第三章 忍んでいないのは忍者じゃない、NINJAだ! その1
「な、なんでNINJA?」
「お姉さん! 忍者ですよ! 忍者!」
「亜理紗ちゃん違うわ。あれはNINJAよ」
「え? 違うんですか?」
「ええ、違うのよ」
忍者とは、闇に生き、闇に死んでいく者。
あんな堂々と世間に姿を晒し、忍ぶつもりがない奴は忍者じゃない! NINJAよ!
「どう違うのか分からないですよ……どっちも『にんじゃ』じゃないですか」
違うの! 全然違うの!
ああ、小学生にはこの違いが分からないかあ。
あたしと亜理紗ちゃんの認識の違いを、どう訂正しようかと考えていると、亜理紗ちゃんが声をあげた。
「あ、忍者さんがなにかしますよ」
「え?」
亜理紗ちゃんの声で、NINJAの方を見てみると……あれってクナイっていうのかな? それを悪魔憑きの男の人の足元に投げた。
そして、次の瞬間……。
「滅せよ! 火遁の術!!」
NINJAがそう言って、二本の指をピンと立て天に向かって突き上げると、悪魔憑きの男の人の足元から紅蓮の業火が立ち上った。
その炎は、悪魔憑きの男の人を骨まで焼き尽くす勢いで燃え上がる。
その様子を見た亜里紗ちゃんがポツリと呟いた。
「あー、死にましたね。これ」
「そうね」
……。
なにやってんのアイツ!?
絶対焼け死んだじゃん!!
「ちょっとアンタ! 殺してどうすんのよ!? あの人、操られてるだけなんだからね!!」
あたしたちの目的は、人間に憑依したギデオンの殲滅であって、憑依された人を殺すことじゃない。
憑依しているギデオンを浄化すれば、その人は元に戻るのだ。
だからあたしたちはギデオンだけを殲滅できる攻撃をしているというのに!
火遁の術? を発動させ、満足気にその様子を見ているNINJAに文句を言うと、覆面の間からわずかに見える目が、驚いたように見開いた。
「ま……」
「ん? なに?」
NINJAがなにか言ったが、口元まで覆面で覆われているので、言葉が籠ってなにを言ったのか分からなかった。
聞き返すが、NINJAはふと目を逸らして「なんでもない」と言った。
そっちはなんでもないのかもしれないけど、こっちはそうはいかない。
「なんで殺したのよ!」
あたしは大声でそう言うが、NINJAは不思議そうに首を傾げた。
「殺した? なにを言っている?」
「なにって! 現にあの人、焼き殺したじゃない!!」
あたしがそう言うと、NINJAはフッと笑って顎をクイッとやった。
「よく見てみろ」
「え?」
NINJAが顎で示した先は、先ほど炎に包まれた悪魔憑きの男の人。
その炎が収まり、その中から出てきたのは……。
「あ、あれ?」
「我らの攻撃は、ギデオンにしか効かぬ。忘れたのか?」
「え? え?」
炎が収まった先にいたのは、全くの無傷で倒れている男の人。
その身体から溢れていた黒いモヤも消えている。
そしてコイツは、今『我ら』って、『ギデオン』って言った。
ってことは……。
「ちょっ、ちょっと待って! まさか……アンタも適合者!?」
あたしは思わず叫んでしまった。
するとNINJAは、こちらに視線を向けこう言った。
「まったく、そそっかしいな、魔法少女は」
「魔法少女って言うな!!」
「なにを言っている? その姿……魔法少女以外の何者でもないではないか」
「うぐっ……」
そう言われると、ぐうの音も出ない……。
っていうか。
「そ、そっちこそ。適合者ってことは、普段は普通の人間なんでしょ? なに? 我らって、随分なりきってるじゃない、NINJAに」
揶揄われて悔しかったあたしは、思わず揶揄い返した。
「ぐぬっ……」
お、どうやら効いたらしい。
「それに身長も随分高いし、結構な大人なんでしょ? いやあ、恥ずかしいわねえ、いい大人がNINJAなんて」
一八〇くらいだろうか?
体格もガッチリしてるし、何歳くらいなのかは分からないけど、結構な大人なのは間違いない。
調子に乗って言ってやると、思わぬ反撃を受けた。
「う、うるさい! それを言うならおぬしこそ、いい歳してそんな格好をして恥ずかしいと思わんのか!?」
「いい歳とか言うな!!」
「お、お姉さん」
気付けばあたしとNINJAは、ぐぬぬと睨み合い、亜理紗ちゃんは横でオロオロしていた。
それがいけなかった。
「すみません! TV局のものですが、お三方のことを伺ってもよろしいですか!?」
「「「え?」」」
あたしたち三人に割り込んできたのは、大きなカメラを肩に担いだ男性とその後ろでケーブルを持っている助手。
それと、マイクを持っている女性だった。
やばっ、TV局のリポーターだ!
今までは、ギデオンに取り憑かれた悪魔憑きの人を浄化したらすぐに立ち去っていた。
けど今日は、突如現れたNINJAと言い争ってしまい、長くその場にとどまってしまった。
この機会を狙っていたんだろう、リポーターさんたちが全力で走ってきたのが分かる。
めっちゃ息乱れてるもん。
カメラマンさんとか、吐きそうな顔してるし。
そんな、息が切れ鬼気迫る表情のリポーターさんから向けられるマイクと、息の荒いカメラマンさんから向けられるカメラのレンズはめっちゃ怖くて、あたしと亜理紗ちゃんは、咄嗟にNINJAの後ろに隠れた。
「お、お前ら……」
NINJAはあたしたちに非難の目を向けてくるけど、こういうのは大人の仕事でしょ!
年齢知らないけど。
あたしと亜理紗ちゃん二人で首を横にフルフルと振ると、NINJAは諦めたように溜め息を吐いてリポーターに向かって言った。
「我らは、とある機関のエージェントだ」
とある機関のエージェント!!
どんな中二病設定だ!
必死に笑いを堪えてプルプルしていると、NINJAがこっそり裏に手を回しあたしの頭を掴んだ。
ちょ、い、痛……。
「そ、その機関とは……」
「極秘任務なのでな、これ以上のことは言えない」
ご、極秘任務を遂行してるエージェントが、こんな堂々と表に出てきてどうすんのよ!
「ぎょわ!」
「え?」
「なんでもない」
またも笑いの発作が起きたあたしの頭を、NINJAはギリギリと締め付ける。
ちょ……マジで痛い……。
「そ、それでは……アレは一体なんなのでしょうか? 警察でも自衛隊でも対処できなかったのですが……」
リポーターのお姉さんは、倒れている男三人を見た。
その男の人たちは、駆け付けた救急隊員の手によってストレッチャーに乗せられているところだった。
一瞬そちらに目をやったNINJAは、再度リポーターのお姉さんの方を見た。
「あれは、ただ操られているだけだ」
「た、確かに、日本中……いえ、世界中で同じような事件が起きていますが、犯人は口を揃えて『覚えていない』と言っています。その辺りと関係があるのでしょうか?」
「その者たちの言う通りだ。操られているときの記憶はない」
「し、しかし、操られているとはいえ、暴れている姿は尋常ではありません。もしかして、何かの人体実験ではないかとの声もありますが?」
「極秘事項だ」
「で、では、アレを鎮めた手段については……」
「極秘事項だ」
「そ、その格好には、なにか意味が?」
「……」
矢継ぎ早に質問してくるリポーターのお姉さんに辟易してきたのか、NINJAはこちらを見ると、また顎をクイッってやった。
「もう行くぞ、お前たち」
「「「え?」」」
唖然とするアタシと亜理紗ちゃん、そしてリポーターのお姉さんを置き去りにして、NINJAは突然ビルの上に飛び上がった。
アイツ、逃げやがった!
「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!!」
「置いて行かないでください!!」
あたしと亜理紗ちゃんは慌ててNINJAを追い、その場から飛び去った。
どさくさに紛れて、あたしたちも逃げる!
飛び去ったあたしたちの足元では、リポーターのお姉さんがこちらを見てなにかを叫んでいた。
「待って下さーい! 忍者さん! 魔法少女さーん!!」
だから、魔法少女って呼ぶな!!
どうにかこうにか現場から脱出したあたしたちは、人気のないビルの屋上に集まっていた。
「はあ……ビックリした。まさかTV局のリポーターがいるとは……」
「私、カメラとマイクを向けられるのが、あんなに怖いとは思わなかったです……」
まさか、TV局の取材を受けるとは思いもしなかったあたしと亜理紗ちゃんは、ビルの屋上で四つん這いになり、荒い息を吐いていた。
「あれくらいで動揺するとは、なんとも情けないことだな」
そんなあたしたちの横には、さっきのNINJAが立っていた。
その姿は、憎らしいくらい余裕に溢れている。
コイツ……今まで聞いたことないから新人でしょ?
後輩のくせに、なんでこんな偉そうなのよ!
「うるさいわね! それよりなによ? とある機関のエージェントって? アンタの頭、中二で止まってんの?」
「しょうがないだろうが! 本当のことを言って信じて貰えると思うか? 我らは宇宙人の手によって装備を与えられ、謎の暗黒生命体を殲滅する任を負っていると。誰が信じるというのだ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「ああいうのは、適当なことを言っておけば、皆憶測で話を進めるものだ。陰謀論やら、悪の組織の暗躍論やらな」
「あ、悪の組織……」
喋り方といい例え話といい、やっぱりコイツの頭、中二で止まってるわ。
笑いを堪えてプルプルしていると、NINJAの雰囲気が剣呑な感じになってきたので、あたしは慌てて話題をすり替えた。
さっきのアイアンクロー、マジで痛かったし……。
「そ、そういえば。アンタも適合者っていうなら、やっぱりサポートのぬいぐるみいるの?」
「ああ」
「ぬいぐるみって言わないでくれるかしら?」
あたしの問いかけを肯定したNINJAから、大人の女の人の声が聞こえた。
……またか……。
NINJAの肩口から現れたのは、ネルやアルと同じ姿。
ただし、色は青のネル、緑のアルと違って薄い紫色だ。
「メル、お前だったか」
「お久しぶりです、隊長。無事、適合者を見つけられましたわ」
ネルに、メルと呼ばれたそのぬいぐるみは、トコトコとネルのもとへとやってきた。
相変わらずその姿は可愛らしいのだけど、声が……なんというか、洋画の色っぽいお姉さんの吹き替えをしてそうな艶めかしい声だ。
しかも、そこにアルまで加わった。
「メル先輩。お久しぶりです」
「あら、アル。元気にしてた?」
「そりゃあもう。メル先輩は、相変わらず綺麗ですね」
「あら、お上手ね」
「メル、アル、無駄話はそこまでだ。お互いの情報共有をするぞ」
「「了解」」
ネル、メル、アルの三人で会話していると、まるで洋画でも見ているような錯覚に陥る。
ただし、見た目はぬいぐるみ……。
相変わらず綺麗って……あたしには色以外で三人の見分けすらつかない。
「うおお……頭がおかしくなりそう……」
「確かに……この光景はキツイな……」
「目を瞑ればいいんですよ! そうすれば、ドラマCDを聞いてる気分になります!」
おお! 亜理紗ちゃんいいこと言った!
早速あたしとNINJAも目を瞑り、三人の会話に耳を傾けた。
「それにしても……メルのところもこんななのか……」
「え、ええ。正直、この姿になったときは驚きましたわ」
「俺もです。他の国の連中も似たような感じらしいですけど……」
「この星の文化はどうなってるのかしら?」
「まあ……姿はともかく、ギデオンは殲滅できているんだ。それで良しとしよう。それより、他のギデオンの様子だが……」
ネルたち三人の会話を聞いていたあたしたちは、なんとも居たたまれない空気になっていた。
魔法少女の次は、NINJAだもんなあ……。
ネルの装備は、なんか近代的な鎧みたいな感じだったし、そうなると思っていたのかもしれない。
それにしても、この装備を使えるのは、ピュアな心の持ち主だと聞いていたけど、このNINJAは、なにがピュアだったんだ?
「ねえ」
「なんだ?」
「アンタ、どういう理由で選ばれたの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます