第15話 デラキの日記帳

 レニティカを追いかけようとしたが、メへルキアさんから呼び止められた。

「仕方のない事よ。今まで見て来た姉が仮面に過ぎないことを知ったら私だって心が苦しくなるわよ。だからそっとしてあげて」

 僕は一度ドアを見つめてルナを見た。

「ルナがそばにいってやってくれ」

 ルナは頷くよりも早く部屋を出て行った。

 離れていくルナの足音が聞こえなくなると、僕が言った。

「姉は昔からあんな性格なのですか?」

「あなたにリデナを姉と呼ばれる筋合いはないわ」

 メヘルキアさんは僕を睨んでいた。

 デラキさんは城の外を目を細めて見ていた。そして独り言のように呟いた。

「兵士たちは分かっているのだろうか……」

「何をですか?」

 メヘルキアさんの声には棘があった。二人とも何かを知っているようだった。しかし何を知っているのか僕にはわからない。

 デラキさんは愛想笑いを浮かべてメヘルキアさんから視線を逸らして僕を見た。

「君に訊きたいことがあるんだ。どうしてこの一家の事情に君が割り込んでくるんだ?割り込む必要がないと私は思うんだが」

 確かに僕が家族の事情に割り込む必要はない。

「レニティカから頼まれたからです」

「あなた、私の娘を呼び捨てしましたね?」

「彼女に敬語は抜かすように言われたんです」

 メヘルキアさんは僕から視線を逸らしてドアを見た。

 誰か入ってくるのだろうか。

 すると、メヘルキアは目を大きく開いて口に手を置いた。

「デラキさん、それと……」

「ロナです」

「とにかく、もうその話は止めた方がいいですよ」

 僕は振り返ってドアの覗き穴を見た。

 誰かがのぞき込んでいる。

 僕は背筋が凍えるように感じた。

 ここで話していたことを全て聞かれていたのだろうか。

 しばらく見つめていると、目は消えていった。

「あれは……」

「恐らくリデナね。ほら、もう失敗したわよ。もうレニティカに協力しても無駄」

 メヘルキアさんはにやりと笑いながらそう言った。よほど協力したくないのだろう。

 デラキさんはドアを睨みつけたまま言った。

「ロナ君だっけ?集合とか決まっていたりするのかな」

「はい、今夜の零時です」

 デラキはしばらく考えて頷いた。

「了解した。それじゃあ僕はちょっと外に出たくなったから出て行かせてもらうよ」

 そう言ってデラキさんは部屋から出て行った。

 部屋の中に残ったのは僕とメヘルキアさんだけだ。

 一、二分してメヘルキアさんが静寂を破る。

「いつまでここにいるの?私から離すことなんてないわよ?」

「レニティカの事ですが……」

 メへルキアさんはため息をついて僕を見つめた。

「あの子に気があるの?」

「いや、別にそんな……」

「言っとくけど、あの子は渡さないわよ。分かったら部屋出て行って」

 不承不承僕は部屋から出て行った。

 ――それじゃあレニティカを探しに行くか。

 僕は階段を下りて行った。すると勇者様がいた。

「ちょうどよかった。ルナがどこに行ったか知らないか?」

 僕は首を横に振った。

「レニティカを探しに行かせた切り見てません」

「レニティカ……。ああ、あの次女か」

 勇者様はまだ全員の名前を憶えていないらしい。

 僕は一度礼をして一階に降りて行った。


 居間には誰もいなかった。食堂にも誰もいなかった。

 僕はレニティカとルナがどこにいるか考える。

 ――そういえばレニティカの部屋に行ってなかったな。

 僕は二階に戻った。

 二階には両側に四つ部屋がある。左側の一番手前の部屋は倉庫になっている。

 僕はためらいながらも右側の一番手前の部屋のドアを開けた。

 勘は間違っていたようで、部屋の中には誰もいなかった。

 僕は部屋から出ようとしたが、机の上にある一冊の日記帳が気になり、その日記帳を手に取ってしまった。

 数ページめくると、日記帳の持ち主が分かった。

『ファリア、ファリア、ファリア。リデナはいつもファリアを選んでいる』

 この文章からして恐らくデラキさんだろう。僕は読み進めるうちに思わず汗が出てきてしまった。

『私の友人に報告するために綴る。ずっと疑問だった。メヘルキアさんの夫がどうやって死んだのか。私はそれを訊くためにメヘルキアさんに会いに来た。しかし、ファリアが私を結婚ライバルと勘違いしてしまって大変なことになってしまった。だが私はその出来事に感謝する。おかげでメヘルキアさんの死んだ夫がどうやって死んだのか分かった!犯人はファリアだ。そして、ファリアと結婚することを厚かましく進めるリデナも恐らく犯人だろう。二人は協力関係だ』

 僕は日記帳を置いて速やかに部屋から出て行った。

 僕は興奮していた。レニティカの頼みの一つの答えが分かった。

 デラキさんも答えが分かった時はこんな気分だったのだろう。

 すると、隣を通り過ぎたリデナさんに呼び止められた。

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