第13話
ボノボとチンパンジーが出会ったのは、チンパンジーがS区へうつったころだった。
ボノボはある時期から、ヒューマノロジーの案山子を倒して自分の案山子をドロップしていくビルダーの存在に気づいたという。ボノボはもともとビルディング・カルチャーには無関心だったから、チンパンジーのことも知らなかった。自分の作った案山子を打ち壊しているのがだれか、気になったボノボは夜中に案山子の前に座って見張ることにした。
ボノボが見張りをはじめて三日め、チンパンジーはあっさりとボノボの前に現れた。目の前に少女が座っているのを気にせず、チンパンジーはあっさりと案山子を蹴倒したそうだ。
「なんで案山子を倒してるの?」とボノボに問われたチンパンジーは、「ださい案山子は倒していいんだよ」と答えた。
「私の案山子がださい?」とボノボは問い返した。
チンパンジーは答えずに黙って自分の案山子を組みはじめた。
これは驚くべきことだ。普通ビルダーはだれにもみられないように案山子をドロップする。特にチンパンジーは、案山子の制作手順をたぶんボノボ以外のだれにもみせたことがない。一度作業をみせてくれないかと頼んでみたことがあったが、そのときは「企業秘密みたいなもんだから」と断られた。
ボノボはチンパンジーと特に連絡をとらなくても、チンパンジーが案山子を建てそうな場所が勘でわかったらしい。ボノボはチンパンジーの好みそうな場所に待ち伏せし、案山子ビルドの現場にたびたび現れ、ときには作業を手伝った。
そして、ボノボは自身をヒューマノロジーの信者としてではなく、ビルダーのボノボとして認識するようになる。
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