第三章 忍んでいないのは忍者じゃない、NINJAだ! その2
今まで適合者として選ばれたのは、ローティーンの女の子が多いと聞いていた。
多いだけで、男が皆無ではなかったらしいけど……。
それでも、やはり選ばれた男の子はローティーンの子だったらしい。
だけどこのNINJAは、どう見てもハイティーン以上。
覆面で顔が見えないから何とも言えないけど、成人している可能性だってある。
そんな人間が適合者に選ばれる理由って?
それが気になって聞いたのだが、NINJAはフッと鼻で笑って言った。
「正義を愛する心だ!」
……。
「ぶふっ!」
せ、正義って!
その歳で正義って!
いや、何歳かは知らないけれども!
いい大人が、真面目な顔して正義って!
アタシは思わず吹き出してしまった。
「アハハ! アハハハ! は? あ、あれ? NINJAさん?」
「なんだ?」
「あ、あの。頭が……」
「頭がどうした?」
「い、痛いのですが……?」
「そうか。そりゃよかった」
「よくないでしょ! あ! う、嘘です! 御免なさい! だから締め上げないでえっ!!」
思わず吹き出してしまったあたしの頭は、またしてもNINJAのアイアンクローの餌食になってしまった。
ギ、ギブギブ!! マジで痛い!!
「割れる! 頭が割れるぅ!!」
「はっはっは。何を言っているんだい魔法少女、人間の頭がアイアンクローごときで割れるわけないだろう?」
「アンタ! 装備で身体強化されてんじゃないのよ! ちょ、マジで頭割れるから!」
「……しょうがない」
あたしの必死のお願いが効いたのか、NINJAはようやく頭を解放してくれた。
……マジで割れるかと思った……。
「大丈夫ですか? お姉さん」
「う、うん。なんとか」
「もう、人のこと笑ったりするからですよ」
「そうだね……」
「それに、正義を愛する心に装備が反応するなんて格好いいじゃないですか! なにがおかしいんですか?」
「う……」
言われてみれば、確かにそうだ。
あたしなんて、子供の妄想を未だに引き摺ってるなんていうしょうもない理由だったのに、NINJAは純粋な正義の心で適合者になった。
笑っていい立場じゃないよね……。
「あの……御免なさい……」
なんか急に自分のことが恥ずかしくなってきたあたしは、改めてNINJAに謝罪した。
NINJAはしばらく黙っていたが、やがてフッと笑った。
「もういいさ。お前くらいの年頃だと正義の味方なんて言葉は、子供っぽく聞こえるのだろう」
「そ、それは……」
確かにそうだ。
成長するにつれ、正義の味方という言葉はどこか子供っぽく感じられるようになってきた。
でも……。
「だが、普段我々が暮らしている世界は、そういう正義の味方の手によって守られているのではないのか?」
NINJAはそう言うと、今だ混乱している現場を見下ろした。
そこには、出動してきた警察が規制線を張り現場検証している姿が見えた。
さらには、ギデオンから解放され気を失っている男の人を搬送する救急隊員の姿も見える。
正義の心っていうと子供っぽいって思っちゃったけど、よく考えたらそういう正義の心を持ってる人がたくさんいるから、あたしたちの世界は維持されてるんだ。
それを笑っちゃうなんて。
「正義だ悪だの価値観は人それぞれだろうが……今回のこれは明らかに悪だ。違うか?」
「その通りね……」
「この理不尽な悪に対して憤る私の心を、メルが感じ取ってくれたのだ」
「そういうことね」
NINJAは、最近多くなっている悪魔憑きが暴れているというニュースを見て、日頃から憤っていたのだろう。
だから、メルの持ってるレーダーが反応したんだ。
まあ、それは分かったけど。
「それで? なんでNINJAなの?」
あたしの最大の疑問をぶつけると、NINJA驚いたように目を見張った。
「なんでって……格好いいだろうが、忍者」
……。
「そ、そうね……か、格好いいわよね、NINJA」
今度は笑わないように我慢しながら、同調する。
これで笑うと、またアイアンクローをされるかもしれないから。
必死に笑いを我慢するあたしを見て、なにか言いたげだったNINJAだが、それを堪えたのか深い溜め息を吐いた。
「はぁ……もういい。それに、格好いいだけではないぞ」
「え? 他にも理由があんの?」
「もちろんだ」
NINJAはそう言うと、自分の覆面の口あたりを摘まんだ。
「顔が自然に隠せる」
その姿は不自然そのもですけどね。
でも、それはちょっとおかしいよ。
「メルから聞かなかったの? あたしたちには認識阻害がかかってるから、一般人はあたしたちの顔を認識できないって」
「もちろん聞いたさ。だが……」
NINJAはそういうと、あたしと亜理紗ちゃんの顔を見た。
「適合者同士にはそれが適用されないとも聞かされていないか?」
「は!!」
そうだった。
てことは、あたしたちはNINJAの顔が分からないけど、NINJAからは……。
「もし知り合いでもいたら、さすがに恥ずかしいからな。そういう時のために覆面をしていてもおかしくない忍者にしたんだ」
「そ、そっか」
確かに、もし知り合いが同じ装備者になっていたとしたら、あたしがこの格好は恥ずかしい格好をしていることがバレる。
……。
そこまで考えてなかった!
「っていうか、あたしが適合者になったときは、あたし以外にいなかったんだから! 後から出てきてそれはズルいわよ!」
そう、まさかあのときは、あたし以外にも装備者が現れるなんてことは考えもしなかった。
NINJAは、悪魔憑きを浄化するあたしたちのことを知っていたんだろう。
だから装備者になる際、万が一知り合いに会う可能性も考えてNINJAコスにしたんだ。
なによそれ!
ズルい!
「まあ、もしお前が私の知り合いだとしても、黙っておいてやろう。魔法少女さん」
NINJAはそう言うと、くるりと踵を返した。
「なっ!?」
え!? コイツ、ひょっとしてあたしの知り合いなの!?
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「メル!」
あたしは必死で呼び止めるが、NINJAはこの場を離れようとメルを呼びつけた。
「あら、もう帰るの? 適合者同士、親交を深めてもいいんじゃない?」
「もう済んだ。それではな、魔法少女。また現場で会うかもしれん」
「現場はいいから! 日常生活で会う機会があるのか聞いてんのよ!」
「フッ、さあな……」
「ちょおっー!!」
あたしの必死の呼びかけにも関わらず、NINJAはメルを伴い、ビルの屋上から跳び去っていった。
「ほ、ホントに知り合いなの……」
もしそうだとしたら……。
あたしは、明日からみんなの目が気になって仕方がないじゃないのよ!!
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