能力の無い俺が魔人と戦えるまで成長した件
七川夜秋
能力の無い俺が魔人と戦えるまで成長した件
「だああああああ!クッソおおおおお!」
そう言って俺たちはダンジョンから飛び出した。
「だから言っただろう!お前にはまだ早いって!」
タンクの男が少し怒り気味になって言った。
確かにそうだ。
こんなに全力でダンジョンから逃走することになったのは俺が原因だった。
俺は特に何の能力も無い平凡な剣士だ。
どちらかというと平凡よりも下かもしれない。
まだ誰も攻略していないダンジョンを見つけたので、何人か知り合いを誘って挑戦しようという話になり今に至る。
まあ、うまい話はないよな。
そう思いながらひたすら走った。
途中、なぜか目の前が眩しくなったがそんなことを気にしている余裕はなかった。
街に戻ったあと全員に謝罪をした。
なぜなら俺のレベルがパーティーの中で一番低かったからだ。
それに比べて俺以外のパーティーメンバーは全員ベテランだった。
だから俺が敗因であることには間違いなかった。
全員嫌な顔をしていた。
誰も口にはしなかったが全員心の中で
「もうコイツとは組みたくない」
と思っているに違いないだろう。
宿に戻り、装備のメンテナンスをする。
俺が攻略できるクエストは報酬が安いものばかりなのであまり良い装備ではない。
普段は攻撃力は低くても耐久力の高い装備を買うようにしている。
耐久力が高くても扱いが適当だとすぐにボロボロになってしまうのでメンテナンスも重要だ。
明日はいつものクエスト受けよう。
そう思い今日は早く寝ることにする。
翌朝、予定通りいつものクエストを受けた。
昨日のクエストに比べて今回はいつものクエスト。
スライムを30体倒すだけで良い簡単なクエスト。
その余裕が仇となってしまった。
いつもの15体までスライムを倒したとき後ろから切りかかられた。
「ぐはっ!」
切りかかられる?なんだこの敵は?スライムにそんな攻撃技はないはず。
とっさに振り返る。
するとそこにはこのあたりでは滅多に現れることのないレアモンスターがいた。
レアモンスターだからと言って弱いわけではない。
かと言って強くもないのでここは一攫千金のチャンスだった。
「はあっ!」
気合を入れて掛け声とともに剣を振りかざす。
クリティカルゾーンに見事に入った。
だがスライムに比べてHPの減りは少ない。
スライムと戦うときよりも集中力を高める。
「グウォォォォォ」
向こうも気合をいれたのかけたたましい鳴き声が草原に響き渡る。
今度は向こうから切りかかってきた上手く避けれずに少しダメージを受ける。
だが、これで相手に隙ができた。
ここぞとばかりに切りかかる。
ようやくHPの1割を削れたというところだろうか。
くっ、このままだと長期戦になりそうだ。
その予想通り長期戦にもつれ込んだ。
時折、相手の剣が俺の体を掠める。
まずい、このままだと先に俺のほうがやられてしまう。
さらにこの状況に追い打ちをかけることが、回復薬が無いことだった。
昨日のダンジョン攻略のためにお金をつぎ込んでしまい、今日の回復薬を買える分のお金もなかった。
こうなったら相手の攻撃を躱すよりも剣で受け流したほうがいい。
失敗したときに受けるダメージは大きくなるがしっかりと受けることができるならば受けるダメージがなくなる。
よし、それでいこう。
実際にそれで2回は成功した。
だが、問題は3回目だった。
ピシッ。
俺の剣から嫌な音が走ったと思うと剣が半ばから砕け散った。
相手の攻撃を受け流すことができなかった俺はダメージをまともに受けてしまった。
ヤバい。俺のHPはあいつと遭遇した時には7割くらいあったはずなのに、もう1割を切ってしまっていた。
瀕死状態だった。
痛みと恐怖で逃げ出すことができない。
こんな深手を負ったのは初めてだった。
しかも、相手のHPはかなり残っている。
絶体絶命だ。
相手が剣を振りかざす。
ああ、これで終わりなんだな。あれが振り下ろされた瞬間に俺が今まで積み上げてきたものが全てなくなる。積み上げてきたもの?俺には何もないじゃないか。何もないまま終わっていいのか?いや、よくない。でも俺はどうすれば、、
〝剣を振れ〟
どこかから声が聞こえた気がした。
もう敵は剣を振り下ろそうとしていた。
とりあえず何もしないよりはマシかと思い目を瞑って思いっきり剣を振る。
ああ、これが最後の一振りか。
そう思って剣を振ったあとしばらく目を閉じていた。
だが、いつまでたっても最後の一撃を食らうことはなかった。
おそるおそる目を開けてみる。
すると目の前には敵はおらず、ドロップ品だけが残されていた。
俺があのレアモンスターを倒したと理解するまでに少し時間がかかった。
でもどうやって?
まあ、そんなことはどうでもいい。
周りに人はいないから倒したのは俺ということでいいだろう。
それよりもドロップ品だ。
これは超の字がつくほどのレアもので高く売れる。
これで装備も今までのよりも良いものが手に入るな。
そう胸を弾ませていた。
大金を手にして装備をそろえる。
あのレアモンスターをあの状況から倒せたということは俺は覚醒したということか?
それが本当か自分を試そうかと思い少し難易度が高めのクエストに挑戦してみる。
今回は装備もしっかりとしているし回復薬も十分にもっているから前回みたいなことにはならないだろう。
数分後、
「なんでーーー!」
そう叫んでいた。
覚醒したはずなのに攻撃が全く通らないのだ。
それどころかこの前までとはいかないがダメージを食らってしまっている。
なんでだ?あのときは敵の残りのHPを全て吹き飛ばすほどの攻撃ができたのに。
あのときをよく思い出してみる。
そういえばあの時・・目を瞑っていた・・・?
試してみよう。
相手の攻撃を見ることができないので少し怖いが、回復薬はかなりある。
深呼吸をして目を瞑る。そして思いっきり剣を振った。
手ごたえは十分だった。
やはり目の前にはドロップ品だけが残されていた。
この力を使い続けてなんとかクエストをクリアすることができた。
それでわかったのだがこの力は剣が受けたダメージを倍にして攻撃できるということだ。
ただし剣の耐久力の減りが尋常ではないが。
俺はこの力を使いまくった。
剣の消費量はかなり増えたが、それ以上に稼ぐことができる。
それから常に剣を2本以上持ち歩くことにした。
そのおかげで街ではすっかり有名になり、色々なパーティーから誘われるようになり、さらに知名度は上がっていった。
それから数日が経ち、この前のパーティーリーダーから呼び出された。
「先日はすまなかった。またパーティーを組んであのダンジョンに再挑戦しないか?」
「いいですね。俺も近々またあのダンジョンに潜ろうとおもってたんですよ。」
俺はリーダーの提案を快諾した。
今回は俺が力に目覚めているので足を引っ張らずに済みそうだ。
なぜならもう既に前回よりもダンジョンの奥へ進んでいる。
敵は強かったがそれ以上にパーティーの人たちと俺の力も強かった。
「今回は余裕だな。ピノも強くなったし。」
「こら、それをいじらないの。ピノ、ごめんな。」
ピノというのは俺の名前だ。
「いいよ、別にもう気にしていないし。」
そんな雑談をしながらもダンジョンの奥へと進んでいった。
しばらく進むと大きな扉の前までたどり着いた。
「ここがこのダンジョンのボス部屋だな。気合いれてくぞ!」
パーティーリーダーが全員に活をいれた。
「おーーー!!」
俺らもそれに続き掛け声を上げる。
リーダーが扉を開けるとそこには他の部屋の3倍は広い空間に出た。
そこには自分の背丈の5倍はあろうかという巨人がどっしりと座っていた。
しかもただの巨人ではない。
「ヨクココマデキタナ。」
圧がすごい。しかも人の言葉を話している。
たしか人の言葉を話せる魔人は上位の魔人だけだったはず。
となるとかなりの手練れの魔人だ。
目の前にいるだけで少しすくんでしまう。
それは他のパーティーメンバーも同じだった。
だが、俺には勝算があった。
なぜなら俺の力は敵から剣に受けるダメージが大きければ大きいほど敵に返す力も強くなるからだ。
「大丈夫。俺の力を使えばこんな相手余裕だぜ!」
そういうとみんな口々に
「そうだな」とか「俺たちだって十分強いんだ」などと活気を取り返した。
「行くぞっ!」
そう言って俺は先陣を切った。
戦況は言うまでもなくこちらが不利だった。
味方が大分ダメージを受けてしまっている。
相手の一撃のダメージが大きすぎて回復が追い付かないのだ。
だが、まだ勝てる要素はある。俺の力だ。
俺は剣が折れるギリギリまで剣で攻撃を受けてそれから力を使うつもりだ。難しいのは使うタイミングだ。力を使ったあとに剣が折れるのは良いが使う前に折れてしまっては元も子もない。
「ピノ、これから隙を作る。だからその間に思いっきり畳みかけろ!」
そう言うとリーダーは突っ込んでいき、大技を放った。
それを相手は大きな動作で回避する。
それを見て俺は今しかないと思い、力を繰り出す。
「これで終いだ!」
そう言って剣を振りかざす。
殺った。
確実にそう思った。
だが不思議なことに魔人にはあまりダメージが入っていなかった。
「フシギニオモウダロウ。ナゼチカラガツカエナカッタノカ。」
なんでこいつに力が聞いていないんだ?いや、それよりもなんでこいつは力のことを知っているんだ。
「マア、イイ。トリアエズ、ミナゴロシにスルカ」
魔人はそういうと今までよりもさらに大きく剣を振った。
範囲攻撃。
この空間全体が射程圏内で逃げられるはずもなく全員がまともに食らい、奴の予言通り全員が死んだ。
全員を倒した後で魔人は言った。
「アイツモオドロクダロウナ。アノチカラヲアタエタノガオレダトシッタラ。」
魔人はピノに力を与えた張本人だった。
ダンジョンに初めて来たときにあまりにも弱かったので力を与えたがまさかこのダンジョンに再び挑戦しに来るとはな。
そう思い魔人は高笑いをした。
その笑い声はこの広い部屋によく響いた。
能力の無い俺が魔人と戦えるまで成長した件 七川夜秋 @yukiya_hurusaka20
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