第17話 再びレナの部屋

 レニティカは部屋から出て行くと走って逃げて行った。

 予想以上に彼女の足が速くて追いかけることができなかった。

 ルナと一緒に階段の前に着くと、三階に続く階段を見上げた。そして一階に続く階段を見下ろす。

 どっちに行ったのだろう。

 ルナが不安そうに言った。

「どうする?」

 僕はうつむいて言った。

「お前は僕が悪いって責めないんだな」

「何のこと?」

「言ったらレニティカが悲しむと分かってたのに僕は言ってしまったんだ」

「犯人がファリアさんだってこと?」

「もう一人の方。リデナさん」

 すると、呼ばれたかのように、犯人である二人が勇者様と共に階段から上がってきた。

 僕らは驚いた様子で三人を見た。彼らも僕らを見た。一瞬気まずい空気になった。だがそれを僕が破った。

「えっと……、レニティカは一階にいましたか?」

 リデナさんは僕を睨んでいた。勇者様とファリアさんは目線を合わせてしばらく考えていた。

「多分いなかったと思う。あ、ルナいたのか。丁度いい。一緒に来てもらおうか」

 勇者様の表情がいきなり険しくなった。

 ルナは顔を赤くさせて勇者様と視線が合わないように下を見ていた。

「はい……」

 ルナは勇者様たちと一緒に行ってしまった。

 僕は一人で三階に上がっていく。

 この勇者様の城は五階まである。

 三四階の部屋は両壁に六つづつある。三四階の部屋は二階よりも部屋の大きさが小さい代わりに部屋の数が多いのだ。

 五階は勇者様から立ち寄らないように注意されている。詳しいことは知らないが、勇者様でも倒せなかった怪物がいるらしい。時々五階から怪物の声が聞こえてくるから流石にレニティカでも五階には行かないだろう。

 僕は奥に続く部屋のドアを見渡してため息をついた。

 さすがに一人では探すのは無理がある。

 僕はある人を思い出して一階に降りていった。

 一階に着くと、一度深呼吸してその人の部屋のドアに手を掛けた。そして開くと、物が崩れ倒れるような音がした。

「誰!?」

 レナが慌てた様子で立っていた。

 僕は部屋の様子に呆れて言う。

「相変わらずだな」

 レナは頬を膨らませて僕を睨むと言った。

「片づけるの面倒だもん」

 僕はため息をついた。

「そういえば、ドアは直ったんだな」

「気づかなかったの?一昨日にドア専門の人が来て直してくれたのよ。おかげで穢れたこの部屋の輝きが戻ったわ」

 僕は呆れて何も言うことができなかった。

 ――その穢れは自分のせいだろ。

「それはともかく、手伝ってほしいことがあるんだ」

 レナは驚いた様子で僕を見た。

「お兄ちゃんが人に頼みごとをするなんて珍しいね」

「だからお兄ちゃんと呼ぶのは止めろ!」

 レナはクスクス笑った。

「それで、頼み事って何?」

「レニティカを探してほしいんだ。ルーテリア一家の一番小さい子。小さいと言ってもお前よりは背が高いが」

 レナはしばらく考えて思い出すと、「ああ」と声をこぼした。

「レニティカさんね」

「そのレニティカが恐らく三階か四階にいるはずなんだ。だから一緒に探してほしい」

 レナは微笑を浮かべて頷いた。

「いいよ。それじゃあ早速三階に向かおう!」

 レナはゴミの山をひょいひょいと飛び越えて部屋から出て行った。

 僕はゴミの山を蹴り飛ばしながら部屋から出て行き、ドアを勢いよく閉めた。

 全く、片づけてほしいものだ。

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