第14話 城を囲う兵士
深夜零時に食堂に集合するようにルーテリア夫妻に告げると、部屋から出て行った。
さて、次は例の三人組である。今もどちらと結婚するかもめているのだろうか。
すると、一つ前の部屋から大きな声が聞こえてきた。女性の声だった。
レニティカが目を見開いて呟いた。
「リデナ姉さんだ」
僕は恐る恐るその部屋のドアに耳をつけて部屋の中の様子を伺った。
「いい加減決めちゃってよ!そうだ、ファリアの方がいいでしょ。イケメンだし、筋肉あるし」
「でも、金はデラキさんの方が持っているでしょう?」
「金の差なんてたった百万円程度じゃん」
「金だけじゃないわ。敷地の大きさだって」
「メへルキアさん」
その声は綺麗な声だった。恐らくファリアさんだろう。
「僕を選んでくれないでしょうか」
すると、低く熊のような声が聞こえてきた。
「私はメへルキアさんと二人だけでお話をしたいのですが……」
この声はデラキさんだろう。
リデナさんが黄色い声で言った。
「それがいいわ。それじゃあファリアからね。早速私の部屋で……」
デラキさんが少し大きな声で、震える声で言った。
「いや、私からにさせてくださいませんか?」
「はあ?」
リデナさんの声には怒りが混じっていた。
先ほどまでうるさかった部屋が一瞬にして静まり返った。
静けさを振り払ったのはデラキさんだった。
「それじゃあ、メへルキアさんに選んでもらいましょうか」
「なんで母さんに選ばせないといけないの?私じゃ駄目なの?」
僕は嫌な予感がした。僕が初めてリデナさんとあった時と同じような質問の仕方だ。
「結婚するのはメへルキアさんなので」
「母さんはいいのに何で私は駄目なの?私は母さんの娘だから私が選ぶ権利があるはずよ?」
「先ほども言ったように……」
「正直に言うけど、私は貴方が私の父になるのは嫌よ」
部屋の中は再び静まり返った。
そして静けさを振り払ったのもまたデラキさんだった。
「やっぱりメへルキアさんに選んでもらいましょう」
リデナさんからの返事はなかった。認めたと言うことなのだろうか。
メヘルキアさんが戸惑ったように言った。
「それじゃあ、デラキさんの願望通りに」
足音がドアに近付いてきた。
僕らは急いでドアから離れて階段の後ろに隠れた。
こっそりと部屋から出てきたメヘルキアさんとデラキさんを見た。彼女たちは向かい側の部屋へと入って行った。
僕らは部屋の中からリデナさんが出てこないと確信すると、メヘルキアさんとデラキさんが入って行った部屋の前に立って中の様子を伺った。
「やっと二人になることができましたね。実は私から話したいことが……」
すると、背後からドアが開く音がした。
ルナが慌ててドアを開けて僕らを部屋の中に押し込んだ。
「ちょ、やめろ!」
言ったときにはもう遅かった。メヘルキアさんとデラキさんは驚いたような表情で僕を見ていた。
「君は……」
僕は立ち上がって、改めて自己紹介をした。
「えっと、僕はロナと申します」
デラキは愛想笑いを浮かべて、僕と握手して言った。
「何の用でこの部屋に?」
僕はなぜこの部屋の中に入って来たのか思い出してルナを睨んだ。ルナは苦笑していた。
「いやあ、リデナさんという人が出てきたと思ったので」
「リデナさん?」
デラキは目を大きく開いてドアを見つめていた。そして一息つくと僕の肩に手を置いて微笑を浮かべた。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
僕は何のことかわからず、首を傾げた。
「何のことでしょう」
「いいや、こっちの話だ」
そして彼は落ち着いた様子で壁に背を預けてレニティカを見た。
「レニティカちゃんだったよね?君の事はメヘルキアさんから聞いている。知りたがりの子だって」
その言葉には少し重いものを感じた。
「知りたがりの彼女を連れてこの部屋に入ってきたと言うことはそれなりの理由があるんだろうね」
「それはこのルナの言った通りで……」
「他の理由があるんだろう?」
彼の目は僕を見透かしていた。鋭い目だった。
僕はこっそりとレニティカに視線を向けた。レニティカは自分に任せてほしそうな表情をしていた。
僕は手でレニティカに指示した。
レニティカは大きく頷いて言葉を発した。
「私は一家をリデナ姉さんから解放しようと思ってるの」
デラキさんは目を細めてレニティカをまじまじと見た。そして言った。
「ほう、リデナさんから解放させたいと」
「そう。姉さん、皇太子さまの妃候補になってから調子に乗っていて、私も含めてみんながかわいそうなので」
デラキさんは僕らを交互に見たまま何も言わなかった。
すると、今まで黙っていたメヘルキアさんが言った。
「リデナから解放?」
レニティカはためらいながら頷いた。
「お母さんも今の姉さんは嫌でしょ?だから一旦距離を置いて姉さんを落ち着かせるの」
メヘルキアさんは苦笑して窓越しに外を見た。
僕も背を伸ばして外を見ると、外には兵士たちが城の前に簡単なつくりの小屋を建てて泊まっていた。
「なんで兵士たちが……!」
「リデナの兵士たちよ。あの兵士たちがいる限り、私たちは逃れられないわ」
僕はクロックサスさんの話を思い出した。
ルーテリア一家という金魚たちは、リデナさんという飼い主の兵士という水槽によって飼われている。
今この城は兵士たちに囲まれている。だから城の中にいる僕も、今はリデナの金魚だ。
そう思うと体が震えだした。
レニティカの願いはかなえられないかもしれない。
「いや、勇者様がいるから大丈夫でしょう」
デラキさんは先ほどまでの相手を疑うような表情とは裏腹に微笑を浮かべていた。
「我らの事情を聴けば必ず勇者様は味方に回ってくれるはずです」
「母さんは?」
レニティカが不安そうな表情で訊いた。
メヘルキアさんはしばらく黙って外を見ていたが、一息つくと首を横に振った。
「私はやっぱり反抗してはいけないと思います。レニティカ……」
レニティカは頬を膨らませて自分の母親を睨んでいた。自分の思い通りに母親が動いてくれなくて苛立っているのだろう。
メヘルキアさんは娘を見つめたまま言った。
「リデナは子供の頃からあんな性格だったのよ。少しひどくなっているけれど。私たちが解放したとしても、あの子の性格は変わらない。もっと悪くなるだけよ」
レニティカは母親に背を向けてドアに手を掛けた。そして、一言小さな声で呟くと、部屋から出て行った。
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