第10話 自然? 全体? 自然体?
「な、何でしたJOB?」
王城の部屋に戻って早々、セルルカ姫にべったり抱き付かれている勇気くんに尋ねられた。う、羨ましくなんてないんだからね!
「『風林火山』だって」
「……は?」
「『風林火山』」
「……それって、あれですよね? 武田信玄の旗に書かれてる」
「それ」
「そ、それって職業なんですか?」
俺に聞かれても困る。二人首を傾げていると、
「あら、コーキさんは自然操作系の魔術師だったのですね」
セルルカ姫は当然のようにその言葉を口にした。
「し、自然操作系? ですか?」
俺に説明を求める勇気くん。
「らしい。王子たちも同じ事を言ってたし。職業で自然の名称が附されると、その系統の魔術が使える証左のようだ」
俺はゼイラス王子から聞き齧った情報を伝える。
「しかも4つも自然の名が入っているなんて凄い事ですわ。普通は一つ。有っても2つですから」
とセルルカ姫が付け足してくれた。
「ゆ、ユニークスキルも獲得したんですよね?」
と勇気くん。
「ああ」
「な、何でした?」
「……ご想像の通り、『風林火山』だったよ」
「ち、因みに説明文は?」
「
「……まんま風林火山ですね」
「ああ。これじゃどんなにスキルなのか分かりゃしない」
二人顔を付き合わせていると、
「使って見ればよろしいのでは?」
勇気くんの腕に抱き付いたままの姫様が軽く言ってくる。どうやら勇気くんとの二人の時間を邪魔されて、少々ご機嫌斜めのようだ。
「……はあ。じゃあ早速練兵場に行ってみます」
姫様の出ていけオーラから、気を使って部屋を出ていこうとする俺に、
「だ、だったら僕も付き合いますよ」
と勇気くんの飛んでも発言。姫様の視線が痛いが、俺を睨まれても困る。この状況でこの発言が出来る勇気くんが凄いのだ。狙って言ったのかは分からないが。
「そんなこんなで三人で練兵場にやって来ました」
「そんなこんなと言われてもな」
王子に説明を求められ、そのように説明したのだが、自身の妹が男と腕を組んでいる姿に、王子がげんなりしている。
「姫様、公の場でそのような姿を見せるのはお控え下さい」
ビッシュさんが窘めてる。
「はーい」
窘められて勇気くんから手を離す姫様。しかし顔は不満そうだ。一方勇気くんはホッとしていた。
「で、魔法を試したいんだったな」
話が俺に戻った。
「そうです。どう使えばいいんでしょう?」
「ステータス画面には風魔法や火魔法の表記は無いのか?」
「ありません」
俺がそう答えると首を傾げられてしまった。どうやら普通は自然魔法のユニークスキルが附くと、附随してその系統の自然魔法のスキルを覚えるようだ。
「取り敢えず『風林火山』と唱えてみろ」
そう言った王子と、練兵場にいた騎士や兵士たちが練兵場から避難していく。え? ちょっと寂しいんだけど。
見れば勇気くんとセルルカ姫まで避難している。じゃあ付いてくるなよ。
俺は気を取り直して広い練兵場に視線を向ける。
「『風林火山』!」
何も無い空間に向かってユニークスキル『風林火山』を唱える。
……が何も起こらなかった。
「何も起きなかったな」
いつの間に近くまで来たのか、俺の横でゼイラス王子がつまらなそうな顔をしていた。
「なんか、すみません」
「? 何故謝る?」
確かに。自分が悪いことをした訳じゃないのに、期待に応えられなかったからって直ぐ謝るのは、日本人の悪癖だ。
「まあ、いきなりユニークスキルの全貌が理解出来るはずもない。気長とはいかないが、焦らず行こう」
王子にそう言われ心が軽くなる。今度自然魔法の魔導書を読ませて、俺に魔法を覚えさせてくれるそうだ。ありがたい。
「よし、お前たち訓練の再開だ!」
ゼイラス王子の号令で、兵士たちが訓練を再開する。ギンギンッと打ち鳴らされる剣や槍の交差する音。
そして直ぐ様全員が首を傾げる。
「? どうかしたんですか?」
「いや、さっきより調子が良くなっているので」
へぇ、そうなのか。普段を知らないので何とも言えないが、皆が一様に頷いているので、そうなのだろう。
そこへ勇気くんが恐る恐る手を上げる。
「あ、あの~、も、もしかしたら、高貴さんのスキルのせいかもしれません」
なんだと!? と皆の視線が勇気くんに集まる。ビクッとする勇気くん。その勇気くんを庇うように一歩前に立つセルルカ姫。それに怯む兵士たち。なんだこの構図。
「それはどういう事だ?」
ゼイラス王子に説明を求められ、ビクビクしながらも勇気くんは口を開く。
「こ、高貴さんのユニークスキル『風林火山』ですけど、ぼ、僕らの国では昔の武将が軍の在り方として、は、旗に掲げていたと言われているんです」
「成程。だからユニークスキルの性能も、軍全体にバフを掛けるものだと?」
こくりと頷く勇気くん。大丈夫怖くないからね~。
「有益ですね」
ガロンさんが王子に耳打ちし、王子も頷いている。二人が俺を見る目が怖い。どうやら俺はまた戦場に赴く理由を知らず知らずに付け足してしまっていたようだ。
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