紫蘭の花言葉を知っているか

佐々木実桜

今日という日

3月9日、卒業式。


大きめに買ったはずの制服は、初めて着た時より随分ぴったりになった。


3年間の時を経て、私は今日、卒業する。


推薦だった私も、そして幼馴染も進学先はもう決まっている。


私は地元の高校に、幼馴染はこんな田舎とは遥か遠く離れた県の高校に行く。


引越しの準備はもう済ませたらしい。


今日の卒業式が終わって、少ししたら行くのだと、そう言っていた。


ずっと一緒だったのに。


親の縁で2歳からずっと、一緒だった。


なぜか高校も、一緒だと勝手に信じてた。


でも、幼馴染は成長したのだ。


一緒に始めたバスケットボールで類まれなる才能を見せた幼馴染は、ひたすらにバスケに打ち込んだ。


その練習に付き合っていたこともあったし、自主練をする傍らで動画を回したりもして、全国大会の日も両親に連れていってもらった。


それほど、幼馴染はバスケが好きだった。


だから、何も不思議なことは無い。


全国大会で輝かしい成績を残して強豪校の監督の目に止まった幼馴染は、そのずっと遠くの高校を受け、そして受かった。


それだけ。


それでも、やっぱり寂しく感じてしまう。


だって2歳から一緒だったのだ。


隣にいないことが、当たり前じゃない。


やけに見通しのいい右側に、居心地の悪さを感じる。


3月9日、別れの日。



「なあ、春香」


式典を終え、写真も撮りあって、幼馴染の家で、部屋で、2人きりにしてもらった。


「なーに」


「紫蘭の花言葉って知ってるか?」


彼が花言葉なんか珍しい。


「知らないなあ」


「そうか、まあ帰ったら調べてくれ。」


「分かった。で、その紫蘭がどうしたの?」


「俺、何ヶ月に1回は、お前に紫蘭を送ろうと思う。」


「どうしたの?やけにロマンチックじゃん。いいよ、花とかって柄じゃないし、私。」


「俺が贈りたいんだ、ダメか?」


ガタイはいいくせに子犬のような目で見つめてくる彼につい頷いてしまう。


「よかった。でも、彼氏が出来たりでもしたらやめてって言ってくれな。」


「…できないよ」


「できるさ、春香は可愛いんだから」


「できない、可愛くないし、恋とか向いてないし、それに、」


「それに?」


「あんた以外を好きになんてなれない。」


柄じゃないやりとりで、ついに私の涙腺は決壊してしまった。


「……」


「ごめんね、最後なのに」


「いや、」


「忘れて。ほら、もう時間だ。パパさん待ってるよ。」


「春香…」



そのまま、別れてしまった。


勝手に気持ちを告げて、無かったようになんて出来るわけないのに、1人だけすっきりとしたことを心残りにしながら私は家に帰った。


そして、母から渡された手紙を読んで、また、涙で前が見えなくなった。


『春香へ』


紫蘭の花言葉は、

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