第23話 パスツール砦攻略戦3
魔族と魔物にやられて40人の戦力ダウンどころか、40体もの
全員の顔が絶望に染まる。
「『風林火山』!!」
俺はその絶望に沈む雰囲気を壊すように大声で『風林火山』を唱えた。
強力なオーガ相手では焼け石に水かも知れないが、無いよりはましだろう。
更に俺は自分に『魔化』を掛け、自身のステータスをアップさせる。
『かかれ!!』
俺たちの準備を待っていたかのような魔族が号令を飛ばすと、黒い騎士たちが一斉に動き出す。
「集団陣形!」
駒場さんがそう声を発すると、全員が駒場さん中心に一ヶ所に集まった。
そして俺もその集団に混ざろうとしたら蹴り出された。
「な!? 何すんですか!?」
「高貴くんは充分強いだろ! 外で戦え!」
見ればミアキス姫とバウン伯爵も集団の外で戦っていた。俺はあの枠らしい。ええ~、差別だ。などと愚痴っている時間も惜しい。俺は直ぐにオーガたちを振り返り剣を構えた。
アイテールの剣には
まず、剣を振るい敵へと直接攻撃をする時、敵に剣が当たる瞬間に引き金を引く事で、その攻撃力に魔力がプラスされ、普通の斬擊よりダメージの高い斬擊となる。
また、敵と距離がある時、剣を振るい良き所で引き金を引く事で、斬擊を敵に向けて飛ばす事も可能だ。
中々汎用性の高いアイテールの剣だが、一々魔力を消費しなければならなかったり、飛ぶ斬擊も槍の光弾より飛距離が短いなどのマイナス面もある。
そんなこんなで俺は剣を振り回す。味方に当たらないように注意するくらいで、あとは矢鱈目鱈だ。俺に剣術の才能は無いからな。
それでも剣術スキルによる補正は凄く、俺の剣はオーガたちの急所を的確に狙っていく。
どうやらオーガになった所、頭と心臓が急所である事に変わりはないらしい。
AGI(素早さ)補正でゆっくり掛かってくるように見えるオーガたちの攻撃を、俺は時にかわし、またはいなし、受け流し、受け止め、跳ね返す。
そして攻撃によって隙が生まれた所に、俺の身体はオーガの首をはね、心臓を貫き、頭から唐竹割りにするのだ。
『くっ! 他の者はよい! その
魔族の命令が変わり、40体が一斉に俺に向かってくる。
おいおい、こんなに相手してらんねーよ。などと弱音を吐いた所で敵の攻撃が薄くなってくれる訳じゃない。
俺はオーガたちに囲まれるのを避ける為、部屋中を駆け回り撹乱する。その間に飛ぶ斬擊で攻撃するが、動きながらだと照準がズレる上、飛ぶ斬擊ではオーガに致命傷を与えられずにいた。
周りの助力が欲しい所だが、ミアキス姫とバウン伯爵は、敵の注意が俺に向かったのを好機と捉え、魔族との二対一に入っており、駒場さんたちに助力を求めると、被害が拡大しそうで出来ない。
(結局、俺一人でどうにかしろって事か)
俺は覚悟を決め手足を止める。それを待っていたオーガの集団が俺に向かってくる。
「はあっ!」
オーガの一撃を俺は今でもよりも紙一重でかわし、その胴を真っ二つに斬り裂く俺。
「ぐわぁっ!」
一体倒した所でオーガたちの侵攻が止まるはずもなく、まるで突進のような鋭い突きがすぐ眼前に。それを横に回転する事で避け、回転の勢いを使って突きをしてきたオーガの首を飛ばす。
「「るあっ!」」
二体による左右からの挟み撃ち。右の一体が上段から袈裟懸けに、左の一体が下段から斬り上げてくるのを、俺は上段からの剣を剣で受け止め、下段からの剣を足で踏みつける。
挟撃を防いだ所で、前後からの飛ぶ斬擊。
「ぐっ!」
歯軋りしつつ、俺は剣を受け止めていた剣で前方に飛ぶ斬擊を飛ばしながら自分も前転した。爆炸音が上部から響くのを感じながら、俺は直ぐに態勢を立て直しつつ、前方にいるであろうオーガの一体に斬りつける。
確かにそこにオーガはおり、俺の攻撃で片腕が吹き飛ぶ。動揺するオーガにトドメの突きを心臓に突き刺し、息の根を止める。
そこに更に四方から上段に剣を振り上げたオーガ四体が迫る。
「ぜぃや!」
それを俺は一瞬速くがら空きになった胴へ四体一辺に攻撃するように回転して薙いだが、攻撃が浅かった者二体、その二体の上段から斬擊を剣で受け止めるが、床に叩き付けられてしまう。
一瞬息が詰まるが直ぐに回復した俺は、俺にトドメを刺そうと飛ぶ刺突をの予備動作に入る何体ものオーガを目にする。
「ぐあああっ!!」
俺は二体のオーガの剣を無理矢理弾き飛ばすと、直ぐに上空に跳躍する。直後に耳に聴こえる爆炸音。
オーガたちは直ぐに上空に逃れた俺が地上に戻ってきても大丈夫なように剣を構えるが、俺は降りてこなかった。
俺は丁度天井にぶら下がっていたシャンデリアに掴まっていたからだ。
「炎よ」
その隙に俺は火魔法を唱え、剣に炎を纏わせる。
そして炎を纏った剣で飛ぶ斬擊を繰り出していく。向こうからも飛ぶ斬擊や飛ぶ刺突で攻撃されるが、炎を纏った俺の攻撃の方が強い。向こうは身体から燃え上がる炎を消すのでさっきまでのコンビネーションがバラバラになっている。
これならば、と俺はシャンデリアから飛び降りると、的を絞らせないように高速で移動しながら、敵オーガを一体一体確実に屠っていく。
最後のオーガを下段からの斬り上げで二つに別つと、倒し漏れがいないかと振り返る。
そこでは集団陣形で自分たちの身を守っている駒場さんたちと、黒い剣を持つ魔族と激戦を繰り広げているミアキス姫とバウン伯爵だけだった。
ふう、どうやらオーガは全て倒せたらしい。と嘆息した所に、ズザザザザザザッとミアキス姫が吹き飛ばされてきたのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「え、ええ、何とか」
そうは言っているが、ミアキス姫は剣を支えに上半身を起こすのがやっとのようだ。
「マルゴーさん!」
俺は集団陣形の中にいるマルゴーさんに呼び掛ける。俺の回復の為に回復魔法の使い手がいたはずだ。
集団は魔族から目を離さないようにしながら、素早くこちらへ駆け寄っていくきてくれた。
とそこにバウン伯爵が吹き飛ばされてくる。
バウン伯爵を集団に収容した所で、俺は前に出た。
『ううむ、強いな』
独りごちる魔族。
『さて、私に勝てるかな?』
などとぼやきながら黒い剣の魔族は俺に襲い掛かってきた。
ぶつかり合う剣と剣 。俺の剣が魔族の黒い剣に当たる度に魔族は呻き声を漏らしていた。
そして、ザギィィンッと言う金属が斬られる音とともに魔族は俺によって袈裟懸けに斬り伏されたのだった。
「勝った、のですか?」
集団から声がして俺が振り返ると、それはミアキス姫だった。隣でバウン伯爵も不安そうな顔をしている。
二人を、そして同じように不安そうにしている集団へと俺は強く頷いてみせたのだ。
「「「わああああ!!」」」
沸き上がるディッキン・バウン合同隊を横目に俺は既に黒い靄となって消えてしまった魔族を振り返る。
そこには黒い剣だけが残されていた。
(この剣は魔物化しなかったのか)
などと勝利の余韻に酔う俺は、何の気なしにその黒い剣を手に取った。
瞬間。黒い奔流が剣から俺へと流れ込んできて、気付けば、俺の身体は俺の操作を離れ違う誰かのものになっていた。
「ふ、ふはははははは! 油断したな! 黒い剣こそ我が本体! この身体、私が乗っ取らせてもらったぞ!」
そう声高に宣言する俺に、ディッキン・バウン合同隊に動揺が走る。
「さて、まずは貴様らを亡き者とし、それから外で暴れている集団も葬らせてもらおう」
そう言う俺こと魔族。どうやら魔浸食にまた罹ってしまったようだ。
黒い剣は俺を浸食しディッキン・バウン合同隊を全滅させるつもりのようだがそうはいかない。と俺は心の中で『スキルキャンセル』を唱え続けた。すると、
「よし! 戻ったあ!」
ガッツポーズをする俺に、呆気に取られる皆さん。
「本当に高貴くんなのか?」
とは駒場さん。
「はい」
「魔族はどうなった?」
「剣の中で色々言ってます」
俺の発言に更に呆気に取られる皆さん。
何はともあれパスツール砦での戦闘は終結し、俺の手元には魔剣型の魔族が残ったのだった。
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