第4話 鑑定魔法と道行き

「アイ痛ダダダダダダ……!!」


 ゼイラス王子の側近、銀髪の騎士ビッシュさんとプロレスのようにがっぷり四つに両手を組み、そこから電撃を身体中に流し込まれている最中だ。

 何故こんな事をされているのか、自分でも分からない。いや、原因りゆうは分かっている。俺のスキル『謙虚』のせいだ。


 当初1日、2日でセルルカ姫が勇者を連れてきて、俺はお払い箱で地球に帰還出来るものと、俺だけでなく皆が思っていた。事実俺は姫が地球に行ってから半日で見付けられて召喚されたらしい。

 そんなものだから、俺のお客様扱いは日に日に雑になっていった。皆、俺なんかに構っていられないからだ。

 そんな中でも俺に声を掛けてくる人物がいる。ゼイラス王子だ。

 しかし、当初は地球の話で盛り上がっていた関係も、1週間も経過すれば話題も尽きてくる。そこで話題が地球や日本の話から、俺個人に移行した。

 そもそも『謙虚』とは何だ? という話になった。

 謙虚と言えば控えめで慎ましい事であるが、ここで取り上げられているのはスキルとしての『謙虚』だ。

 どんな能力なのかまるで分からない。そんなスキルを持つ者が目の前にいれば、興味を示すのも当然だろう。

 謁見の間で俺に使われた水晶球では、俺のスキルが『謙虚』である事しか分からなかった。

 対象の細かい情報を得るには、鑑定魔法のレベルを上げなければならないらしいのだが、この国でその第一人者だったのは、先の戦闘で亡くなった大賢者だったらしい。

 そんな訳で、俺の『謙虚』がどんなスキルなのか、誰にも分からないのだ。


 しかしそれは簡単に覆す事が可能だった。俺自身が鑑定魔法を覚えれば良いのだ。

 俺が鑑定魔法を覚えれば、LV1で自分のステータスを確認できるらしい。この魔法、便利なのでほぼ全ての人間が覚えているそうだ。それはそうだろう、と俺でも思う。だからって、何故俺は今、ビッシュさんに電気を流されているのだ!?


「電気とともに魔力を流しているのだ。これで魔力を活性化させ、MPを使用する魔法系のスキルも使用出来るようになる」


 そういうものなのか? いや、なんかビッシュさんが暗い笑みを浮かべているように見えるんだけど?


「気のせいだ」


 思っていた事が顔に表れていたらしい。



 10分程だったが、地獄を見た気分だ。


「これで、どうやって鑑定魔法が使えるようになるんですか?」

「この、魔導書を読めば覚えられる」


 ゼイラス王子が、俺が電撃を受けている間に赤茶髪の騎士ガロンさんに取りに行かせていた魔導書を俺に差し出した。重厚なハードカバーの本だ。


「え? 魔導書で魔法を覚えるなら、さっき魔力を流されたのは何だったんですか?」


 痛い思いをしただけ損した気分だ。


「言ったろ? 魔力を活性化させる必要があったんだよ」


 …………まあ、そういう事にしておこう。

 これ以上は無駄な言い合いになりそうなので、俺は渋々王子から魔導書を受け取り、パラリと魔導書をめくってみる。


「…………読めません」


 魔導書の中身は読めない文字記号が羅列されているばかりで、これをどうやって解読しろというのか? 異世界人の俺には難し過ぎる難題だ。


「はっはっはっ、だろうな。私も読めない」


 とゼイラス王子が笑って語る。固まる俺。浮かぶ疑問。じゃあどうやって皆魔法を覚えているんだ?


「そもそもこの記号の羅列に意味は無いんだ」

「はあ」

「魔導書と言うのは、その本を最初から最後まで目を通す事によって、魔法を習得出来るように封印魔法によって付与されている魔導具だからな」

「はあ」

「まあ、最後まで読んでみれば分かる」


 そう言って王子に薦められるまま、俺は訳の分からない記号の羅列された魔導書を最初から最後まで、一字一句洩らさぬように読み進めていった。



「……ふう」


 魔導書を読み終え本を閉じると、魔導書が光だし、その光が俺の上から降り注ぐ。


「うむ。完了したようだな。ステータスと唱えてみよ」


 本当にこれで魔法を覚えられたのか、半信半疑ながらも魔法を唱える高揚感にちょっとドキドキする自分がいる。


「ステータス」


 そう唱えると、俺の眼前、空中に半透明のステータス画面が出現した。


「うおっ!?」


 すぐ目の前にいきなり出現したステータス画面に思わず声を上げると、その向こうの三人から失笑が洩れる。


「どうやらステータス画面は見られたみたいだな」

「あ、はい」


 顔が火照るのを感じながら首肯する。


「で? どうなってる?」


 ゼイラス王子に促され、俺は自分のステータスを確認した。



ステータス


NAME 加藤 高貴


LV 10


HP 150


MP 119


STR 20


VIT 30


AGI 15


DEX 20


INT 25


スキル


謙虚LV10


鑑定魔法LV1



 確かに鑑定魔法が増えているが、スキルについて細かな説明は表記されていない。

 俺がその事をどう切り出そうか思案していると、


「細かな説明を見たい時は見たい所を触れるんだよ」


 と王子が教えてくれた。成程。

 空中に浮かぶステータス画面の『謙虚』に指で触れると、その下に説明文のウインドウが現れる。



『謙虚』


謙虚な姿勢でいる限り、経験値大幅UP。また謙虚な姿勢でいる限り、敵の攻撃をその謙虚な姿勢によっていなす。


経験値2倍

全物理攻撃10%無効

全魔法攻撃10%無効



「だ、そうです」


 俺の『謙虚』の説明に黙り込む三人。これは、スキルとしてはどれくらい優秀なのだろうか?

 経験値2倍は良さそうだけど、全物理攻撃に全魔法攻撃の10%無効は分からない。実際、ビッシュさんに電気を流されて痛かったし。そもそも、謙虚な姿勢って説明されても「ん?」って感じだ。


「……いや、かなり凄いな」


 大分溜めてからゼイラス王子が口を開き、側近の二人が強く頷いている。


「今、『謙虚』はLV10なんだよな?」

「はい」

「それで10%無効と言うことは、恐らくLV=%なんだろう」


 成程。つまりレベルが上がっていく程攻撃も無効化出来る上限が上がっていく、と。LV50なら50%無効、LV100なら100%無効。そう言われると鍛えれば無敵かもしれない。ただし、


「ステータスのレベルにしろ、スキルのレベルにしろ、そもそもLV100まで上がるんですか?」


 LV100まで上がって、全攻撃無効なんてなったら、メリディエス王国からしても、魔族からしても、反則級の盾の出来上がりである。そうすると、そうそう地球に帰して貰えなくなるかもしれない。

 俺の疑問質問に三人が顔を合わせる。


「「「場合による」」」


 三人答えが揃ったな。


「場合……ですか?」


 俺の疑問に王子が代表して答えてくれる。


「ステータスレベルにしろ、スキルレベルにしろ、LV100を超える者はざらにいる」


 ざらにいるんだ。


「でも、100を超えない人もいるんですよね? 何がそれを分けているんですか?」

「スキルの数だ。スキル取得を少なく抑えれば、その分スキルレベルを上げられる。様々なスキルを覚えれば覚える程、スキルレベルの上限が下がるんだ」


 成程。スキルを沢山覚えると、器用貧乏になるのか。ゼイラス王子が雷魔法を使えない理由はそれか。王子がどんなスキルを持っているのか知らないけど、雷魔法を覚えるとスキルレベルの上限が下がるから覚えてないんだな。


「じゃあ、この世界(アイテール)の人間は皆一点豪華主義な感じなんですね」

「そう思うだろ?」


 違うのか?


「この世界にはスキルを2つや3つ覚えないと発現しない、特殊スキルと言うものがあってな。それが強力な為に、また、まだ見ぬスキルを求めて、様々なスキルを取得する輩が一定数存在するんだ」


 へぇ、どの世界にも物好きっているもんなんだなあ。


「ところでコーキ。お前の今後の処遇について、話し合いの場を設けたいのだが、どうだろう?」

「え~と、拒否権は……」


 そこまで言って、騎士二人に睨まれた。


「……はい。了解しました」


 俺に従う以外の選択肢は、初めから用意されていなかった。

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