第21話 パスツール砦攻略戦1

「はあ~~~」


 疲弊仕切った俺は、城に与えられた自室のベッドに倒れ込む。


「お疲れ」


 駒場さんが、最近覚えた水魔法で出した水を渡してくれた。それをごくごく飲んでやっと一息吐いた気分だ。


 あの後、八勇者会議にも喚ばれ、更にコンティネンス大陸の四つの国が顔を突き合わせる四国会談にまで喚ばれ、俺はミアキス姫に話した事と同じ事を話す事になった。

 まあ、それだけ俺が掴んだ事実は重要だったと言う事だろう。ただ俺が面倒臭かっただけだ。


 俺は自分の体験した事をありのまま話したのだが、やはりと言うべきか、八勇者も各国もそれを飲み込む事を拒否していた印象だ。

 それはそうかも知れない。向こうにとってはこの大陸全土への侵攻は遊戯で、死をも終わりじゃないかも知れないからだ。

 実際の所、本当に魔族にダメージを与えられるのは、大陸全土で俺だけかも知れないとなると、俺を有するオリエンス聖王国は他三国に対して、アドバンテージを持ったともとれる。

 他国は魔族の侵攻に対して迎え撃つ決め手に欠ける訳だが、メリディエス王国からは早速俺の返還を求める抗議文が送られてきたとか。何ともあの国らしいが、聖王国内でも、他の七勇者が活動する領地から、俺の引き抜き合戦が水面下で始まっているとも聞かされ、俺の所に直接言い寄ってくる者が出始めるのもそう遠くないらしい。



 それでもそんな引き抜き合戦が表面化する事はなく、ディッキン伯爵領での生活は続いていた。

 何故表面化しないのかと言えば、魔族の侵攻に何ら変化が見られなかったからだ。

 俺や駒場さんの予想は大きく外れた訳で、それにはホッと胸を撫で下ろしたが、恐らく怪我人なり下手したら死者まで出ていてもおかしくない魔族側が、何ら手を替えてこない事は、それだけで不気味に感じられた。



「パスツール砦、ですか?」


 ミアキス姫の執務室に呼び出され、提案されたのが、ディッキン伯爵領の南、王都東のバウン伯爵領との領境にあるパスツール砦の攻略であった。


「ああ。今回は領境と言う事もあり、バウン伯爵との共闘になる」


 どうやら俺が参加するのは決定事項のようだ。まあ今までも俺に拒否権など無かったが。


 パスツール砦は過去にパスツール子爵領の領都があった場所らしい。

 子爵領が魔族の侵攻により滅んだ為、パスツール砦は魔族の支配下となり、場所的にもディッキン伯爵領とバウン伯爵領の中間であるため、今まで手を出し辛かったようだ。そのような場所がオリエンス聖王国にはそれなりにあるらしい。

 今回、パスツール砦を攻略した後、元子爵領をどうするか、と言う話がディッキン伯爵領とバウン伯爵との間で、3対7で分割して併合する事に決まったので、パスツール砦の攻略に舵が切られたらしい。


「3対7ですか」


 同じ砦を攻略すると言うのに、取り分に二倍以上の差がある。

 俺の疑問が顔に出ていたのだろう。ミアキス姫の横に立つディッキン伯爵が自嘲気味に教えてくれた。


「恥ずかしながら、我が領は過去の魔族との戦闘で、その戦力を半減させていてな。今新たに領地を獲得しても手が回りきらないのだよ」


 成程。そう言えばこっちに着いてから最初の戦闘で、ミアキス姫がそんな事を言っていたような気もする。


「今回は二領の総力戦になる」


 とミアキス姫。となるとバウン伯爵領からはこちらの倍の人数が戦場に出されるのか。取り分が倍以上になるのも納得だ。


「タケゾー頼んだぞ」

「分かっている任せておけ」


 ミアキス姫の視線は、俺ではなく横の駒場さんに向けられていた。

 駒場さんはこちらに来てから何度か経験した魔族との戦闘で、その高い戦闘センスと現場の指揮能力の有能さをミアキス姫に認められていた。流石エリートは違う。

 俺はと言えば、『風林火山』による全体バフや、『魔化』による強化があるにしても、俺個人はレベルに対してステータスが低い。戦闘においてお荷物になることが多かった。

 俺としてもそのままで良いとは思っていなかったので、魔法スキルを強化してみたり、城の練兵場で騎士や兵士に剣術を教わり、剣術スキルを獲得してみたりしたのだが、まあ、素人に毛が生えたような代物だ。どうやら俺は根本的に戦闘に向いてない気がする。

 それでもやるしかないのが辛い所だ。魔族に真にダメージを与えられるのも俺しかいないのだから。



 パスツール砦攻略戦は、ディッキン・バウン合同隊を三隊に分け、その内の二隊が砦を挟撃。釣られて出てきた魔物たちが砦から遠ざかって手薄になった砦に、転移魔法で俺たち本隊が奇襲を仕掛ける手筈になっている。


「ふう」


 そしてまずやらねばならないのは、俺による『風林火山』の全体バフだ。

 その為、俺は砦を取り囲む二隊の所に転移魔法の使い手とともに飛び、『風林火山』を掛けて今本隊に戻ってきた。

 あとは本隊に『風林火山』を掛けた所で作戦が決行される。


「ご苦労様」


 戻ってきた俺に労いの言葉を掛けてくれたのは、バウン伯爵であった。

 生まれついての白髪を腰まで伸ばした妙齢の女性であるバウン伯爵は、とても柔和な印象を与える容姿振る舞いだが、担いでいるのが巨大な戦鎚ウォーハンマーであり、歴とした八勇者の一人でもある。


「いやぁ、まだこれから大仕事もありますから」


 バウン伯爵の朗らかな笑顔に癒されるが、今は気を抜いて良い場面ではない。と気合いを入れ直す。


「コーキくん。直ぐにいけますか?」


 と尋ねてくるミアキス姫に首肯した俺は、本隊100人に向かって『風林火山』を唱えた。100人に薄ら霧がかかる。


「こちらの準備も整いました」


 ミアキス姫が残る二隊に通信魔法で連絡すると、遠くこちらまで聴こえてくる戦士たちの鬨の声。パスツール砦攻略戦が始まった。

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