第3話 現代人にとってスマホの充電は大事
俺が召喚された異世界は、アイテールと言うそうだ。
国の名前はメリディエスと言い、コンティネンス大陸を東西南北に分割する4つの国のうち、南を治めているそうだ。
成程、と言うことは他の3つの国と戦争をしているのかというと、そうじゃないらしい。
戦っているのは魔族と呼ばれる
魔族はアイテールじゃない異世界からアイテールに侵攻し、このコンティネンス大陸中で戦火を巻き起こしているそうだ。
魔族の目的が、このアイテールの支配なのか、滅亡なのか、今の所判然としないそうだが、世界に害意があるのは確かなようで、4国は時に共闘してこの事態に望んでいるらしい。
しかし戦線は芳しくなく、大陸の各所一部は魔族の支配下に落ちてしまったそうだ。
ここにきて4国は更なる戦力の増強が必要と思い知らされ、各国は独自の戦力増強策を打ち出す。
そして南のメリディエス王国が打ち出した策が、勇者召喚であった。
異世界からやって来た魔族に対して、こちらも異世界から勇者を喚び出す、何とも手前勝手な策だが、先の戦闘によって最高戦力であった大賢者と剣聖を失っていたメリディエス王国では、早急に強力な戦力を補強する必要性があったらしい。
そこで高度な転移魔法の使い手であるセルルカ姫が、異世界地球にやって来た訳だが、見事に人間違いをして俺が召喚されてしまったという顛末だ。
そんな話を
そんな訳で、翌日早朝から俺は王子に「スマホを譲ってくれ」と金貨をチラつかされている。
流石にスマホを譲渡してしまったら、日本に戻った時に不便かと思ったが、然程学友とスマホで連絡取り合ったりしていないな。と残念な事を思い出し、家族となら直に面と向き合って話すし、あげてもいいんじゃないか? と思い直し、金貨10枚で俺のスマホをゼイラス王子に譲渡する事にした。
そして今、丁度昼時だが、スマホの充電が失くなり、王子がアワアワしている。
そして俺の首に突き付けられる王子のお供をしている二人の騎士の剣。銃剣のように引き金が付いているので剣と呼称していいのか疑問だが。今はそれどころではない。
王子側、というより側近二人の言い分として、壊れる寸前の安物を掴ませたな、と言うことらしい。
俺からしたら王子がずうっとスマホをいじっていたのだから、そりゃ直ぐに充電も失くなるよな、って話である。聞く耳は持っていなそうだが。
「どうすれば良い?」
ゼイラス王子自身は俺に素直に尋ねてくる。憤慨して首をはねるくらいされるかと思ったが、王子自身は冷静で、権威で従わせる気はないようだ。
「充電すれば大丈夫かと」
首に剣を突き付けられたまま俺が応える。出来ればこの剣、どうにかしてほしいが、王子はお構い無しだ。
「じゅうでん? とはどうすれば良いのだ?」
王子が更に尋ねてくる。いや、俺だって知らないよ。が、答えを出せるのは俺しかいない。必死になって考える。
「う~ん、スマホは、電気で動いているんです」
「電気で?」
「はい。なのでそれを補充すればまた動くと思います」
「成程」
ゼイラス王子が俺の説明に深く頷く。
「して、それはどのようにすれば良いのだ?」
ですよねえ。
また暫く考えた後、俺は充電ケーブルを学生カバンから取り出し、ケーブルをスマホに接続する。
「このケーブルの先の金属部分に、一番弱い雷魔法を当てて見てください」
「ふむ」
相槌を打ったゼイラス王子が、銀髪の騎士とアイコンタクトを交わす。
それで事を察した銀髪の騎士が、俺から剣を離すと鞘に仕舞い直し、空いた手でケーブルの先端を握る。どうやら王子は雷魔法は使えず、この銀髪の騎士が雷魔法を行使するらしい。
緊張の一瞬だ。これで雷魔法が弱くて充電出来ないならまだ良いが、強過ぎればスマホ本体が燃えてしまうかもしれない。そうなったら俺の首は赤茶髪の騎士によって地に落ちる。
心臓が早鐘のようにドキドキする中、銀髪の騎士を見守っていると、5秒とせずにケーブルから手を離した。
「終わりました」
見た感じ何ら変化は見られなかったが、雷魔法を使ったらしい。スマホは燃えなかった。先ずは第一関門突破である。
そして第二関門。「そうかそうか」と嬉しそうな王子がスマホの電源を入れる。ここで起動しなくても首を落とされるかもしれない。
が俺の心配は杞憂に終わった。スマホが正常に起動したからだ。
ふう、と深い嘆息をした俺だが、赤茶髪の騎士は剣を首から話してくれない。
「あの、起動しましたけど?」
「何故この事を黙っていた」
鋭い目付きで俺を睨み付けてくる赤茶髪の騎士。そんなつもりはありません。忘れていただけです。
「止めよ」
俺が何か言い訳するより先に、ゼイラス王子が制してくれた。
「コーキも見知らぬ土地に来て、何でも十全に出来る訳ではなかろう。伝えるべき情報が抜け落ちることもある。であろうコーキ?」
ブンブンと首が落ちそうになるほど首を縦に振る俺。
それを見て「フン」と鼻を鳴らして赤茶髪の騎士は剣を鞘に戻したのだった。
スマホ一つで死にかけるとか、異世界マジおっかねえ。
そんなやり取りを余所に、銀髪の騎士は先程までケーブルを握っていた手を見詰めたままだ。
「どうかしたのか?」
俺がそんな銀髪の騎士を見詰めていたからだろうか、王子も赤茶髪の騎士も銀髪の騎士を見遣り、王子が声を掛ける。
「いえ、今の雷魔法LV1、ハッキリ言って何の使い道も無いと今まで思っていたので、まさか、このような使い道があったことに驚いているのです」
そういうものなのか?
「確かにな。LV1の魔法はどれも使い道が見出だせないものばかりだからな」
銀髪の騎士の言葉に同意する王子と赤茶髪の騎士。
「火魔法はどうだ? 少し温かくなるだけなんだが」
先程まで俺の首に剣を突き付けていたとは思えない赤茶髪の騎士の質問にひきつりながらも、
「え? カイロかな?」
と素直に反応してしまう。
「カイロとは?」
それに王子が食い付いてくる。
「カイロと言うのは携行する暖房器具の事です。基本的には鉄の酸化反応で熱を発するんですけど」
「酸化反応? 錆びさせるのか?」
「はい。鉄粉を袋に入れて、それを空気に触れさせる事で熱を出させるんです」
魔法の世界ではこういう事は珍しいのだろうか? 俺の拙い説明に三人とも聞き入っている。
「つまり、暖房器具という事は、寒い地方で使うという事か」
三人とも得心がいったらしい。
「何とも数奇な話だな」
王子の発言に俺は首を傾げる。
「この国は大陸の南方に位置するので、それほど寒くならないのだ。だが、暖かいからか南方には火魔法の使い手が多い。逆に北方は氷魔法の使い手が多いと聞いている」
へえ、それは確かに因果な話だ。北方にこそ火魔法の使い手が必要だろうに。逆に暑くなる南方のメリディエスでこそ、氷は重宝しそうだ。
「ふふ。面白い。やはりコーキと話すと色々刺激を受けるな」
ゼイラス王子が楽しそうで何よりだが、俺としてはこの一件で直ぐにでも日本に帰りたくなりましたよ。
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