第5話 模擬戦後
「ぷはぁ! あー! かわいいショタいねえなぁ! 隣にいるのはロリコンだし!! 」
「帰ってきてすぐショタ欲全開とかキモいなぁ! ホント!! 10歳若かったら許してたけどね!! 」
撫瀬と葵はしばらく酒を飲み、気分が良くなったのか大声になっていた。
「うーん・・・」
「どうしたの?」
「いやね、あれ、えーっと、そうそう、聞きたいことがあったあった」
「何? かわいいショタの紹介?」
「違う違う。『陽玉』と『陰玉』の違いについてだよ」
「違い?」
「そう。アカツキちゃんが『陰玉』を力が欲しいからどうたら言ってて、あれってどういう意味? っていうところから来た疑問」
葵は撫瀬の言いたいことがなんとなく理解できた。「なるほど」と呟くとインターホンを鳴らして従業員を呼び、コーラフロートを頼んだ。
「えー、ここでソフトドリンク? 説明は?」
「するわよ。まあまずあんたには属性の概念について説明するわよ」
「属性ってゲームじゃないんだからぁ」
「うるさいわね、その方が分かりやすいから言ってんの」
「ふーん」
「まず、一般世界における全ての攻撃を『物理』として扱われているわよ。パンチとか銃弾とかビームとか、巫子代や温羅の力を介さないものは全て『物理』のカテゴリーに入るわ」
「ふんふん」
「次は霊的な力、巫子代や温羅だけじゃなくて幽霊や妖怪と言われている存在も含めたもの達が扱うのが『霊』の力と私達巫子代では読んでるわ。ややこしいけど、とりあえず非現実的な力を『霊』と思ってもいいわよ」
「まあそこはなんとなく分かる」
「次があんたが言っていた本題の『陰』と『陽』の力についてよ」
「うんうん」
撫瀬が頷いたところで、葵が先程注文していたコーラフロートを店員が持ってきたのだ。撫瀬は店員が少し置きにくそうにしているのに気づいたが、葵に「体が前に出てるわよ」と指摘され、慌てて戻した。葵の説明を聞こうとして撫瀬は体が前に出ていたのだ。
「もう何やってんのよ」
「ごめんごめん」
「まあいいわ。『陰』と『陽』の力の違いを説明する前に」
「ええまだあるの!?」
「聞きなさいって。さっき説明した『物理』と『霊』とね、『陰』と『陽』には違いがあってね。それはね、肉体にしかダメージが入らないか魂にもダメージが入るかの違いがあるの」
「魂にもダメージが入る?」
「そうよ。このコーラフロートのコップを肉体、中にあるコーラとバニラを魂とするわ」
「なんかよく分からないけど分かった」
「んで、『物理』と『霊』はこのコップだけを攻撃して割ってしまうの」
「それだと魂はどうなるの?」
「魂はね、一応残ってしまうのよ。ほら、このコーラフロートだって、
「そうだね、そのまま残るね」
「それで肉体は死んでも魂はまだ生きている状態、これが世間一般で言う死よ」
「ふーん、『霊』属性で倒しても成仏したりはできないんだ」
「そうよ。魂は弔いで消えるのだけど、それはまた別の時ね。次に『陽』と『陰』の話になるけど」
そう言いかけると葵はコーラフロートに浮かんでいるバニラアイスをストローでコーラの中に沈めた。すると、コーラが蒸発しながら泡を吹き出してコップから出ようとしていた。それを見た葵は慌ててコーラを飲み出した。
「何やってんの葵!?」
「ぷはぁ! あっぶな! 危うく溢れるところだったわ」
「いや一体が何がしたかったの?」
葵は口を拭い
「今、私はコーラフロートを飲んだけど、コップの中にあるコーラを飲む行為を『陰』の力。コーラが蒸発してなくなるのが『陽』の力よ」
「ううん? さっきの例えだと、コップは肉体でコーラとバニラが魂だったから・・・。葵がコーラを飲んで吸収するのが『陰』属性、コーラそのものが蒸発してなくなるのが『陽』属性」
「そうね」
「ええっと、つまり、『陰』は吸収系の属性で、『陽』は蒸発系の属性の認識でいいのかな?」
「そうそう! そういう認識で合ってるわ!補足すると、お坊さんや神主がやってる念仏やお祓いは『陽』の属性よ」
「なるほど。だから霊が消えていくのね」
「そうよ。それと『陰』と『陽』は、正反対の属性だからお互いの力がぶつかれば、基本的には対消滅するわよ。それであんたが言ってたアカツキさんが私が『陰玉』に対して愚痴ってたことなんだけど・・・撫瀬?」
葵は撫瀬がボーッとしていることに気がついた。反応がなかったので額を小突くと撫瀬が「痛っ! 」と言いながら額を押さえる。
「あんた聞いてたの?」
「あっ、ごめん! それでなんだっけ? 確か、『陰』属性と『陽』属性が反対だからそれぞれの力がぶつかると対消滅するんだっけ?」
「そうそれでアカツキさんが私が『陰玉』を使ったことに対する愚痴なんだけど、私が早く他のみんなに追いつきたいから『霊玉』だけじゃなくて『陰玉』を使えるように頑張ったの」
「そういえば、シグレちゃんは褒めてたね。弄ってるようにも見えたけど」
「うん・・・。だから私は」
「うん? もう9時が来るわ。まだ授業の準備ができてないからそろそろ切り上げなきゃ」
「あっ、うん」
撫瀬はふらふらと立ち上がり、会計に向かう。葵も遅れて会計に向かったが、先程から撫瀬の様子がおかしいように感じていた。撫瀬が酒による酔いだけなら、睡魔があるような反応をするはずだが、何かが違う。何か、誰かから意識を奪われてしまった。そういう風にしか見えない顔つきをしていた。葵は撫瀬と居酒屋で別れるとスマホを取り出し電話を掛けた。
夕方5時。
「ふぅ」
アカツキは撫瀬と葵を見送った後、一人胸を撫で下ろしていた。
「今日のかわいがりはどうだった? 」
「模擬戦じゃ模擬戦。ふむ、葵はなぜ力に拘るのじゃ? それがイマイチ掴めんかったのぅ」
「ん? それは新人ちゃんが私達に追いつく為じゃないの? まあ確かに焦ってるような雰囲気はしていたけどねー」
「そうじゃのぅ・・・」
アカツキには今日の葵のことよりもっと心配になっていることがあった。
「それよりも今回の事件をどうするかじゃ。シグレよ」
「はーい」
「お主はあやつと会って、真偽を確かめてくれんかのぅ? 」
「なんで? まだ確定じゃないじゃん」
「だからこそじゃ。まあ奴が白なら正直に吐くはずなのじゃ。それで別組織か単独犯かまたは新しき存在なのが分かるだけでも助かるのじゃ」
「へーい、あの人と何年ぶりに会うんだろうねー」
「そんなに日が経っておらんじゃ」
会話そのものは悠長であったが、どこか緊張感を感じるものではあった。
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