異世界の為に何頑張ってるんだ。ふと我に返ってしまう。
「高貴さん、起きましたか!」
自嘲気味に笑っていると、目を醒ました事に気付いた誰かに声を掛けられた。俺の顔を覗き込んだのは勇気くんだ。
「勇気……くん? なんでここに?」
ここはメリディエス王国ではなくミアキス公国だ。訳が分からない。
「俺が呼んだんだ」
駒場さんがテントに入ってきて補足してくれた。勇気くんの声で俺が起きた事に気付いたらしい。異世界? である地球ともとも連絡取れる駒場さんのスキルなら、同じ大陸にいる勇気くんと連絡つけるくらい朝飯前か。
「毒の状態がかなりヤバかったんだ。このままでは命に関わるが、ミアキス公国にそれを治癒出来る人材がもういなかったんだよ」
そうだったのか。勇気くんなら全属性魔法を唱えられるから毒の治療もばっちりだな。俺は「ステータス」と唱えて自身の現状を把握する。
ステータス
NAME 加藤 高貴
JOB 風林火山
LV 112
HP 7703
MP 6052
STR 662
VIT 850
AGI 521
DEX 615
INT 660
スキル
謙虚LV140
鑑定魔法LV30
火魔法LV82
風魔法LV67
水魔法LV65
地魔法LV60
スキルキャンセルLV41
魔化LV35
剣術LV28
ユニークスキル
風林火山LV85
改めて自分のステータスを見てみると、地球人離れしてきたな。これでも俺よりレベルの低い駒場さんとステータス的には同じくらいだが。勇者である勇気くんとでは比べるのも烏滸がましい。
「助けてくれたのはありがたいが、もう戻った方がいいぞ。あの姫様がなんて言うか」
あのおっかない姫様の吊り上がった目をした顔が思い浮かぶ。が、
「文句なんて言わせませんよ」
勇気くんは強い口調でピシッと言ってのける。おやおや? あの謙虚どころか卑屈とさえ思えていた勇気くんの発言とは思えない。
「大丈夫なのか? そんな事言って?」
「大丈夫も何も勇者は僕です。向こうが何か言ってきても、僕が機嫌を損ねて地球に帰還してしまえば、メリディエスから勇者はいなくなってしまいますからね。文句は出ません」
しばらく見ない間に、弱気な性格が強気に変わっている。これはメリディエス王国も勇気くんの舵取りに苦心していそうだな。と疲れた顔のゼイラス王子の顔が思い浮かばれた。
「まあ、佐藤くんがここにやって来たのは、加藤くんの事以外にも話があったからだ」
俺はついでですか。まあ良いんだけどね。
「何ですか? アイテール解放の志士のアジトでも分かったんですか?」
「「!?」」
俺がふと思い付きで口にした事だが、二人の驚いた顔を見ると、どうやら当たりだったらしい。
いくつものテントが林立する宿営地でも、一際大きなテント。ここは部隊長以上が集まって作戦会議を行うテントだ。まあ、作戦会議と言っても沸いて出る魔物や魔族を叩く以外ないんだけど。
そんなテントが熱を帯びていた。理由は勇気くんがもたらした一報である。
ミアキス公をはじめディッキン宰相に各部隊の部隊長、それに俺に駒場さんに勇気くんが、テーブルを囲んでの会議である。テーブルの上には大陸全土の地図が広げられていた。
「本当にアイテール解放の志士のアジトが分かったのか?」
「ああ」
尋ねるミアキス公に対して、不遜な返答をする勇気くんに対して、各部隊長たちが声を上げようとするのを、ミアキス公自らが制する。
勇気くん……、昔とは違った危なっかしさがあるな。
「元々はメリディエス王国内でのアイテール解放の志士を炙り出す為に、僕の探索魔法を国全土に拡大して使った結果なんだけど……」
「探索魔法を国全土に!? そんな事が可能なのか!?」
部隊長の一人が声を上げる。どうやらその魔法を国全土の範囲で使える者は珍しいらしい。それより、話を中断されて勇気くんが見るからに不機嫌になってるんだけど。
「僕は勇者だよ。やろうと思えばこの大陸全土だって僕の魔法の範囲内だよ」
あまり軋轢を生むような言動は控えて欲しい。テント内が冷えて静まり返ってしまった。
「勇気くん、勇気くんが探索魔法で探索した範囲は、メリディエス王国内で間違いないのかい?」
俺が助け船として勇気くんに尋ねる。勇気くんはパッと顔を明るくして続きを話し始めた。
「そうなんですよ高貴さん! オッキデンス帝国のテロリストなのに、奴らメリディエス王国内にアジトを築いていたんです!」
そう言って勇気くんが指差したのは、メリディエス王国の北東、オッキデンス帝国の南の、どうやら山脈地帯であるらしかった。
「モンス山脈か。峻厳と噂される場所だな。その山頂は夏でも雪に覆われているそうだな」
ミアキス公の言に頷きで返す勇気くん。
「それで? アジトの場所が分かったって事は、こっちから仕掛けるのか?」
俺の問いに勇気くんがにやりと笑う。
「ええ。どうやらアイテール解放の志士は、このモンス山脈の中腹に地下へと大洞窟を掘って、そこをアジトにしているようで、その数500人前後です。その500人を一気に叩きます!」
握り拳の勇気くん。何だか一人でも向かって行きそうな雰囲気である。
「ミアキス公国も、こう言ってはあれですが、既に防衛戦を続けていけるだけの余力はないはず。ならば五か国での総力戦に賭けるべきではありませんか?」
ミアキス公は腕を組んで目を瞑り勇気くんの話を聞いていた。そして目を開けると、
「他の三国は何と返答したんだ?」
このミアキス公の問いに、
「いや、それはこれから打診するところで……」
と言い淀む勇気くん。
「…………まあ良いだろう。他の三国は私が説得しよう」
「本当ですか!?」
勇気くん、その反応は説得に失敗しました。と自供しているようなものだぞ。
「その代わり、出せる戦力は武器化した魔族を使用する者に限られる。それ以外の者を連れていっても被害者が増えるだけだからな」
ミアキス公の提案に頷きで返す勇気くん。
どうやら、アイテールの今後を左右する大きな戦いが始まりそうだ。
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