第12話 レニティカの相談
僕は自分の部屋に入ると、ベッドに飛び込んだ。自分のいい香りが匂ってくる。
このまま寝てしまいたかったが、まだ自分の仕事が残っている。それにまだ昼だ。
それにしても、あの一家はおかしかった。
勇者様の言うとおり、家族として成り立っていないような気がする。
リデナさんが来た途端に皆静かになった。よほどリデナさんが怖いのだろう。
「悩んでいるようね」
顔を上げるとルナが立っていた。
「悩みじゃない。ただあの一家が気になっただけだ」
「ああ、例の一家。一日の辛抱よ」
僕は苦笑した。今日という一日は長くなりそうだ。
すると、ドアがノックされて開かれた。
「えっと、確かレニ……」
「レニティカよ」
レニティカさんは無表情で部屋の中に入ってきた。
「何の御用でしょうか?レニティカさん」
僕は立ち上がってレニティカさんの方を見た。
レニティカさんはまじまじと僕を見て言った。
「同年代なんだし、呼び捨てでいいよ」
「レニティカでいいですか?」
「敬語も抜かして」
「レニティカでいいのか?」
レニティカは頷いて周囲を見渡した。
「ちょっと汚い」
「レナの部屋に比べればどうってことない」
ルナはにやりと笑った。
「それ、レナに言っておくね?」
「やめてくれ」
レニティカは頬を膨らませて僕を睨んできた。
「私を除け者にしないでくれる?」
「ごめん。それで何の用だ?」
レニティカは一息つくと話し始めた。
「リデナ姉さんについて何だけど」
嫌な予感がした。
「私達ルーテリア一家をリデナ姉さんから解放させてほしいの」
ルナは意味が分からずに首を傾げた。僕も首を傾げた。
「リデナ姉さんは昔は優しかったの。でも半年前、リデナ姉さんは皇太子の妃候補となった時から姉さんの態度が変わった。『将来妃になるから』という口実で私たち一家を支配するようになったの」
「支配っていうのは具体的にどんな感じなんだ?」
「悪いことをしてしまったときに私たちのせいにしたり、代わりに謝らせたり、面倒なことを私たちにやらせたり。それに、私たち一家は貴族の中で貧乏な方だから奴隷などいない。だから掃除とか料理などの家事も自分たちでやるの。だけど、姉さんだけは何もしないで、窓が汚い、料理はまだか、など文句を言う」
ルナが思わず言葉をこぼした。
「酷い姉さんだね」
レニティカは何も言わずにうつむいた。
自分の姉が酷い奴だと認めたくないのだろう。しかし、酷いことをしているのは事実だ。
「それで、僕らは何をすればいいんだ」
「リデナ姉さん以外のみんなに、姉さんに反抗しようとする気分にさせてほしいの」
僕は思わず笑ってしまった。
レニティカが不安そうに訊く。
「何がおかしいの?」
「あまりにも難があると思ってな」
「それなら苦笑でしょう」
「とにかく、ルナ……」
ルナは僕の背を軽く叩いて横を見た。
「言っておくけど、私は協力しないから」
僕はルナの腕を掴んで叩くのを止めさせた。
軽くたたかれているはずなのに予想以上に痛かった。
「お前には必ず協力してほしい。今回幼女の力がとても必要なんだ」
「幼女の力?」
僕は目を輝かせて頷いた。
「そう。幼女というのは一般的にかわいいものだ。だから僕が話すよりもお前が話す方が興味を持ってくれるんだよ」
ルナは気持ち悪いものでも見るかのような表情で後退った。
「それってあなただけじゃないの?」
「いや、僕だけじゃないはずだ」
「いやいや、あなただけでしょ。気持ち悪い」
「いやいやいや、必ず……」
レニティカはまた頬を膨らませて睨みつけてきた。
「それともう一つあるの」
僕はため息をついてベッドに座った。立っているのが辛かったからだ。
「それで、何だ?」
「あなたは見たわよね。私の母さんと二人の男が話していたところ」
僕は頷いた。
「話していた理由も分かっているわよね」
「ああ。どちらと結婚するか、だろ?」
「そうよ。あれは私の父さんが死んでしまったからなの。だからあの二人がその隙を狙ってやって来たの」
そして彼女は一息間を空けて言った。
「あまりにもタイミングが良すぎるとは思わない?」
僕は肩を竦めた。
「そういえば一つ言い忘れていたわ。父さんが死んだってことはまだ世間に広まっていないの。だからあの二人にもわからないはずなのよ」
僕は適当に返事した。
「確かにそうだな」
「だから調べてみたのよ。色々と」
「色々とってどんなことを調べたんだよ」
「例として述べるならば、父さんの死因かしら」
「それで何か分かったのか?」
レニティカの目を見ると、星のように輝いていて、嬉しそうだった。
「もちろん!父さんは事故死じゃなくて意図的な殺人だったの。きっとあの二人のうちのどちらかよ。だから……」
レニティカは僕の手を取って言った。
「あなたに私が調べるのを協力してほしいの」
僕は思わず頷いてしまった。それほどレニティカの圧がすごかったのだ。
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