第19話 赤い翼をもつ鳥
僕は急いで五階に駆け上がった。
レニティカは今大丈夫だろうか。食われていないだろうか。
五階に着くと、一つの大きな扉が目に入った。扉は少しだけ開かれていた。
レニティカと、勇者様でも倒せなかった恐ろしい怪物がこの中にいる。
僕は意を決して扉を大きく開けた。
まず目の中に入ったのは巨大な怪物。
体中が燃え上がっているように真っ赤な羽毛で覆われている。怪物というよりもひどく燃え上がった炎を見ているようだ。
部屋の中は予想よりもはるかに広く、食堂の十倍ぐらいだと思う。
僕はここに来た理由を思い出してレニティカを探した。
恐らくレニティカは怪物の目のまえにいるはず。
しかし近づけば自分も襲われるかもしれない。
すると悲鳴が聞こえてきた。確かにレニティカの声だ。
自分も食われてしまうと考える場合じゃない。
僕は怪物の向く先に走り出した。
すると次第に壁と壁の隙間に隠れたレニティカの姿が目に入った。
僕は無我夢中で叫ぶ。
「レニティカ、大丈夫か」
レニティカは涙で汚れた顔を激しく横に振った。
「大丈夫な訳がないでしょ!早く助けて」
僕は彼女の手を取ろうと手を伸ばしたが、怪物の雄叫びに怯んでしまった。
レニティカが怒鳴る。
「意気地無し!私を助けに来たんじゃないの?」
僕はおずおずとまた手を伸ばした。レニティカがその手をがっつりと掴み、僕が引き出すというより、彼女が引き出されるふりをしたような気がした。
僕って助けに来る意味あったのか?
気がつくと、レニティカは僕より先に扉へと向かっていた。
「ま、待ってくれ」
レニティカを追いかけようと足を踏み出すと、怪物が目の前に現れた。
怪物の目的がレニティカから僕に変わったらしい。
怪物は雄叫びを上げる。
僕は恐ろしくて腰が抜けてしまった。立ち上がろうとしても立ち上がることができない。
ああ、僕はここで命を落としてしまうのだろうか。
すると今思い出しても仕方がないことを思い出した。セルナの持っている僕の人生を物語った本。
彼女が今この場にいれば僕はこの怪物に立ち向かうことができたかもしれない。
僕はかがみこんで悲鳴を上げた!
「助けてくれ!」
すると部屋の扉が勢いよく開かれ、振り向くとそこには勇者様の姿があった。
勇者様は鎧をしていて、剣を構えていた。マントが後ろでなびいていて、とてもかっこよかった。
僕はほっと安心して体の力を抜いた。もう休んでいいと脳が思ったのか、僕は急に眠りに入ってしまった。
目が覚めたのは真夜中だった。辺りは真っ暗でよく見えなかったが、このなれたベッドの心地よさから考えると恐らく自分の部屋だ。
時間が気になり時計を探したが、どこにもない。
もしかしたら零時を過ぎているかもしれない。
僕は立ち上がり、ドアを開けて廊下に出た。
そして右に進んでいき、食堂の前に立つと、一息ついて扉を開けた。
食堂の灯りはつけられていて、中心には数人の人がいた。
近づいて行くと、それが誰なのか認識できた。
クロックサスさんにリュンデネアさん、メへルキアさんはおらず、デラキさんはいた。そしてフェリアさん……。
僕は目を大きく開いた。
なぜフェリアさんがここに!
僕は一度食堂から出た。
まだ食堂の中にいる皆には気付かれていなかったらしい。おかげで助かった。
助かったと言えば、勇者様にもだ。勇者様が助けてくれなかったら僕はどうなっていただろう。
夜が明けたら勇者様にお礼を言わなければならないな。
すると三つの人影が近づいてきた。
その人影たちは誰のものなのかすぐに分かった。
僕はその三人に近づいて言った。
「フェリアさんにここに来るように頼んだ奴は誰だ」
右端の影が手を挙げた。一歩進むとその人影の姿がうっすらと現れた。ルナだ。
「勇者様からのお説教が終わった後にフェリアさんが一人だったっからチャンスだと思って話しかけたの」
中心にいたレニティカが微笑を浮かべる。
「まさかルレナがここいたなんて驚いた。結構成長してたから一目見ただけじゃわからなかったな」
両端にいたルナとレナがレニティカを見上げながら微笑んだ。
いつ仲良くなったんだと俺は首を傾ける。
違う、そんな場合じゃない。
僕はルナをレニティカの手から引き離し、居間に入った。
「ルナ、フェリアさんはリデナさんと同じ殺人犯なんだぞ。協力者なんだぞ。そんなやつをなんで誘った」
ルナはしばらくぼっとしてたが、僕の言葉を理解するとあっと目を開いた。
「あ、忘れてた。どうしよう……」
僕はため息をついた。今回の会議は止めることにしよう。しかし今回止めるとしたら次いつやるのかが問題になってくるが、それは今考えないでおこう。
僕とルナは、レニティカとレナに続いて食堂に入った。
「皆さん、やっぱり今日は……」
食堂の中の状況を見たとたんに僕は言葉を失った。フェリアさんが皆を縄で縛っていた。
フェリアさんは目を細めて悪者らしく微笑み、一言言葉を発する。
「よ、残念だったな」
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