第22話 パスツール砦攻略戦2

「くっ!?」


 一気に敵本陣のある領主館に転移魔法で攻め込もうとしたのだが、敵もさるもの、転移魔法は想定内であったらしい。

 転移魔法で100人で移動しようとしたら、パスツール砦の外に弾き出されてしまったのだ。

 パスツール砦は元領都だ。防壁に囲まれ、中央の領主館にまでたどり着くには、迷路のように入り組んだ防壁内の街を進んでいかなければならない。

 そして眼前の領都へ入る門の前には、元々領都門を守っていたであろう二人の兵士が、魔物ホブゴブリンに変わり果てた今でも、門を守護していた。


「笑えないジョークだ。死人に鞭打つのも、いい加減にしてもらおう!」

「本当に」


 そう叫び駆け出すミアキス姫とバウン伯爵は、対応しようと槍を構えた兵士二人を、何もさせる事なく一撃の元に屠ってみせたのだった。


「さあ、時間は有限だ! 先に進むぞ!」


 ミアキス姫の檄に100人の騎士は声を張り上げ、我先に二人の後を続いていく。



「はあっ!!」


 気合いとともに戦鎚で家の外壁を破壊するバウン伯爵。

 街が迷路のように入り組んでいようとも、それに付き合う義理はこちらには無い。

 次々と襲い来る元住民のゴブリンたちを、ミアキス姫や騎士たちに任せ、バウン伯爵を先頭に最短ルートを進んでいく。


 30分で敵魔族が根城とする領主館にたどり着いた。

 これには敵も驚いたらしく、領主館前門を守護していた元騎士たち二体にも動揺が見られた。


「元騎士……! 確かオーガと呼ばれ、魔物としてはホブゴブリンよりも上位種にあたるんでしたっけ」


 隣のマルゴーさんに尋ねる。


「ええ。ここからが本番です。気を抜いたらあっという間に死にますよ」


 そんな怖がらせないで欲しい。

 ドンッ! と言うデカい砲撃音が耳横を凄い勢いで通り過ぎた。オーガの槍から光弾が放たれたのだ。

 ゾワリと鳥肌を立たせながら横を振り向くと、そこにいたマルゴーさんら数名の騎士が、後方に吹き飛ばされていた。


「マジか……!?」


 呆然とする俺に、


「気を抜くな!」


 と大声で注意を促してきたのは、吹き飛ばされたマルゴーさん自身だった。

 その事にホッとするとともに、気合いを入れ直した所で、オーガの方を振り向いた。

 ドンッ! 物凄い衝撃が俺を襲う。視界が一瞬空を見上げたと思ったら、地面を見ていた。


「ぐあああ……!!」


 その後に全身を襲う猛烈な激痛。マルゴーさんが何か声を掛けているが、何も聴こえない。聴覚をやられたようだ。動こうとしても動けない。手足の骨が折れたらしい。いや、折れたのは全身の骨か。これで生きているのが不思議だ。

 慌てて回復魔法の使い手が俺に魔法を唱えているが、唱えたそばからオーガの光弾で吹き飛ばされた。

 このままでは本当に死ぬ。と思い俺は血反吐を吐き出しながら、「『魔化』」と唱えた。

 するとバキバキ言いながら全身の骨が繋がっていくのが分かる。


「……コーキくん!」


 いきなりマルゴーさんの声が聴こえ出してハッと起き上がる。


「大丈夫なのかい?」


 心配そうなマルゴーさんを横目に俺は自分のステータスを確認した。



ステータス


NAME 加藤 高貴


JOB 風林火山


LV 60


HP 13(3761)


MP 36096(3008)


STR 3864(322)


VIT 4920(410)


AGI 3012(251)


DEX 3588(299)


INT 4452(371)


スキル


謙虚LV72


鑑定魔法LV12


火魔法LV40


風魔法LV33


水魔法LV33


地魔法LV33


スキルキャンセルLV20


魔化LV12


剣術LV15


ユニークスキル


風林火山LV51


状態


瀕死



「瀕死状態だそうですけど、『魔化』で強制バフを掛けたので、何とか下支えしてます」


 3700あったHPが一撃でほぼ0になったんだ。オーガの強さは脅威だ。『謙虚』で少なからず無効化しているはずなのにこれだ。恐らく次に攻撃を食らったらアウトな気が、と思考に集中したのがいけなかった。

 ドンッ! と光弾が俺に直撃する。


「コーキくん!」


 マルゴーさんの悲鳴が聴こえる。


「…………大丈夫みたいです」


 流石強制バフでVITが上がっているだけある。

 とはいえ何度も食らう訳にはいかない。

 俺は剣を抜くとオーガたちへと駆け出し、100人の騎士を相手にするオーガたちの首をはね飛ばす。

 そして俺は気絶した。



 目を覚ますと、ゴブリンたちに囲まれていた。


「気付いたかい!?」


 俺を守るように、20人程の騎士が俺を囲みゴブリンの相手をしている。


「はい! す、すみません!」


 これは起き抜けで寝惚けている場合ではない。と俺も痛い身体に鞭打ち、剣を構える。


「いや良い。起きたのなら移動するよ!」


 マルゴーさんにそう言われ、ゴブリンたちの相手もそこそこに、俺たちは領主館の中へと進んだ。


「俺はどれくらい気絶していたんですか?」

「防壁の門からここに来るまでと同じくらいだよ」


 30分は寝入っていたのか。戦闘中に馬鹿か俺は。


「我々が残ったのは先のオーガとの戦闘で負傷したからだ」


 とバウン領の騎士が答えてくれた。

 成程。門衛のオーガとの戦闘で負傷した者の治療中にゴブリンの襲撃を受けたのか。


「しかし残り80人で魔族に立ち向かうなんて、結構無謀なんじゃ?」

「だから君の回復を待っていたんだ。『魔化』はもう一度使えるね?」


 どうやら期待されているらしい。期待されるとNOと言えない日本人だ。


「頑張ります」


 と答える。本当は全身痛いし、一日に二回も『魔化』を使うのは今回が初めてだが、現実とはいつも準備万端で迎えられるものではないな。

 などと考えている間に、領主館の最奥へとたどり着いた。


 開け放たれた扉の向こうでは、六体の黒い騎士オーガたちとディッキン・バウン合同隊が戦っている。累々と転がるディッキン・バウン合同隊の騎士たち。既に半数が倒されていた。

 しかも居ると思っていた魔族の姿は見られない。


『ちっ! 倒しきれなかったか』


 しかしどこかから魔族の声が聴こえる。それはこの最奥の間から響いていた。


「ぜぃやっ!!」


 オーガの一体に剣を振るうミアキス姫。しかし姫様の一撃は、黒い騎士によって弾き飛ばされてしまった。

 態勢を立て直す姫様に指示を仰ごうと俺たちは駆け寄っていく。


「遅くなりました姫」


 マルゴーさんが声を掛けると、一瞬視線をこちらへ向けるが、直ぐにオーガたちへと戻す。


「いえ、来てくれただけでありがたい」


 ミアキス姫の顔は暗澹あんたんとし、焦燥していた。


「コーキくん! 魔族の居場所は分かりませんか!? ここにいるかと思ったのですが、見当たりません!」


 俺に話し掛けてきたのはバウン伯爵だ。バウン伯爵もかなり疲弊していた。


「俺も正確な位置は分かりませんが、ここにいるのは確かなようです」


 俺の言葉にこの場で戦っていた全員に衝撃が走る。


『ほう。アイツ私の居場所を感知する事も出来るのか』


 感心する魔族の声。


『ふむ。我々と同種の能力と言い、やはり勇者たちより先に倒すべきだな』


 魔族がそう声を発すると、一体の騎士が剣を天に向けて突き上げる。その黒い禍々しい剣の柄に眼球が備わっていた。


「あの剣! あの剣を持つ騎士オーガが魔族です!」


 俺の言葉に全員の視線が黒い剣を持つオーガに集まる。


『ふふ、分かった所で、私までたどり着けるかな?』


 魔族がそう発すると、殺され地に伏していた騎士たちが起き上がる。

 魔族に殺された者は魔物となる。

 殺された騎士たちがオーガとなって俺たちへと襲い掛かってきたのだ。

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