第7話 神と人間の娘
女の人は、僕を見つめたまま話し始めた。
「私はセルナ・フュリュンと申します。ロナさんの今までの記憶を帳消しして、世界の時間を戻した神ドゥリュハンと、一般的な人間の女リンナの間に生まれた娘です」
僕はその言葉に喰いついた。
「僕の今までの記憶を帳消しした?世界の時間を戻した?どういうことだ」
セルナは、少し驚いていたが、フッと笑うと、私に向かって手を伸ばした。
「かわいそうな人ですね。何度も何度も同じ苦しみを感じて生きていかなければならないなんて」
彼女に触れられた途端に脳内に誰かの死骸が浮かんだ。誰の死骸か分からないが、自分が大切にしていた人だったような気がする。
「その女性はね私のお母さんよ」
「と言うことはリンナか?」
セルナは頷き、僕から手を引いた。
「私が知っていることは、あなたは私の母、リンナと結婚しようとしたこと。それだけ」
「は?」
僕はあまりの期待の外れ方に言葉をこぼしてしまった。
「それだけ?」
セルナは申し訳なさそうに頷いた。
「ごめんなさい。私が生まれたのはつい一週間前だから」
一週間前となると、僕が城に住み始めたときだ。
「一週間前ってことはまだお前は赤ちゃんだろ?なんでそんなに年取ってるんだ」
セルナは頬を膨らませて叫んだ。
「年を取ってるとは最低です!」
すると、通りかかった管理人かうるさいと怒鳴られてしまった。僕はにやりと笑って小声で言った。
「それじゃあセルナ。なんでお前は赤ちゃんのはずなのにそんなに年取っていて知識があるんだ?」
「私を侮辱しているのか褒めているのか分かりませんが、調子に乗ってきていませんか?」
ぼくは肩を竦めてごまかした。彼女をからかうのが面白く感じた。
「それより、僕の質問に答えて」
セルナは、言葉を考えながら告げた。
「えっと、まずは神の特徴を教えますね。神は不老不死なので、年も取らないし、死ぬこともありません。だから、生まれる時は年を取った姿で生まれるんです。私も神の血を受け継いでいるため、年を取らないし、元からこの姿なんです」
僕は相槌を打った。目の前にいる女性が本当に神の血を受け継ぐものか疑わしかったが、この話を聞いて彼女は本当に神の血を受け継いでいるのだと確信した。
「ですが、人の血も受け継いでいるため、不老であっても不死ではないんです」
ふーんと素っ気なく言った。すると、セルナは僕を睨みつけた。
「本当だったら超極秘な情報なんですよ?そんな情報を素っ気なく受け流すなんて」
僕にとってはどうでもよかった。どうせ神と会う事なんて無いだろうし。
セルナは僕の心を読んだかのように言った。
「私が持っているこの本は、あなたの本なんです」
僕は、セルナがどこからか出したその本を見た。全体が金箔に包まれていて、その中心に、ロナと書かれていた。
「僕の本?」
「そうです。この本はロナさんの行く末を描いた物語なのです」
僕は本から目を離さずにセルナに訊いた。
「この中に、俺の記憶があるのか?」
すると、セルナは残念そうな表情で本の二ページ目を開いた。
両面のうち、片面は文字があるが、もう片面は真っ白で何も書かれていなかった。
「どういうことだ」
「実は、時を戻されたので本の物語も消えたのです。ですが、これは大チャンスです!」
セルナは僕に満面の笑みを見せた。
「時が戻される少し前に、この物語の結末だけを見たのですが、とても残酷でした。号泣しそうな程でした。だから、私があなたのサポートをして、バットエンドではなく、ハッピーエンドにさせます」
僕は苦笑して本の文字を見た。少し変な文字が混じっていたが、どうにか読むことができた。
『ロナは、幼女二人を連れてルーロス城から逃亡した。しかし、城に出ると悪魔たちに囲まれてしまう。牢を管理していた悪魔で体力を削られたため、戦うことができない。悪魔たちは目を輝かせながら少しづつ距離を詰めてくる』
そこでぶんしょうは終わっていた。
「中途半端に終わっているな」
セルナは文章を呼んで苦笑した。
「言い忘れていたけれど、本は一ページ分先の出来事まで書かれているの。だけどその短所として、出来事の結末までは見せてくれない。出来事の解決策は自分で考えなくちゃならないの」
僕は腕を組んで唸った。僕はこれからこの牢から脱出して逃亡するのだろう。しかし、城から出たとたんに悪魔たちに囲まれてしまう。一体どうすればいいのだろうか。
すると、この文章にセルナが現れていないことに気づいた。
「なあ、セルナが現れていないのは何でだ?」
「ああ、私は本当だったらあなたに出会うことのない人物ですから本には出ないのです。あなたの行動がこの本と違うものにならない限りは」
「つまり、もともと作られた一本道を、僕が歩まなかった場合、また新たな道が作られると」
セルナは嬉しそうに頷いた。
「乗り込みが早いですね」
セルナにそういわれて少しうれしかった。だがそれをセルナに知られたくなかった僕は、目線を反らした。
「そういえば、セルナは人間の年齢で何歳なんだ?」
「えっと御想像のままに」
そういわれると、個々の中がもやもやしてきた。
「気になるから大体でもいいから教えてくれよ」
セルナは少し動揺したが、微笑して言った。
「ロナさんと同年代だと思います」
と言うことは十五歳か。
僕は、今目の前で微笑している彼女を見て嬉しくなった。
彼女がいれば、僕の忘れ去られた記憶を思い出すことができると考える気持ちが高ぶった。
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