第3話 新入生首席ですみません!?

 世界最高峰の高等魔術教育機関《マルノス魔術学院》の入学試験はその難易度において苛烈を極めるというのは言うまでもないことだが、その入試形態もほかの学校とは大きく異なっている。

 《マルノス魔術学院》では新入生選抜のための試験において『魔術技能試験』に追加して『筆記試験』を課している。

 軍国主義が進みつつある現世界情勢の中では単なる『魔術の技能』が即戦力になりやすいため、教育の本主とされることが多いが、この学院では魔術の本義は『真理の探究』にあるとしており、入学試験でもそのことが反映されているのだ。

 そのため筆記と技能の点数配分は筆記のほうにウェイトが偏っており、単純な満点換算でいえば『筆記試験』だけでもかなりの高得点を出すことができる。

 とはいえ、そこは《マルノス魔術学院》。入学試験はそう甘くはできていない。世間一般では全体の『四割』取れれば確実に合格――つまり、《Cクラス》程度の力があるといわれているのだ。

「ふむ。《Aクラス》は筆記、技能の両方で高得点を取っていないと入れない。貴様が頭だけ、もしくは技能だけのぼんくらではないということは今ここにいることが証明しているな。【賢者】の孫、レイ・アスタルテ」

 クラスでひとしきりホームルームと新入生への説明などが終了した昼休み。

 レイは席に座らされ、セレーナから質問攻めにあっていた。

 そんな二人をクロイスは後ろから見て、冷静にそう解説を付け加えた。

「そんなはずはありません。このレイという少年は今朝、ごろつきにさんざん暴行を受けたあげく何も抵抗できないでいたんですよ! それともあれは演技だったと? もしそうならなぜそんなことを?」

 質問をまくしたててくるセレーナにレイは「うぅ」とうめいて後ずさった。

「そいつはもしかしたら【付与】特化の魔術特性なのかもしれない。もしかしたら一般人に魔術の矛先を向けることをためらう紳士なのかもしれない。あるいは単に殴られて喜ぶマゾだったのかもしれない」

 三つ目だけなんだか怖いことを言いながら、椅子に腰かけていたクロイスは立ち上がり、セレーナの肩に手を置いた。

「セレーナ嬢よ。貴様がこの男にこだわる気持ちもわからんでもない。こいつの腑抜けた態度は甘えだ。しかしな、自分の問いに対して必ずしも納得できる答えが返ってくると思うのもまた、一種の甘えだ」

「ですが・・・・・・」

 やはりなおも食い下がろうとするセレーナにクロイスは無表情のまま続けた。

「今日の午後は各々の特性検査だ。そこで分かってくることもあるだろう」

 暗に「今は開放してやれ」とクロイスが言うと同時、レイのおなかが、ぐう、と音を立てた。

「あ、その、そろそろお昼、食べてもいいですか?」

 レイのなんとも下出気味なその態度に、セレーナはどうにもやるせなくなってし

まうのだった。


   ***


「あのっ、クロイス君、さっきはありがとう」

 午後の特性検査のための移動中、レイはクロイスの後姿を見つけてそう声をかけた。

 ただでさえ心労がたたっているというのに、昼食を抜かざるを得なくなりそうだったのだ。その点でクロイスの助力は大きかった。

 レイからの呼びかけにクロイスは一瞬、後方を振り返ると一瞥だけして視線を元に戻す。

「? 意味が分からん。貴様はそんなことでいちいち礼を言うのか。俺は単にうっとおしいことが嫌いなだけだ」

 きつい口調でそれだけ言うと、クロイスは歩調を速めて先に行ってしまった。

(ああ、これから僕、いきていけるのかな・・・・・・?)

 のっけから面倒な環境に置かれてしまったレイは、周りに人がいないのをしっかり確認して、はぁ、と大きなため息をつくのだった。

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