Re:port 10/相良 未来との、騙し合い

 かぐわしく色付いた、一面の花畑。

 遠くから聞こえる、幸せを告げる鐘の音。

 両目一杯に広がる、青く澄んだ雄大な海。

 太陽と夕日、満月、カラフルな星々に照らされ、燦然と輝く、ドレス姿の彼女。

 ここがゴールだ。そして、スタート地点だ。そう、強く思った。



「遅い。待ちくたびれちゃったよ」

 彼女は見返ること無く、開口一番に愚痴った。

 反撃と言わんばかりに、俺も雑に返す。



仕方無ぇだろ。何事も、そう簡単には行かねんだよ」

「君が欲張りだからいけないんじゃない。

 原作は勿論、アニメも漫画もフィギュアもゲームもCDもDVDも、果ては実写化まで大ヒットさせるなんて」

「最後は素直に褒めてくれや。

 知名度や忖度、不快感しか無い要素を片っ端から取っ払い度外視して、きちんと、イメージと演技力と原作愛と人間性とクリーンさとスケジュールを兼ね備えた、最高のキャスティングを実現させた上でヒット飛ばすのが、どんだけ大変だと思ってんだよ」

「しかも、単館上映からのスタート。

 本当ホント、よく成功したなって思う」

「毎日、異なる内容の特典小説を入場特典にしたからな。っても、てんでストック足りなくなったんで、程なくして違う作品はなしのも書き始めたけど。

 我ながら、馬鹿バカことしたな、みっともねぇなぁって思ったよ」

本当ホント

 全国上映まで導いてくれた、リピーターとファンに感謝しないと」

「『全国上映』じゃねぇ。

 『今日、この日、この場所に』、だ。

 てか、一作だけでコンプするのをあきらめ、トータルで席巻した時点で、最大の譲歩と取ってくれよ」

「どうしようかな」

「この、悪戯好きめ」

 互いに揶揄からかっていると、不意に未来みきが振り返った。



「ねぇ。

 君のなかで今、私は一体、何位なのかな?」

 分かり切った、けれど断じて無意味ではないクイズを、未来みきが出して来た。

 ボードを眺め、自分の心も確認しつつ、俺はぐと答えた。



「1位だよ」

 やや早口で答え合わせを済ませると、俺は未来みきの手を掴み、引き寄せる。



 言葉ではなく、態度で叩き込む。

 この思いが命じる、求めるままに。

 折角せっかくのドレス、タキシードを滅茶苦茶にしそうな勢いで。



 我ながら、笑えちまう。

 だって、そうだろ?

 ここまでしといて、こんな格好かっこまでしといて。

 互いにその気は、さほどいってんだぜ?

 どっちかが少しでも心を開けば、常識とかルールとか度外視すれば、いつでも破綻し兼ねないってんだぜ?



 本当ホント、諸手を挙げては喜び切れない。

 とんだビター・エンドだ。 



「ねぇ」

 満足し、額と額をくっつけて来た未来みきが、つぶやように言う。



「私は何度でも、君を助け、求める。

 この先、どれだけ君が打ちのめされようと、私やみんなや世界、自分さえも拒絶しようとも。

 いつでも、いつまでも、どこでも、どんな方法を行使してでも。

 かならず、何度でも君を救う。

 君が、すきになるまで。

 君が、すきてくれる限り」



 ……なぁ。俺の理想のヒロイン、ヒーローさんよ。

 だったら今ぐ、俺を助けてくれよ。

 最後の我儘、当て擦りと言わんばかりに、飾ってばっかいないでさ。

 どこまでも都合、聞こえのい言葉だけ並び立ててないでさ。

 とっとと、俺を連れ出して、救い出してくれよ。



 俺……ホントは、未練たらならなんだよ。

 今でも、お前をあきらめ切れてないんだよ。

 夢の世界だけならワンチャンって、い年こいて、情けなく縋ってるんだよ。



 頼むよ、ミキ。

 お情けでもお下がりでも、なんだっていからさ。

 俺を、お前の一番いちばんにしてくれよ。

 俺の一番に、なってくれよ。



 だって、無理も無いだろ?

 お前、なにからなにまで、ドンピシャなんだよ。

 それを差し引いても、お前単体でも、格好かっこいし、優しいし、どうしようもなく惹かれちまうんだよ。

 自己陶酔にもほどるから、依然として、怖気立つけどさ。

 お前が受け入れてくれさえすれば、開き直って、振り切れそうなんだよ。



 なんてこと、実際には告げられないまま。

 俺は、空を仰いだ。

 思わず泣いてしまう理由に出来できほどに、綺麗だった。



 ……平気だ。

 これからも、何だかんだ、誤魔化ごまかせるさ。

 だって、お前は、俺なんだから。



「……任せた」

「任された」



 握手し、笑い、誓い、騙し、我慢し合い。

 俺達は、振り返る。 

 過去は、振り返らずに。



「行こうぜ。

 みんなが、未来が。

 俺達を、待ってる」

「……はいっ」

 俺の右手を胸元に抱き寄せる未来みき



 そんな、少し難しい、不安定な姿勢のまま、俺達は駆け出した。

 これから結婚式の3次会が行われるメイン・ステージ。

 みんなが勢揃いした、ずっと夢見ていた、理想形っぽい希望みらいに向かって、ぐに。



 今日だけ特別サービスとして、世界中にやかましく、チカチカと配置された無数のライキング・ボード。

 そこには、「1」という数字だけが、でかでかと表示されていた。

 俺ではなく、ミキを思う事で勝ち取った、優勝の証が。

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