第3話
ビルディングへの一般的な認知度が急激に高まった契機が一二・七事件であることは否定できない。一二・七事件以降、ビルディングの第一人者としてメディアに引っ張り出されたのがQmodだった。Qmodは案山子ビルディングが日本初のストリートカルチャーとして欧米でも高く評価されていること、ヒューマノロジーの活動と本来のビルディングはまったく無関係であることを強調した。Qmodは一二・七事件以前から比較的名前の知られたビルダーであり、ビルダーとしては珍しくネット上での広報活動も積極的に行っていたことからメディアの目に止まりやすかったのだろう。案山子への取り締まりが強化され、都内だけでなくS市の案山子も大量に撤去されるにいたったとき、Qmodはコメントを求めるテレビカメラに向かって「ファック・バビロン」と吐き捨てた。(ちなみに、「ファック・バビロン」というフレーズはツイッターなどのSNS上では散々パロディー化され、一種のギャグになった。)
当初、Qmodは突如訪れた世間の「案山子ブーム」に翻弄されているかのように見えた。しかし、Qmodは次第に自らがビルディングという運動を先導していることに対して自覚的になっていく。QmodはK区を中心に商店街や自治会に掛け合い、許可を得た上でビルダーたちに案山子をドロップする場所を提供する活動をはじめた。案山子がドロップされた場所では落書きやポイ捨ての被害が減るんだ、とQmodは主張して統計グラフまで示してみせた。また、Qmodは案山子に対する取り締まりの一部緩和を求める署名活動を行い、ゴミ拾いなどの地域活動に参加することをビルダーに呼びかけた。ビルダーが目出し帽やバンダナで覆面してゴミ拾いする姿をテレビはユーモラスに映し出した。ビルダーたちのQmodへの評価は「一周してアリ」になりはじめた。
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