第5話 異世界から到来した勇者
午後八時ごろ、昼間に出会った青年の事についてレナとルナに訊いた。
話によると、青年は、勇者なのだそうだ。勇者というのは、魔王を倒すために選ばれた勇ましい人物なのだそうだ。
そして、その勇者はこの国の中から選ばれるのではなく、神様が他の世界で生きる人から選ぶのだそうだ。
選ばれた勇者は、魔王を倒すまでこの世界で生きていかなければならない。魔王を倒した後は、勇者自身がこの世界に残るか、元の世界に戻るか決めるらしい。
「でも、途中で死んでしまったらどうなるんだ?」
ルナは呆れたように息をついて言った。
「選ばれた人だから死ぬわけないでしょ。一応神様から不老不死の翼を貰っているらしいわ」
僕はルナの顔に近づいて訊いた。
「どんな翼なんだ?」
ルナはにやりと笑った。
「それが私にも分からないのよ」
期待していた自分がアホらしく思えた。
その不老不死の翼というものは、死に直面しない限り現れないのかもしれない。
「魔王を倒しに行くのかぁ。勇者ってすげえなぁ」
レナは目を細めて僕を睨んできた。
「勇者じゃないよ。勇者様!」
僕は苦笑して『勇者様』と言い直した。
「でも本当に神様っているのか?」
ルナは当たり前と言わんばかりに腕を組んで頷いた。
「いるに決まっているじゃない。いなかったら勇者様はどうやってこの国に来たと説明するの?」
確かにルナの言うとおりだ。僕でも、それ以外に勇者様がどうやってこの国に来たのか理由が浮かばない。
そういえば、初めて会った時に感じていたが、普通の人と違う気配をしていた。その気配も異世界の人独特の気配なのだろう。
そう考えていると、城の入り口の扉が開かれるような音がした。ルナは嬉しそうに飛び上がった。
「噂をすれば!」
ルナの言っている人はきっと勇者様の事だろう。早速部屋を出て入り口に向かうと、ルナの予想通りで、勇者様がため息をつきながら汗を拭いていた。
僕は不安げに勇者様を見た。
「あの女はどうしましたか?」
勇者様は微笑を浮かべて、親指を立てた。
「大丈夫だ。町を支配する管理場に送ったからな。きっとあの女は、あそこで首を切り落とされることだろうよ」
――首を切り落とされる?
今日は嫌な予感しか感じない。うれしい時もあったが、嫌な予感にすぐにかき消されてしまう。
僕はうつむいてこぶしを握り締めた。
別に僕は死んでいない。だからあの女も死ななくていい。
僕の表情に気づいた勇者様は、肩に手を置いて優しい笑みを浮かべた。
「気持ちは分かった。それじゃあ監獄に送り込むように提案してみるよ」
僕は少し悲しそうな笑みを浮かべて勇者様を見上げた。
――勇者様は優しい人だな。
その時はそう感じていた。
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