第8話

 坂東は直前まで嫌がっていました。私のやり方について、狂っているだの他に方法はないのかだの、いろいろと喚いておりました。


 弱い男です。弱いくせに主張だけは一丁前で責任は取らないのです。うるさい坂東に私は言いました。あなたが手を下さなければ私がやりますと。私の発言に坂東は青くなっておりました。怖い女だとも申しておりました。その時のために新しく買った小さなナイフを見せると坂東は私に土下座をして許しを請いました。土下座などという安っぽいパフォーマンスで私があなたたちを許すとでも思ったのでしょうか。なめられたものです。


 私は事前に興信所を使って坂東とあなたの行動を調べておりました。あなたのことは特に細かく調べてもらい、会社の場所、通勤電車の時間まで私は把握しておりました。ですから場所を選んであなたに害を加えることなど容易いことだったのですが私はそれを坂東自身にやらせたかったのです。


 自分の手で愛する女と子を殺して罪悪感で立ち直れなくなるほどのダメージを与えることが私の最大の復讐でございました。


 弱い坂東はあなたを押すときに怯んだのではなく、わざと手加減したのかもしれませんね。坂東は階段から落ちたあなたをちゃんと見もせず人ごみの中から素早く逃げてゆきました。慌てて駆けてゆくあの後ろ姿の情けなかったこと・・・。あなたにも見せてさしあげたかった程です。

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