第17話 二度目の異世界転移ってアリ?
「げっ」
セルルカ姫を見た瞬間、思わずそんな言葉が口を出て、慌てて口を両手で押さえたが、姫様のこめかみがピクピクしている。
「あはははは。すみません」
「…………」
「あのう、何かご用でしょうか?」
手揉みしそうな勢いで下手に出る。
「用がなければこのような場所へ来ませんわ」
ですよねえ。いきなり怒らせてしまった。さて、どうしたものか。と思案していると、セルルカ姫の後ろに控えていた美少女が、取りなしてくれた。
「セルルカ姫、こちらとしては本題に入りたいのだが」
「はあ。でしたわね。コーキさん、用があるのは私ではなく、こちらのお方です。こちらは東のオリエンス聖王国のミアキスですわ」
紹介された美少女は紫の髪をした紫の瞳の女の子で、その美貌に似合わず鎧を着込み、腰に帯剣までしている。よく警察から職質掛けられなかった。
そんな事を思っていると、ミアキスさんは俺に一礼して自己紹介してくれた。
「オリエンス聖王国八勇者の一人、ミアキス・ルイ・オリエンスと申します」
「オリエンスって名前に付いてるって事は……」
「ミアキスはオリエンスの王女の一人ですわ。皆からは勇者姫なんて呼ばれてますわね」
勇者姫。やっぱり
「それで、何ですか? 俺は勇者じゃないんですけど」
警戒して口調が硬くなるが、まあ十中八九付いてこいって事だろう。
「それは聞き及んでいる。だが我々オリエンスの戦法はメリディエスよりも大人数での集団戦でね。味方にバフを掛けられるコーキくんは、我々オリエンスとしては喉から手が出る程欲しい人材だったんだ。それでセルルカ姫に無理を承知で頼んだんだ」
成程。頼られたのを素直に喜ぶべきなのか、いや、国中探したら一人か二人出てくるんじゃね? って感想半々だな。
「さあ、事情は分かりましたわね。行きますわよ」
またいきなりか。と思った所に、
「ちょっとお待ち下さい」
待ったが掛かる。五百蔵さんだ。
「あなた誰ですの?」
セルルカ姫が胡散臭いモノを見る目で五百蔵さんを見遣る。いや、この国ではそちらの方が胡散臭いから。
「日本国政府の者です」
「ふ~ん」と改めて五百蔵さんを上から下まで見遣るセルルカ姫。
「それで? 政府の方が何かご用かしら?」
あくまでも強気なセルルカ姫に、しかし五百蔵さんも負けていない。
「当然です。今目の前で我が国民が拉致されようとしているのですよ? 政府の人間として看過出来ません」
「拉致とは穏やかではありませんね。私たちはコーキさんにお力をお借りするだけですわ」
五百蔵さんの「拉致」という言葉にも動じず、あくまで不遜なセルルカ姫。
「例えあなた方がそのようなお考えであったとしても、加藤くんは戦場に送り込まれるんですよね? 未成年者を本人の意思と関係なく異国の戦場にかり出すなんて、非常識ではないですか?」
「未成年……。コーキさんおいくつ?」
話がこっちに向いた。
「もうすぐ17ですけど?」
「なら立派に成人じゃないですか」
「いえ、我が国では20歳、少なくとも18歳にならなければ成人とは認められておりません」
「一年待て、と? その間にオリエンスが魔族の侵攻によって滅んだら、あなたに責任取れるのですか?」
「な? アイテールの事なんですから、アイテール人で決着を着けて下さい。地球人、日本人を巻き込まないで下さい」
「……はあ。あなたとの問答、とても疲れるわ」
そう言ってセルルカ姫は五百蔵さんに向けて手を翳す。
「お、お待ち下さい!」
慌てて二人の間に入る俺。
「五百蔵さん落ち着いて。『二人は俺よりレベルが高い』」
この言葉で今日一日俺の能力測定に付き合っていた五百蔵さんの警戒心が強くなり、口をつぐんだ。次はセルルカ姫。
「セルルカ姫も冷静になって下さい。ここで
「くっ、…………ふん。ここでの事など分からないわ」
「鑑定魔法で真贋を問われても?」
「…………」
どうやらそれは流石に不味いみたいだ。
次に俺はミアキス姫と向き合う。
「ミアキス姫。どうしても俺のスキルが必要ですか」
ミアキス姫は即座に頷き返してきた。恐らくここに来るまでに色々考えての結果、今に至っているのだろう。なら、
「俺はオリエンスに同行する事に異議を唱えません」
「加藤くん!?」
それに五百蔵さんが動揺して声を上げる。
「五百蔵さん、俺は馬鹿だからこの状況を丸く納めるのにこれ以外の方法が見付かりません」
満足そうなセルルカ姫と対照的に、五百蔵さんは悔しそうだ。
「では行きましょうか?」
と手を差し出してくるセルルカ姫。しかし俺がその手を取ろうとしない事に首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「……条件があります」
と俺が言うなり、またセルルカ姫のこめかみがピクピクしている。きっと王族に条件を提示する事自体不敬なんだろうなあ。
何か言い返そうとするセルルカ姫を、ミアキス姫が制する。
「条件を聞こう」
セルルカ姫が驚いてる。
「ミアキス、王族が平民の条件を聞くなんて、聞いたことがありません。付け上がらせるだけですわ」
「だが彼は自国民ではなく、こちらはお願いをする立場だ。条件ぐらい聞いても罰は当たらないだろう」
ミアキス姫の説得で渋々引き下がるセルルカ姫。
「それで、条件とは?」
「同行者を許可して下さい」
一瞬驚くミアキス姫だったが、それを願い出るのは当然と思ったのだろう。
「セルルカ姫、あと何人までなら転移魔法で運べる?」
不機嫌なセルルカ姫に尋ねてくれた。
「一人です。それ以上は認めません」
指を一本立てて答えるセルルカ姫。
「だ、そうです五百蔵さん」
「直ぐに政府に連絡します」
とスマホを取り出し電話を掛ける五百蔵さん。
「日暮れまでです。そんなには待てないわよ」
時間指定してくるセルルカ姫。もう夕方だ。そんなに時間は無い。
五百蔵さんが慌てて電話先と協議していると、
「俺が行きます」
そう声を発したのは、車の運転手をしてくれている男性だった。
「駒場くん……」
普段五百蔵さんの影に隠れて存在感の薄い男性の主張に、一瞬棒立ちになった五百蔵さんだったが、直ぐに気を取り直し、この男性をアイテールに行かせる方向で電話先と協議を再開する。
日が落ち夜の闇が空を支配する。
「では、その方がコーキさんの同行者で良いのですね?」
セルルカ姫に再度尋ねられ、五百蔵さんは首肯した。
「宜しくお願いします」
これから長い付き合いになるだろう男性に手を差し出す。
「
そう言って駒場さんは握手を返してくれた。
「では行きますわよ。私に触れてください」
セルルカ姫にそう促され、俺、駒場さん、ミアキス姫がセルルカ姫の肩に触れると、辺りが光に包まれ、俺たちをアイテールへと転移させるのだった。
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