その7 エピローグ
車内アナウンスが、あと一時間で東京駅に着くことを知らせた。
俺は座席に腰を下ろしたまま、軽く伸びをし、首を左右に振る。
幾ら何でも、こう長い間腰かけていると、流石に身体のあちこちが痛くなってきた。
”彼女”の方は相変わらず何事もなかったように、微動だにせず、まっすぐ前を見つめている。
え?
(あの後、何もなかったのかよ)って?
あったさ。
おかしな連中がまた三度ばかり襲ってきた。
だがな。
幾らなんだって新幹線の中で銃撃戦をやらかすほど、俺は勇気のある人間じゃない。
おまけにこっちは、かっこいいアクセサリーで繋がれた身の上だ。
二度は
”彼女”の手を借りなきゃならなかった。
神も仏も、奇跡も超能力も信じない俺だが、これだけは認めざるを得ない。
何しろ睨みつけただけで銃が壊れたり、人間が吹っ飛んだりしたんだからな。
俺は呆れてもう言葉もなかった。
東京駅には、
”切れ者マリー”と、そして
係官が、物々しくお迎えに遊ばしてくれていた。
手錠を掛けられたまま、俺達はワゴン車に乗り込んだ。
誰も口を聞かない。
そのまま車は中央区にある『自衛隊中央病院』に向かった。
ワゴンがゲートを通り、病院とは別棟にある研究施設。
(恐らく化学防護隊が管理してるんだろう)に向かい、そこで降ろされた。
建物の中に入ると、検疫を受け、そこでようやく
やれやれ・・・・俺が手首をこすると、再び頭の中に、
(有難う)
という声が聞こえた。
(なんの、俺は
素っ気なく返し、シナモンスティックを二本取り出すと、一本を咥え、もう一本を”彼女”に渡した。
向こうは不思議そうな顔もせずに、黙ってそれを受け取り、俺の真似をして咥えて見せる。
間もなく”彼女”は、両脇を白衣の防護服で身を包んだ係官に抱えられて、どこかに連れられて行った。
俺は黙ってその後姿を見送った。
『ご苦労様』
肩を並べて建物を出た時、マリーが俺に声を掛けた。
『面倒な仕事を押し付けちゃったみたいね。』
彼女にしては殊勝げで、すまなそうな口調だった。
『お詫びと言っちゃなんだけど、成功報酬は四倍増しにしておいたわ』
『いや、いい』
俺が返すと、真理は不思議そうな顔で俺を見つめた。
『今回、俺は何にもしちゃいない。活躍したのは殆ど”彼女”さ。だから通常のギャラと必要経費、それに危険手当だけでいい。何もしてないのに余分な金を貰っちゃ、やらずぶったくりってもんだ』
マリーがにこりと笑い、咥えたシガリロから煙を吐き出した。
『貴方らしいわ。だから好きなの。探偵さん。』
『じゃ、こうしましょう。今晩奢るわ。付き合わない?』
『そうだな。それならいい』
俺は一本目を
例の”謎のウィルス”とやらが急激に収束し、スーパーの棚から消えていたマスクや消毒薬が戻って来たのは、それから二週間ほど後のことだった。
彼女がどうなったのか、俺は知らない。
終り
*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。
俺と手錠(ワッパ)と宇宙人 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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