Re:port 8/相良 未来は、愛したい
奇跡的に
あれから俺は、衝動と憧れ、仲間への感謝と罪悪感のままに書き上げた作品が空前絶後の大ヒットを飛ばし、コミカライズ、アニメ化、フィギュア化、ゲーム化と、すっかり売れっ子になっていた。
……
あそこまで支えられておきながら、これまでで
ま、進歩っちゃあ進歩ではあるんだが、大言壮語しといてこれってのが、俺らしいというか何というか。
けれど仲間、そして自分の本心にオープンになったからか。
それまで
進化とまでは行かずとも、なぁなぁにしてた俺にしては、少なくとも変化ではあったと思いたい。
その間に
「はぁ……」
……こいつ、
いや、ま、確かに前の店長は、二言目には『次は冴島くん』と口にしてたよ。ええ、してましたとも。
でもお前、ああだこうだと毎回、躱してたじゃん。話題変えたり、聞こえなかった振りしたり、謙遜したりしてさぁ。
状況が状況とはいえ何、
いやね? これまでの実績、徹底したビジネス·ライク
ここまで来たらもう、足向けて寝られん。ライバル視とか、恐れ多いにも
そんな
「どうしたんスか?
よく分かんないスけど、元気出すっスよ、
「犬原……お前は、そのままでいてくれ……。
ずっと、俺の心の拠り所であり続けてくれ……」
「ん〜? よく分かんないっスけど、了解っス!!
あとそれ、自分の人生で
「だろーなー……」
こいつ、俺なんかより
弱気の特効薬だよ、
そんな犬原も、今年で晴れて大学を卒業。
したのに、
『だってここ、
ま、
けど、そこまで行けた
「……安心したよ。冴島とも順調そうだな」
微笑みつつ、ワシャワシャと犬原の頭を撫でる。
犬原は、擽ったそうにした
「当然っスよ!!
今朝だって、互いに出勤日なのに全然、寝かせてくれな「それ以上は俺の心と出世に響くから止めろ」」
そう。どんな馴れ初め、イチャイチャイベントを経たかは
今では、『互いの将来の
と、ここまでは結構なのだが、
「お二人共。揃っていますね」
おっと。渦中の冴島……じゃなくて店長が現れた。
しっかしプライベート、ツッコむ時以外では『店長』って呼ぶの、まだ慣れねーなぁ。しっくり来ないってんでもないんだが……。
「はーい♪ きちんと来たよ、
……ま、それでも
直そうとする姿勢を見せないばかりか、余計に砕けた犬原に比べたら。
「……仕事なのだから当然です。
あと、犬原さん。何度も言っている
他のスタッフに示しがつかないでしょう」
「あ! もしかして、今夜もリードする
「でゅあむぁるぇぇぇぇぇ!!」
……当店でのイチャイチャ、及び照れ隠しのシャウトは、くれぐれもご遠慮願いたい
「い、犬原。それ
店長、困っちゃうから」
「
こういう日々の確認を怠ったばっかりに、後に縺れたりするんスから!」
「そーゆーのは、家でやってくれぇ! 頼むから、職場には持ち込まないでくれぇ!!
気が気じゃねぇよ、こっちゃよぉ!」
「き、貴様るぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
「どこのさえちゃ○だよ、あんた!! 俺達、そんなに
てか俺もかよ、一蓮托生かよぉっ!」
あと、犬原! 「ふんす!!」じゃねんだよ!
マジで勘弁してくれ!! 色々、控えてくれって、ガチで!!
お
「あ、あのぉ……」
いつも通り騒がしいコントを繰り広げている俺達の前に、聞き覚えの無い女性の声が、ふと届いた。
見ると、俺と同い
そして、彼女に瓜二つの、
双子だろうか。
新たに人が増えた、尚かつ恥ずかしい場面を見られた
が、やがて冴島が
「夜勤務のお二人には、まだ紹介していませんでしたね。
本日より、あなた方同様、夜メインで入って頂く運びとなりましたお二方です。
犬原さん、
「オッス! 犬原 晴留っス!! 店長の恋人っス!
「……
店長の恋人じゃありません。
またしても性懲りも無く店長に叱られている犬原を横目に、俺が可もなく不可もなくな挨拶を済ませた。
にしても、
「ありがとうございます。
じゃあ次は、
「よっ! 待ってましたぁ!」
「すみません、ちょっとタイムで。
晴留っ!! この、分からず屋ぁぁぁぁぁ!!」
一向に改善の兆しが見受けられない犬原に、恋人からの教育的指導(物理)が入る。
その
ここに来るだけあって、ユニークなのには慣れているんだろうか。
「す、すみません。
「いえ。
賑やかで
「仲悪いよりかは
「……待って。いきなりは、
そもそも、あなたがそれ言うとか、お姉ちゃん、感極まる……」
「空気読みなよ。
あと、その節は大変、ご迷惑おかけしました」
「お、おう?」
どうやら、こっちもこっちで訳有りらしい。
ま、何となくは察するけど。そう軽々しく触れちゃ
それにしても……
『
なんて思っていると、二人が気を引き締め、こちらと向き合った。
「
紛らわしいので、気軽に『
「同じく、
程々に
姉が明るく、妹が小生意気に右手を差し出し来た。気後れ気味ながらも俺は順に、その手を掴む。
瞬間ーー世界が、時間が、俺を構成する
そして、
まるで、サイコメトリーにでも目覚めたかの
そんな俺達を起点としたのか、痴話喧嘩中の店長と犬原、横で右手を伸ばし続けていた
レジや対応に追われている数人も、業務に勤しむ手を止め、フリーズしながらドアの向こうで覗いていた。
あまつさえ、今日は休みの
そんな、この店の
「ミキ……か?」
目を潤ませ、涙で満たし、余っていた左手を胸に当て、喜び一杯に、ミキは答えた。
「……はいっ」
弾んだ、けれど冷静な声で告げると、ミキは右手を離し、俺に抱き着いて来た。
俺は倒されそうになりながらも
「……ただいま」
満点の笑顔で、ミキは
「ただいま、ナオくんっ」
「……ああ」
もっと強く、けれど痛くならない程度にミキを抱き寄せ、俺も精一杯の
「……おかえり。ミキ……」
※
そもそものブレストの起源の話となるが。ブレストとは本来、理想の恋人を作るべく、万物の母によって設けられたシステム……らしい。
その万物の母(名前が不明なので、イヴと呼称しよう)は、原初の人間を生み出し、今も
そんなイヴは、今も
その策こそ、一人の人間の趣味や性格を完璧に把握した徹頭徹尾、理想通りの恋人を作る
「で、ボク達が元通りになった
だから、父さんの元から一旦離れ、体と記憶を再構成し、他のブレスト達からの鬼特訓にも耐え、こうして
っても、今居るのは
「把握。
ところでお前、キャラ安定しなさ
「そりゃ、造り手が色々と安定してないし。
あと沢山、喋る
昔はさておき、父さんの今のタイプは『お淑やかな子』でしょ?
だから、二人の記憶を照らし合わせている時に、僕が引き受けたの。
そもそも、あの時の父さんが求めてたのは、自分の
もう仲間も理性も確立したし、その役目は必要が無くなったんだし、別に
だからこそ、こうして、父さんの関係者だけ、睡眠中限定で、父さんの
「仰る通り……。
諸々……」
そんな中、甲斐甲斐しく
にしても、スケールでか
ご都合主義感、
っても、ブレストの時点で大概だったが……。
「ごめんなさい。
色々、びっくりした……かな」
子供っぽさと大人っぽさの中間みたいな口調で、今度は解放された
「そりゃ、まぁ……な。
でも、
「そう。その話なんだけど」
膝の上に両手を乗せ、複雑そうな面持ちで、
「不思議なんだ。
今まで私、ナオくんを子供、友達、家族に思ってたのに、今は少し、違うみたいなの。
何ていうか、その……特別な意味で、好きになれそうな感じ。
使命とかじゃなく、私は人間として、君を異性として、好きになれそうなんだ」
「そっか」
中身を飲み干したグラスをテーブルに置き、俺は穏やかな心持ちで
「それ聞いて安心したよ。
確かに今までとは、色々と異なってるみたいだな。
で? これから、どうするんだ?」
「うん。
ナオくんと一緒に仕事したいし、前まで通りカラオケしたいし、映画館やプラネタリウムとかにも行ってみたい。
休日には一日中、朝から晩まで、ナオくんと一緒に、お家デートしてみたい」
確かに
「お前……それもう、友達のライン凌駕してっぞ?」
「そうかな?」
「そうだよ。
俺の
「
でも、交際はともかく結婚は、まだ早いかな」
「けっ、けっこ……!?」
どもる俺とは対象的に安らかに告げつつ、
「あれからナオくん、一度も私をライキング入りさせてくれてない。
だから、将来が不安なの。『この人と、
「……だから、
「ナオくんて、
あーあ……
プログラムとか使命とかすら関係無く」
「知っか。俺が聞きてぇわ。
「うーん……」
小首を傾げ、人差し指を唇の下に当て、考える素振りを見せてから、
「そうでもしないとナオくん一生、独り身だったからじゃないかな?
他のブレスト達のご主人も、老若男女問わず、そういう印象が強い子達しか
「ねぇお前、
「大好きだよ。だからこそ、包み隠さず言ってるんじゃない」
「
「拗ねてる。可愛い」
俺の横に来て、俺の頬を軽く突いて来る
悔しいが、悪い気はしない。
「ねぇ、ナオくん」
「……
不機嫌さ全開に振り返ると、
「私は、いつだって、何度だって願ってみせる。
どうか君が、絶えず幸せであって欲しいと。
……君が、
俺の方を振り返り、右手を差し出す
その瞳は俺はなく、俺の本心を、未来を捉え、捕らえていた。
「だから、見せてよ。
これまで誰かの希望になる
そんな
もう、本気にならない理由は無いじゃない。
だって私は、君との約束通り、きちんと成長した上で、君の前に舞い戻って来たんだから」
「……」
っ
ここまで期待された以上、応えない
「
意図的に口調を荒っぽくさせ、俺は
「
だから、それまでも、それからも、もう決して俺から離れんじゃねぇ。
お前が俺の横に、後ろに、前に
どこまでも、高く飛べる」
俗に言う恋人繋ぎの状態で、俺は続ける。
「俺は必ず、一人前の男に、大人になってみせる。お前と釣り合える
お前の隣に立ってても恥ずかしくなんて微塵も
だから、行こうぜ。最高速で、未来まで連れてってみせる。
振り落とされんじゃねぇぞ」
少し驚いた後、
「意地でも食らいつく。
そして、
それまでは、キスもお預け」
「うげっ!?」
マジか!! そこまで節制すんのかよ!!
どんっだけ
かーっ、やってらんねぇ!!
「……いや、待てよ。
それもそれでロマンチックだな。青春、清純ラブコメっぽい。一周回って
分かった、耐えよう」
「
可愛い」
笑いつつ俺から離れ、俺の正面に立つと、
「きっと、出会ってね? 出会わせてね?
それまで私……ずっと、待ってるから。
あなたの
「ああ。任せろ。
そう長くは待たせない
「はい。頼りにしてます」
頭をポンポンと叩くと、満天の、満面の笑顔で、俺達の未来を
「ナオくん……愛してる」
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