終章 これから

目を開けると、今では見慣れた天井が広がっていた。起き上がって辺りを見渡すと、少し離れた場所に男が座っていた。当然、学ランは着ていない。

「…あんた、若い頃から性格悪かったんだな」

 目をすがめて言うと、男は肩をすくめて終わらせる。けど、こんな性格の悪いやつのおかげで忘れていた過去を見ることができたのは事実だ。忘れ去れていたのは他でもないこの男だが。

「これから、どうするんだい?」

 その問いかけに含まれた意味を正確に読み取って、俺はゆっくりと息を吐き出す。

「どうするもなにも、俺は今まで通りやっていくよ。翳のことも、彼女のことも。俺らしく」

 はっきりと目を見て告げると、男は面白そうにいつもの胡散臭い笑みを浮かべる。

「そう。まぁ予想通りだね。じゃあ、頑張りな」

 その言葉に、俺は頷いて、その部屋を出る。出る直前、男が柔らかな笑みで言った。

「どうにもならない時があったら、いつでも頼っておいで」

 青年時代よりも幾分か性格が丸くなったか、などと考えながら、俺は薄く笑う。

「そりゃどうも」

 言い残し、俺はその場を後にした。


 俺はまだまだ未熟で、何にもできないただのガキなのかもしれない。でも、今は昔の「オレ」のように、友人と認めた人1人も助けられないほど、弱くはないはずだ。だから。

「彼女の呪いを覆して、運命を変える!そんで、絶対に彼女と彼女の恩人である蛟と引き合わせる!翳とのことも、ちゃんと自分でケリをつける!」

 すっかり日の暮れた夜空に向けて、俺は叫んだ。言葉は言霊。宣言したことは、絶対に覆らない。

「絶っ対に全部、やり通してみせる!見てろよー!!」

 一体なにに対して見てろよ、などと言ったのか、自分でもわからなかったが、俺は今はそれでもいいと思った。

 俺たちの物語は始まったばかり。楽しんででも、諦めずに。過ごしていこう。

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余命一年の彼女は笑う。 満月凪 @ayanagi0527

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