第9話 職業選択の自由

「こ、高貴さんのJOBって何ですか?」


 同年代に『さん付け』されるのは変な気分だ。


職業ジョブ? いや、普通に学生だけど?」


 質問の意味を図りかねて首を傾げると、勇気くんも首を傾げる。


「いや、あの、ステータス画面にJOBって表示されるじゃないですか」


 え? 勇気くんにそう言われ、俺は自分のステータス画面を開く。



ステータス


NAME 加藤 高貴


LV 31


HP 892


MP 750


STR 89


VIT 120


AGI 63


DEX 81


INT 105


スキル


謙虚LV32


鑑定魔法LV5



 どこにもJOBなんて項目は無い。俺が首を横に振ると、勇気くんがまた首を傾げる。


「お、おかしいですね?」

「勇気くんのJOBは……」


 やっぱり勇者なのだろう。


「……『選ばれし救世の勇者』です」


 中々の二つ名が付けられていた。顔を真っ赤にしているので相当恥ずかしいのだろう。


「ぼ、僕の事はいいんですよ。高貴さんがJOB無しなのはおかしくないですか?」


 いや、地球の日本に生まれて、『選ばれし救世の勇者』なんてJOBを持ってる方がおかしいだろ。


 二人で首を傾げている所に、ゼイラス王子登場。

 勇気くんを見て一瞬顔をしかめる。いや、二人部屋なんだからそりゃ居るよ。


「なんか二人で難しそうな顔をしていたが、どうかしたのか?」


 との王子の問いに、自分にJOBが無い事を説明する。


「え? コーキJOBが無いのか?」


 王子も後ろに控える二人の騎士も、あまりに意外だったのだろう、目を丸くしている。


「JOBが無いって、そんなにおかしな事なんですか?」


 分からない事は素直に聞く。の精神で王子に尋ねる。


「無いのはまだ神殿で職選の儀を受けていない子供だけだ」


 職選の儀ってなんだ? 俺と勇気くんが首を傾げると、釣られて王子たち三人も首を傾げる。


「もしかして、地球には職選の儀が無いのか?」


 王子の問いに首肯する俺と勇気くん。


「馬鹿な!? じゃあどうやって職に就くんだ!?」


 相当驚いたらしく、椅子から立ち上がる王子。そこまで驚く事なのか?


「国や職業にもよりますけど、日本では職業選択の自由が認められてますから」

「なんだそりゃ!? じゃあ、全員が王様になれてしまうじゃないか!?」


 ある意味全員が自分自身の王様ではあるけど。


「国民全員が王様になっても、納税者がいなければ漏れ無く全員飢え死ですよ」

「……それはそうか」


 どうやら自分がかなり頓珍漢な事を言っていた事に気付いたらしく、ゼイラス王子は冷静になって椅子に座り直す。


「そう言えば王子はなんて職業なんですか?」


 話が一段落した所で俺は王子に話を振る。


「私か? 私は『豊穣なる大地の王を継ぐ者』だ」


 こちらも中々の二つ名だ。


「王を継ぐ者とありますけど、王様になったらJOBが変わるんですか?」

「ああ。最初のJOBから変化する事はままある」


 そうなのか。しかしこうなると騎士二人のJOBも気になってくる。

 俺が期待の眼差しで二人をちらりと見遣ると、恥ずかしげなく教えてくれた。

 ガロンさんが『炎々にして豪勇なる剣』。ビッシュさんが『雷雲を運びし銀穹』。

 凄い二つ名ばかりが並ぶ。何でもJOBはその人唯一無二のものらしく、この世界アイテールに同じJOBを持つ人間は二人といないらしい。

 更にJOBに就く事で、そのJOB特有のユニークスキルが覚えられるなど、JOBとはお得なものらしい。


「と言う事だ。コーキ、神殿に行くぞ!」


 まあ、こういう流れになるよなあ。



「ここが神殿ですか」


 神殿は城下町の一角にドデンとそそり立っていた。かなり大きく、豪奢で細部にまでこだわりが感じられる造りだ。王城が質実剛健なのとどこか対象な印象がある。

 因みに勇気くんは来ていない。来たがっていたが、セルルカ姫に途中で捕まってしまったからだ。


「これはゼイラス王子。ようこそお出で下さいました」


 出迎えてくれたのは神殿長なる神殿のお偉いさんだ。禿頭とくとうで長い髭を生やしている。

 神殿が派手だから、神殿勤めの神官たちも派手かと思ったら、黄色い布服で質素な印象だった。


「今日はどのようなご用件でしょうか?」


 一国の王子が冷やかしで神殿に来るわけがない。何事か? と神殿長が緊張しているのが分かる。


「ああ、ここにいるコーキに職選の儀を受けさせてやってくれ」

「職選の儀を、ですか?」


 恐らく初めて見る黒髪黒瞳の自分訝しがる神殿長。まあ、職選の儀を受けるのは子供らしいからな、俺ぐらいの年齢で受けるのは珍しいんだろう。


「詳しい事は省くが王家の客人だ。訳あって今まで職選の儀を受けずにこれまで生きてきたのだ」

「……はあ、そうでごさいますか」


 王子に詳しい事は省くと言われて、それ以上突っ込んで話を聞けない神殿長は、生返事をした後に、部下の神官たちに指示を出し職選の儀の準備を進めてくれた。



「この聖典に血を捧げてください」


 職選の儀の準備が出来た神殿長から、いきなり物騒な文句が飛び出した。

 聖典とは言うが本の形ではなく石板だ。


「ち、血ですか?」


 神殿長はまるで当然のようにナイフを俺に差し出してくる。

 俺はナイフを受け取る事なく王子たち三人を振り返るが、三人は何も言わず頷いているだけだ。どうやら本当に血が必要らしい。

 俺は何度か王子たちと神殿長を交互に見た後、観念して神殿長からナイフを受け取った。


 ゴクリと自分の唾を飲む音が煩い。俺は意を決して腕をナイフで傷付ける。


「馬鹿! 何やってるんだ!? 指先をちょっとでいいんだよ!」


 と慌てて王子が声を掛けてくれたが後の祭りだ。大量の血がダラダラと石板で出来た聖典に滴り落ちていく。

 王子が直ぐに近寄って来て回復魔法を唱えてくれ、血は直ぐに止まった。


「まったく、何やってるんだ!」


 王子に叱られた。初めてで勝手が分からないんだから、しょうがないと笑って見過ごして欲しかった。


「で、神殿長、コーキのJOBはなんだったんだ?」


 呆気にとられていた神殿長が、慌てて石板に目を通す。


「え~、コーキさんのJOBは……『風林火山』だそうです」


 それって職業なのか?

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