第2話 城の破滅

「なんだよ、これは……」

 僕とセルナは城のすぐ前で立ちすくんだ。いや、正しく言えば城があったはずの場所と言った方がいいだろう。

 城は粉々に破壊されていた。

 庭も焼き尽くされていて、湖の水は濁っていた。湖の中にいた魚たちは既に死んでいた。

 僕は破壊された城の破片をどかして、誰か下敷きになっていないか確認した。

 結果、誰も下敷きになっていなかった。

 僕はほっと吐息を吐くと、町の中心にある公園に行き、セルナの隣に座った。

 セルナは心配そうに訊く。

「どうでしたか?」

「勇者たちはいなかった」

「どこに言ったんでしょうね。それに誰がこんなことを」

 すると背後から声がした。

「兄ちゃんたちは何の話をしているの?」

 振り向くと、子供たちが興味津々にこちらを見ていた。大体みんな十歳くらいだろうか。

 一番前にいた少女が言った。

「もしかして邪魔した?」

 少女の髪は緑色で、ルナと少し似ていた。ルナが五年後になったらこんな風になっているのだろうか。

 少女は不安そうな表情をして僕を見た。

「あの……」

 僕は気を取り戻し、彼女の質問に答えた。

「邪魔してないよ。ただ、勇者の城がどうなったか不安で話してただけ」

「勇者様の城?」

 子供たちは顔を強張らせて顔を見合わせた。

「勇者様は私達町の人々を裏切ったんだよ」

 僕は目を見張った。

 勇者が町の人々を裏切った?

 僕は身を乗り出した。

「詳しく聞かせてくれないか?」

 子供たちが言ったことをまとめるとこんな感じだ。


 今日の早朝、ある少年が現れ、勇者が行ってきた悪いことを町の人々に知らせたらしい。強盗集団に手を貸したり、自分に課せられた税を町の人々に何も言わずに任せていたらしい。

 そして勇者がその場に駆けつけてそれをすべて認めたらしい。そして色々とあって勇者の方から決闘を申し込んだ。

 すると少年が笑い出し、勇者の住む城を易々と破壊してしまった。そして住む場所を失った勇者たちは、どこかに消え去っていったのだそうだ。


 僕は何とも言えず、ただ黙っていた。

 大人たちにも聞いてみたが、みんな同じことを発言した。

 僕はセルナと目を合わせて言った。

「勇者の城を破壊した少年って誰なんだろう……?」

「私に聞かれても……」

 セルナはしばらく考えていたが、ハッと息を呑んで言った。

「もしかしたら、その少年は神かもしれません」

「神?」

 はい。神にもいろいろな者がいます。勇者よりも強い人がいてもおかしくありません」

 セルナの言うとおり、恐らく神なのだろう。

 僕は勇者がどこに行ったか訊くために再び町を回った。

 しかし誰も勇者の目的地を知る者はいなかった。

 僕はため息をついて鍛冶屋を伺った。

 この鍛冶屋は僕が勇者から新しい剣を頼まれた時によく伺う鍛冶屋である。

 僕は「よっ」と店主にあいさつすると、店主が「よっ」とあいさつを返してくれた。

「今回は何だ。勇者から見捨てられたって見知らぬ坊主から聞いたぞ」

 僕は苦笑した。

「勇者がどこに行ったか知らないか」

「生憎とどこに行ったか分からんが、もしかしてガツンと言いに行くのか?」

 僕は首を振った。

「ガツンとはどうか知らないけど話があるんだ」

 セルナは困惑した表情で店の前で立ち止まっていた。

 僕は振り返って、入るように指示した。

「店主、こっちは僕の知合いのセルナだ」

 店主は「よっ」と挨拶したが、セルナは戸惑いながら「こんにちは」と挨拶した。

「ロナさん。この方は?」

「この鍛冶屋の店主さ。この町では一番の腕だと思うよ」

「というか、この町に鍛冶屋はここしかないけどな」

 店主は苦笑していた。

「そうだ。ラギ・リュターナに訊いてみろ。アイツは旅の専門家として名を知られているらしいからな。勇者がどこに行ったかは知らないと思うが、きっと旅をするうえで役に立つと思うぞ」

 僕は店主に礼を言うと、ラギの店へと向かった。

 セルナは慌てた様子で僕の後を追ってきた。

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