第8話 勇者登場!?
「流石はお兄様。見抜かれていましたか」
セルルカ姫が嬉しそうに破顔する。対してゼイラス王子は、少し複雑そうな顔をしている。
「まあな。ダンジョンマスターを一撃で屠るなど、我が国では剣聖と大賢者ぐらいしか出来なかった所業だ。他国から援軍が来るとは聞き及んでいなかったからな。残る可能性を考えると……」
「流石ですお兄様! 説得には苦労致しましたが、その実力は剣聖様や大賢者様にも劣りません! 剣術に槍術や斧術などの武術系に、全属性の魔法スキルを擁し、LV1にしてダンジョンマスターを退治せしめた我らが待ち望んだ英雄! 彼こそがその勇者なのです!」
キラキラと輝く笑顔と他者を圧倒する熱量で勇者を語った姫様は、さあ出番ですよ、とでも言うように自身の後ろを振り返るが、そこには誰かいる訳ではなく、がらんどうとした廊下が続いているだけだ。
「…………何をしているんだ?」
王子に続き皆で首を傾げる。
「あ、あれ? 勇者様? 勇者様~?」
糸の切れた凧のようにふらふらと勇者を探し出す姫様。いや、柱の陰とかに隠れる勇者ってどうなんだ?
「いた!」
いるのかよ! 見れば向こうの柱の陰から、こちらの様子を窺っている人影が何とか視認出来た。
と思ったら人影は俺たちが気付いた事に気付き、その場から一目散に逃げ出す。それをスカートの裾を掴んで全力疾走で追い掛けるセルルカ姫。
「私たちは何を見せられているんだ?」
王子がボヤくのも然もありなんといった感じで、一同頷くしかなかった。
「……はあはあ。失礼しました。彼こそが! 我らが勇者様! サトー・ユーキ様ですわ!」
姫様に首根っこ掴まれて引き摺られて再登場した勇者は、まるで生まれたてのチワワのようにぷるぷるしている。
名前しかり黒髪黒瞳の学生服を着たその姿しかり、異世界人からしたら似ているのかな? とも思わせる。俺はあんなに怯えてないけど。
「さ、ユーキ様。こちらが我が兄、ゼイラスですわ」
姫の後ろに隠れるようにビクついている勇者様を、無理矢理自身の前に押し出す姫様。右を見ても左を見ても味方がいない状況に、観念した勇者が自己紹介をする。
「さ、佐藤 勇気です」
声が裏返っている。
「お前が本物の勇者か?」
王子が疑わしそうに詰問すると、
「い、いえ! 勇者だなんてそんな烏滸がましい! ぼ、僕なんてホント、人類の中でも最底辺に位置するような、塵芥です!」
随分自分の事を卑下する人だな。
その自己紹介に嘆息して王子が姫様の方を見遣る。目が本当にコイツが勇者なのか? と語っていた。
「謙遜ですわお兄様。勇者様の持っているスキルに『謙虚』と言うものがあるのです」
そう胸を張る姫様に、驚く一同。
「外見に名前がサトー・ユーキにカトー・コーキ。そしてスキル『謙虚』か。間違えて連れてこられたのも納得だな」
ゼイラス王子一行の視線が俺に集中する。
「どういう事です? ……あなたは!」
と事情を知らないセルルカ姫が首を傾げこちらを見遣り、俺の存在に今気付いたようだ。
「どうも」
会釈をすると、
「何故いるのですか!?」
逆に驚かれてしまった。
「おいおい、自分がメリディエスに置き去りにしていったんだろう?」
ゼイラス王子の指摘に更に驚くセルルカ姫。更にこれまでの事情を聞いて反省の色を見せる。
「そ、そうでしたの。それは苦労をお掛けしました」
素直に反省の弁を口にしてくれたので、こちらとしてはこれ以上追及する事はない。
「いえ、ちょっと人生ヤバい事にはなりかけましたけど、こうして生きていますし、地球に還してくれるなら……」
俺がそこまで言った時だった。両手をそれぞれ違う人物から掴まれる。一人は勇者ユーキ。もう一人はゼイラス王子だ。
「な、何か?」
嫌な予感に手を振り払いたいが、どちらもSTR(筋力)が俺より強いようで、振りほどけない。
「に、日本人の方ですよね!? 助けて下さい! む、無理矢理日本からこちらに連れてこられたんです!」
「コーキ、こんな意思疎通の難しそうな奴だけ置いて、どこに行こうと言うんだ?」
二人の目が俺を逃がさないぞ! とロックオンしている。
「ですよね~」
ここで二人を振り払う事は、俺には物理的にも精神的にも無理な話だった。
「ひっぐ、良かったです。高貴さんが
この一週間がどれ程の恐怖だったか、勇気くんは泣きながら切々と語ってくれた。
俺たちが今居るのは、俺と勇気くんの二人部屋だ。
勇気くんが俺との二人部屋じゃなきゃ嫌だと駄々をこねたので、俺は今まで使っていた部屋からこちら部屋へ王城内でお引っ越しした。
「しかも連れてこられたらこられたでいきなり実戦投入されるし」
「ああ、あれか。驚いたし、助かったよ。あのままだったら俺たち全滅していたかも知れないからね」
俺が礼を言うと何故か青ざめてうつむく勇気くん。
「どうかしたの?」
「…………あの、ごめんなさい!」
いきなり謝られても意味が分からない。
「どうしたのホントに?」
俺は首を傾げて二の句を待つ。
「あの時、本当はもう村の入り口まで辿り着いていたんです。でもここからダンジョンだと思うと足がすくんで動けなくって……。皆さんが防戦一方な事も見えていたのに、あんな……。銃も恐怖で思わず引き金を引いたらたまたま命中しただけで、僕、全然凄くないんです!」
「……いや凄いだろ」
村の入り口からダンジョンマスターがいたところまで下手すりゃ1㎞ぐらいあったぞ。そこからダンジョンマスターに命中させるなんて、
俺は彼がやったことがどれ程凄いのか説明したが勇気くんは益々恐縮するばかり。
「でも、前線に立てないなんて、やっぱり僕は勇者じゃないと思います」
どこまで行っても謙虚で謙遜し己を卑下する勇気くん。その卑屈さに先にこちらが滅入りそうだった。
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