その6 敵襲 二
その時、背後でドアが開いた。
”彼女”は何事もないような、いや、正確には依然として無表情のまま、屈みこんで二人の様子を確認していた俺を見下ろし、
(大丈夫、死んではいないわ)
また俺の頭の中に話しかける。
(なんで、それが分かる?)
俺が頭の中で問いかけると、
(私には分かるのよ。それだけ)
俺は立ち上がり、一応二人を結束バンドで縛り、武器を取り上げておいた。
グリーン車に戻ると、残りの”野郎ども”は、平然と戻って来た俺達二人を、驚きの眼差しで見つめながら、全員が身構えた。
さあ、何時でも来い。
こうなりゃ、何でもやってやる。
一人がナイフを抜いた。
もう一人はチェーン。
あとの二人は飛び道具だ。
俺の右手が懐に入ると、また声が聞こえた。
(待って)
言葉と共に、彼女は立ち上がり、目を大きく見開いた。
さながら歌舞伎の市川団十郎がやるような、
”にらみ”で、こちらに向かって迫ってくる”奴ら”を、凝視しながら、口を開け、鋭い音(これは普通に耳に聞こえた。)を発する。
その瞬間、辺りが真っ白になった。
誇張じゃない。
本当にそうなったのだ。
しかもその、耳の奥底にまで響く、鋭い音に、俺は思わず懐から手を放し、耳を抑えてしまったくらいだ。
見ると、武器を持って身構えていた”奴ら”は、苦しそうな呻き声を発し、武器を捨て、膝をついてのたうち回り始めた。
流石の俺も、目の前で起こっている出来事が信じられない。
(さ、早く)
また頭の中で彼女の声が囁く。
気が付いたように(本当にそうだった)、俺は連中から武器を取り上げた。
新青森に着いた。
その時になって、やっと車掌がおっとり刀で飛んできてくれ、俺は事の次第をかいつまんで話す。
自分が管理している車両の中でこんな騒ぎが起こったので、明らかに彼は迷惑そうな表情を浮かべていたが、それでも俺の説明に、一応は納得したようだった。
駅のプラットフォームには、制服姿の鉄道警察隊の隊員が待っていて、俺達が縛り上げた”連中”を捕まえて、片っ端から連れ出して行った。
連中は意識は失っていたものの、どいつも命には別条がなかったらしい。
”詳しい事情が聞きたいのだが・・・・”隊長と思しき警官が、遠慮がちと言った体で俺に訊ねてきたものの、こっちは”仕事中だから”と断ったところ、向こうもそれ以上は突っこんでこようとはしなかった。
そうでなきゃ、鉄警隊とはいえ、
新青森で東北新幹線に乗り換え、そのまま後は東京だ。
この間、何も起こらないことを祈るばかりだ。
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