第7話 撫瀬防衛戦:序盤
昼九ツ時。
いつ温羅が撫瀬を襲って来るか分からない中、アカネは遂に結界を完成させた。
「ふう、人型以外は近づけさせないように貼りましたけど、正直言って油断できません」
「ふむ。アカネよ、ちょっと下を見るのじゃ」
「は、はい?」
アカネはアカツキの言う通り下を見る。そこに鉄鬼の巫子代がいることに気がついた。
「えっ!? なんで鉄鬼がここに? 」
「まあもちろん、撫瀬の瘴気に釣られてきたのようじゃ。まぁアヅマとヤタが下にいるから直接被害が出ることは少ないと思うのじゃ」
「はぁ、アヅマさんやヤタさんも瘴気なんでしょうか、アカツキさん?」
「あやつらも瘴気を感じて来たが、今回の一連の事件を追ってるそうじゃ」
「なるほど・・・ってさっきの電話の相手ってもしかして」
「アヅマじゃ」
「ええ!? 大丈夫なんですか!? だってあの人達」
アカネが言いかけた瞬間、アカツキが下の異変に気がついた。
「おっ、早速アヅマが追われてるのじゃ」
「話を逸らすのはシグレさんだけにしてくださいよ・・・」
アカネは仕方なく下を目を向ける。確かにアヅマが鉄鬼に追われてはいた。しかし、追っている鉄鬼は下っ端らしかったので違う意味で心配になった。
「これ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃ」
「アヅマさんがいるの気づいたら、幹部クラスが出て来ませんか?」
「まあそれもあるんじゃないかのぅ」
「簡単も言われても・・・。アヅマさんでしたら大丈夫、ですよね?」
二人は見張る作業に戻った。
一方、アヅマは鉄鬼の巫子代二人に追いかけられていた。周りには昼間からケンカのようなやり取りにしか見えない。このまま逃げ回っても仕方ないと思ったアヅマは、長い地下道に入ることにした。
長い地下道は人通りが少ない時間帯があり、今の時間はちょうど人通りが少なかった。巫子代である以上、目立った行動ができないので都合が良かった。
「いつまで逃げるつもりだ! 」
痺れを切らした鉄鬼の一人がアヅマに叫びだす。その瞬間、アヅマはニヤリと笑みを浮かび振り返った。
「そうか、そんなにオレとやりてえのか」
「お前は殺すのに充分値する存在だ」
「ほう」
アヅマが身構えると鉄鬼の二人も続けて身構える。
「じゃあ、オレに殺されろよ。『真備竹刀』」
アヅマの右手から竹刀が出現してきた。それを見た鉄鬼は少し呆れて様子になっていた。
「それで殺せると思ってるのか?」
「お前らなんてこれで充分だろ」
「何ぃ? じゃあここで死ねぇ!! 『剛・陽玉』! 」
鉄鬼の二人が『剛・陽玉』を放ったのを見て、今度はアヅマが呆れて鼻で笑った。
「おいおい、それで殺せるのか? くだらねえ、喰らえ『瑞穂』! 」
アヅマが竹刀を横払いすると、水の刃が波打って鉄鬼に向かっていく。
「それがお前の、なっ!?」
水の刃が鉄鬼の『剛・陽玉』を包丁で柔らかい野菜を切るように斬り裂いていく。裂かれた『剛・陽玉』は消滅し、水の刃はそのまま鉄鬼に迫っていく。
「くそっ、なら『霊障壁』・・・」
鉄鬼の二人が同時に出した『霊障壁』を水の刃はいとも簡単に斬り裂き、鉄鬼の二人の胴体を真っ二つに貫いた。
「うう・・・」
「弱っ。瑞穂は陰なのにさぁ、対消滅しないで貫通ってなんだよ」
「あれが、陰、だと?」
「あっ? そうだけど?」
「んな」
アヅマは鉄鬼に次の言葉を言わせる前に、魂を『真剣・瑞穂』で吸い込んだ。
「たくっ、こんな雑魚にやらせるとか鉄鬼は人材不足か? 逃げる気にもならねえ。アカツキにパシられて損したぜ」
がっくりしたアヅマがLMD塾に戻ろうとした時、アヅマのスマホが突然鳴り出した。見ると、電話主はヤタだった。つまらないラブコールでもするんだろと思い、電話に出ると
『センパイ、聞いてくださいよー』
「あぁん? なんだよ、つまんねえ内容だと切るぞこら」
『ドSセンパイもいいんだけど、鉄鬼からいいこと聞いちゃったのー! 』
「あっ? なんだ今回の事件のことか?」
『そうですそうです! なんか、カゲロウセンパイみたいな女の子が、糸を吐いて殺してるところ見たって! でも、それ絶対カゲロウセンパイじゃないよねー?』
「ん? あ、ああ。アイツがそんなこと好んでする奴じゃねえからなぁ。そもそも温羅になってちまちま殺すなんてことは、逆に考えにくい。はっきり言って、オレが国中の巫子代を全力で殺しに行くレベルだぞ。歩く大規模災害になった最強の巫子代がそんなちまちましてでもセーブしてるのがおかしいだろ」
『それにさぁー、そんなことになったらルリセンパイがー』
「ああアイツはまあそういう奴だし、悠長にお前なんかに連絡はしねえよ」
『そうだよねー。ところでもう一つの件なんですけど』
「はぁ? もう一つ?」
『それがですねーーー』
アヅマはヤタの言葉を聞き、少し興味が湧いた。
午後4時。
あれから、アカツキとアカネはLMD塾の屋上から見張っていたが、何か変わったことは起きていなかった。アカネは時折、電話でやり取りをし、アカツキは周囲を見つつも暇になりかけていた。
「あー暇じゃのぅ。怖いくらい暇じゃ。アカネよ? ちと、強力過ぎたんじゃないかのぅ」
「えー、そんなはずはないんですが。もしかしたら終わった後で来るかもしれないですよ?」
「ふむ、撫瀬が帰るまでこのままにしておくのじゃ、ん?」
アカツキはある違和感に気づいた。結界の中にいる撫瀬から瘴気が感じ取れなくなっていた。不思議に思ったが原因も分からないため、敢えてそのままにした。しかし、それが大きな間違いでもあった。
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