第4話
ヒューマノロジーの案山子にも変化があった。一時期ヒューマノロジーはしまもようの案山子は教義を表現したので、それによって起きる光誘発性発作も「好転反応」だと言い張っていたが、案山子のスタイルはいつの間にかなし崩し的に変更されていった。サイズが明らかに小さく人形のようになり、こうもり傘を引っ切り返したようなフォルムは、風でふくらむスカートか、またはチューリップのつぼみのようになり、目がチカチカするほど派手だったしまもようは一部アクセント的に使われるだけになっていった。
Qmodが活動の場を広げているころ、ぼくはふたたびチンパンジーに連絡を取った。チンパンジーはこの時期フット(活動の拠点)をS市から東京S区へと移していた。チンパンジーが活動の場を変えた理由をぼくはぜひとも聞いてみたかった。S区は案山子への取り締まりが厳しい場所で、ビルダーの中には逮捕者も出ているし、案山子をドロップしても2、3日中には撤去される。チンパンジーがわざわざそんな場所を新たなフットに選んだ理由は?
チンパンジー「もうS市はおれらの村じゃなくなったから、どこでもよかった、ビルディングができる床があればどこでも。どこでもいいのがビルディングだから」
6月にはG県有安郡の農村から全面バックアップを受け、ビルディングカルチャー初の大規模で合法的な野外イベント、有安キャンプが行われた。主催者はQmodだった。有安キャンプには一時期はQmodと仲違いしていた(とされる)古参のビルダーも多く参加した。
インベーダーは水車に絡まって回る案山子や朝顔にまとわりつかれた案山子を、U-Royは執拗に川辺を狙って十字架のような案山子を、Jeanは畑の真ん中で縦に長細くのびるくねくねした白い案山子をドロップした。
チンパンジー君は明らかに有安キャンプに参加できるだけの実力があったよね? 誘われなかったの?
チンパンジー「誘われたよ。でも無視した」
その理由は?
チンパンジー「単純に、床がなかったからかな。田舎には床がない」
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