Re:port 9/相良 未来は、い(ら)ない

「などと申しており」

「すみません、あの。

 報告早々ディスんの、止めてくれませんかねぇ?

 それも折角せっかくの、晴れの再開きねんに」

「えー?

 だってさー。

 人が、あそこまで私が発破かけたのに、戦果が微妙だったからさー。

 結局、カップル止まりだったしー。

 結婚までとは行かずとも、せめて同棲とかさぁ。

 極めつけに、コクったのも向こうからだしー。

 あと、再会きねんって言ってるの、ルビも含めて引くー」

「呼び出したのは俺だし、ちゃんと伝えようとしただけ褒めてくれませんかねぇ!?」

「はいはい。

 頑張ったねー、そこそこー」

「雑っ!!

 ザッツ・雑っ!!」

「あははー。

 つまんなさ過ぎて、逆に面白ーい」



 そろそろ、現状を説明しよう。

 ず、さっきまでのは、俺の考えたifルートで。

 実際の俺達は、お察しの通り、今でも普通に会っている。

 しかも、別れた直後から、毎日。

 もっとも、夢の中限定で。

 しかも、現実世界までは記憶を引き継げない状態で。

 つまり今、現実世界の俺の中でミキは、別れ際から更新されていない。



 んな、アホな。

 と、我ながら思ってはいる。

 いくなんでも、都合ぎだし、説明不足にもほどるだろと。

 でも、出来できてしまってるのだから、仕方がい。

 ご都合主義でも、ちぐはぐでも、ハッピーエンドで待ち合わせてようとしてしまったのだから、どうしようもない。

 恐らく、これもまた、俺とハクがジシン(以下略)。



 ちなみに現在。

 俺とミキは、『テェテーブル』なる、チェスに似たゲームに興じている真っ最中でもある。

 長いし複雑だし、知らなくても別に本編に影響いし、『トクセン』読めば(割と早い段階で)分かるので、ルール解説は割愛する。



 脱線したので、戻すが。

 早い話、この連絡は、あくまでもついでというわけだ。

  


 ……そもそも、この報告会自体、不要じゃね?

 お前、俺の中に居座ってるんだから、知ってるだろ?

 俺の心情含めて。

 


 ……言ったら説教増えそうだな。

 めとくか。



「てかさ。

 要件は、それだけ?

 有るんでしょ、本当ほんとうは。

 もっと大事なことが、他に」

「ミキさん怖いです圧下げてください後生だから頼んます」



 まぁ……そう来ますよね。

 はぁ、気が重い……。

 でも、モロバレだし、隠しとく訳にもなぁ……。

 ……仕方しかたぇか……。

 


「……父親になった。

 女の子で、名前は未来みきだ」

「……」



 数秒、静寂に包まれたあと



「うがぁぁぁぁぁ!!」



 豹変し、フィギュアもろともボードを引っ繰り返し、ミキは切れた。



「おまっ……!?

 高級フィギュアだぞ!?

 一応!」

いじゃん、別に!!

 どーせ、ナオくんのイメージと記憶を元に作られたパチモン!!

 ようは、私みたいな物なんだから!!」

「お前それ言ってて虚しくない痛くないひどくないっ!?」

「それ全部、ナオくんの方じゃん!!

 そりゃあ、裏がってのことだし、正直その気なんて大してかったし、たった一日だけだったし、プランも人数もデートっぽくないし、そもそも私がナオくん自身だったとはいえさぁ!!

 私これでも、仮にも元カノだよ!?

 なのにさぁ!!

 そんな、クズみたいなこと、良くもまぁ平然と、やってのけられるよねっ!!」

「催促したのも義務化したのも、お前だろ!?」

「違うのぉ!!

 そうだけど、違うのぉ!!

 あーもー、ムシャクシャするぅ!!」

「つーかお前、自由ぎだろ!!

 ◯戸作品の次回予告みたいになってんじゃねーか!!

 寝る前にエンゲージ◯スのカット・シーン観たから、仕方しかたぇけどさ!!

 リ◯イス最終回のあとのドンブ◯並に、余韻が台無しじゃねーか!!」

「そもそも私は、最初から反対だった!!

 こんな縛りさえきゃ、きっと 私が、正妻になるはずだった!!

 てか、元々は、あのルートだったじゃん!!

 なのに、完結して2年後の作者が日和ひよった所為せいで、後出し後付けのポット出にまんまと取られて、パラレル扱いされるとか、お株いじゃん!!」

「登場シーンは大差無いだろがぁ!!」

「ちっがぁうでしょ!?

 どう考えても、ちぃがぁうでしょ!?

 私は、最初から主人公として作られたのっ!!

 あっちは、職場の雰囲気出す為の、その場限りの役回りだったじゃん!!

 なのに、気付けば、私にあれこれ指図するわ、ナオくんとのデート邪魔張りするわ、ひたっすらうるさいわ、なんなら趣味界ホビジョンにまで出しゃばって来るわ!!

 イチャラブや出番のみならず、しまいには、私のナオくんまで奪うとか!!

 どうして、生かしておけよう!!」

「だからぁ!!

 お前が、そうしろってったの!!

 全部ぜーんぶ、お・ま・えっ!!

 すしらーみたいなリアクションすんな!!」

「だって、本当ほんとうことじゃん!!

 私、ナオくんと結ばれるはずだったじゃん!!

 なのにさぁ!! 

 この格下げ仕打ち出落ちは、あんまりなんじゃないかなぁ!?

 外界げかいの二人が何も知らない気付きづかないまま、あの女とナオくんの蜜月を、私はダイレクトに、リアタイで味わわされ続けてるんだよ!?

 そんな地獄、屈辱だけに飽き足らず、挙げ句の果てに、子供の名前にまで無断借用するとかさぁ!!」

加筆修正にねん前までの設定、何度も持ち出すなやっ!!

 いつまでも、みっともねぇこと言ってんなよ!!

 作者も、ちったぁ大人になったんだよ!!」

「ナオくんは、ちーっとも、悲しいほどに子供のままだけどね!!」

「あー、そう来る、そう来ますぅ!?

 だったら、俺も言ってやんよ!!

 俺は、あくまでも創作、キャラ!!

 つまり、悪いのは全部、作者!!

 俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!!」

「てかナオくん、何も変わってないじゃん!!

 相変わらず一向に売れないまま芽吹かない、ただのフリーターじゃん!!

 おまけに、相手はその間に、みるみる大出世して、最早ナオくん、ヒモ同然じゃん!!

 それなのに、結婚とか!!

 今のナオくん、駄目ダメなバンドマン紛いだよ!?

 そのくせ、どっち選んだのか有耶無耶にしたまま終わらせようってんだから、余計だよね!!」

「俺だって、同感だわ!!

 申し分無いし、申し訳無いわ!!

 でも、『それでもい』って言われた以上、仕方しかたいだろ!?」

「ほら、それだ!!

 そういう所が気に入らないって言ってるの!!

 大体、キスもデートもお泊りもオセッセもプロポーズも全部、あっち主導だったじゃん!!

 私があれ程、台詞セリフとかプランとかスポットとかコーデとか、提案してあげたのにさぁ!!」

「この世界でな!?

 夢の中限定でな!?

 現実世界には一切、影響されないままな!?」

「うっさい、クズ!!」

「見てろよ!?

 そのうち絶対ぜってぇ売れてやっかんな!?

 あいつもお前も、かならず見返してやっかんなぁ!?」

「私だって、負けないもん!!

 絶対ぜったいに、忘れられてなんかあげないんだからっ!!

 なんなら、未来みきちゃんの趣味界ホビジョンに出張して、あの子の監視もするんだからっ!」

「止めるぉぉぉぉぉ!!

 お前ならマジでし兼ねねぇだろがぁぁぁぁぁ!!」

「極めつけに、このサブタイ、なにさ!?

 ますし、要りますけどぉ!?

 ドヤってそうなのもしゃくだしさぁ!!」

「お前ひたすら面倒めんどいなぁ今回!!」



 と、こんな調子で長い喧嘩けんかをしたあと

 俺は胡座をかき、腕組みをして切り出す。



「……向こうに、言われたんだよ。

趣味界のうない限定で、許す』ってさ。

 本人曰く、『自分もし捲ってるし、むしろ記憶引き継いでる、生きてる分、羨ましい』ってさ。

 つまりは、まぁ……そういうことだ」

「は?

 なにその、『言わなくても分かるだろ?』感。

 ちゃんと言葉にしなよ。

 あと、それはそれでムカつく。

 なんかこう、人徳の差まじまじと見せ付け、叩き付けられてるみたいで。

 さっすが、初めての女は余裕あるよね。

 ホント、ピンキリでどっちつかずだよね、ナオくんって。

 ヒトリダケナンテエラベナイヨー、とでも言うもり?」

「どっちかってーと、ラストに関してはは作者の話、趣味趣向だるぉ!?」

「まぁ、別にいや。

 言質取った以上、こっちも全力で行くよ。

 どうせ、現実世界むこうのナオくんの記憶には残らないんだし。

 思い出にしかならない恋も、さほど虚しくないし、それはそれで乙だよね」

「お前、そろそろキサ◯ムーブするの、止めろよぉ!?

 図らずも設定、似通ったからといって、なんでも許されると思うなよぉ!?」

「はいはい。

 それより、ナオくん。

 覚悟、決めなよ」



 俺を押し倒し鎖で捕縛し、ベッドに乗せ。

 さらには風景を、なにやらムーディーな一室へと変化させるミキ。



 あ、あれ?

 なんか、思ってた以上に、乗り気なよーな……?



「言っとくけどさ……こちとら30年以上、お預けさせれたからさぁ……。

 結構、溜まってるから……」

「お前、3分の1は寝てたじゃねぇかよ!!」

「そんなことは、いいっこなし。

 さぁ、ナオくん。

 そろそろ、召し上がらせてもらうよ。

 たぁっぷり、ね」

「い、いやだぁぁぁぁぁ!?」



 とまぁ、こんな強引なオチではあるものの。

 俺達の関係は、丸く(?)収まったのだった。



「冗談だよ」



 鎖を解き、ベッドを消し、風景もテンションも戻し、俺からも降り。

 ミキは、冷たく言い放った。



「……言ったでしょ。

 ……私は、君とどうにかなりたいんじゃない。

 君が幸せで、自分を好きでさえいてくれれば。

 ……えず、満足。

 それ以上なんて、望んでないし。

 ……望んじゃ、いけないの」



 未練、本音、嫉妬。

 そういうのを明らかに抑えながら、ミキは断言する。



 分かってる。

 彼女はきっと、俺の事を、憎からず想ってくれている。

 無論むろん自惚うぬぼれでもなく。



 それ以上に、受け入れられない、受け付けられないでいるのだ。

 とどのつまり、それは彼女が前に言った、ナルシーな形だから。

 そもそも今は、ブレスト、そして担当分野の都合上、俺を好いてはくれているが、その真意までは把握し兼ねている。

 俺に対する感情と向き合おうにも、使命の方が先行し、阻害されてしまう。

 そして万が一、その定めから解き放たれた時、どうなるのか不明なのだ。



 さらに彼女は、俺が交友を広め、深めることを願っていた。

 それは、『い人を見付けて欲しい』というメッセージに他ならない。



 そして、なにより。

 ほとんどハクの所為せいとはいえ。

 その所為せいで俺を滅ぼし掛けたことを、今でも引き摺っているから。

 中二病と憎悪を併発していたとはいえ、「世界中の趣味界ホビジョンの破壊」というのも、あながち不可能ではなかったから。



 だから、彼女は俺を、好きでいてはならない。

 口が裂けても、本気の「好き」を届けてはならない。

 想い人である俺を、その気にさせないために。



 相良さがら 未来みきは、俺の理想形。

 声も、見た目も、性格も、カラーも、その時の俺の好み、気分に切り替えられる、カメレオン系ヒロイン。

 それでいて、俺を決まって助けてくれる、絶対ぜったいのヒーロー。

 そんなマルチな彼女に言い寄られたら、即オチ待った無しだ。

 ただでさえ俺はネガティブだから、なおことだ。



 オーソドックスな恋愛物なら、ミキは俺なんて眼中にいまま、観察者に徹してるだろうし。

 邪道狙いのラブコメなら、2次元嫁として、睡眠中のみミキは恋人になるのだろう。

 あるいはさっき、彼女がリークしたみたいに、人間に転生ルートかもしれない。



 けど、今回に限っては、その類いに当て嵌まらない。

 彼女は、俺を好いていながら、ガチってはいないりをする。

 そんな、ともすれば進展、崩壊しそうな、危うい、無慈悲でしかない関係性を、彼女は選んだ。

 選ばざるを、得なかったのだ。

 俺が不甲斐無い、ばっかりに。

 


「あ、あれ……?」



 気付けば俺は、泣いていた。

 両目から、涙が溢れて止まらなかった。

 心が、体が、命が。

 俺のすべてが、悲鳴を上げていた。



 罪悪感?

 同情?

 自責の念?

 


 正体は、ハッキリしない。

 けど、これだけは確かだ。

 


 少なくとも、今の俺は。

 彼女を見ると、切なくて仕方がい。



「ホント……駄目ダメなヒロインだね。

 ナオくん」

「……うるせぇよ……」



 横になり、腕で隠し、憎まれ口を叩く。

 


 きっと、この感情の正体は一生、謎のままだろう。

 分かりたいけど、それ以上に分かりたくないし、分かってもいけない。

 恐らく、ミキも。



 そうして俺達は、素知らぬりをして、これからも付き合って行くんだろう。

 付かず離れず、中途半端、曖昧模糊としたまま。

 互いの本音に、分厚く硬く蓋をしたまま。

 そうしないと、自分に疑われ、怪しまれ、ついに隠せなくなってしまうから。



 夢の中でなら、許されるかもしれないのに。

 リアルの奥さんにさえ、許可されたのに。

 当事者である自分達だけは、どうしても認められないのだ。

 趣味界ホビジョンでセーブされることすら嫌悪感、違和感いわかんを覚えてならないのだ。

 それほどまでに、今の俺達の関係は、筆舌に尽くしがたい。


 

 不意に未来みきが、俺の胸に顔を付け、倒れた。



「……どっと疲れちゃった」

「……がらにもことするからだろ」

「だよね。

 本当ホント……私らしくなかったね。

 こんなんじゃ、ブレーキ失格だ。

 これからは、気を付けるよ。

 だから、今日は……。

 ……今日だけは、さぁ……」

「……心配すんな。

 今日は、誰も呼んでない。

 彼女も、皆も、ブレストたちも。

 この場には、俺達しかない」



 震えた声と体、心で告げ。

 未来みきは、俺の胸で、声にならない叫びを上げた。

 俺は、なにも言わない、出来できないまま。

 ただ黙って、無心で、未来みきを包んでいた。

 世界からも、隠蔽するみたいに。

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