Re:port 4/相良 未来は、ネガらない
空は晴れ、隣を歩く
対する俺はと言うと……出だしどころか始まってすらいない時点で言うのも何だが正直、しんどかった。
というのも、これまでデートなどというリア充イベントなんざ一度も経験した
ところで、
そんでもって、待ち合わせ場所に向かう前から二人っきりになってて、あまつさえ腕組みなんぞに及んでるんですかねぇ?
いや、まぁ、ぶっちゃけ想定内だったけども……。
「フー。ミキー」
激しい緊張と、それを上回る眠気に襲われていると、不意に
と思えば突如、その発生源と
すると、どうだろう。
相変わらず、この謎現象の正体は掴めてはいないが、ここに来て初めて、俺はこの流れに感謝した。
ま、どうせいつも通り、この声の主がいなくなれば効果が解除されて、また数秒前までと同じく夢の世界に旅立ちそうになるのだろうが。
……話は変わるが、今この子、いきなりワープして来なかったか?
あれ?
「フーた〜ん♪
応援に来てくれたの〜!?」
「フー。きたー。
ミキー、がんば
「……『フーたん』?」
風子? もしくは、風花?
ともかくフーたんらしき人物に、
「珍しいな。
あんたが俺以外に、ここまで興味を示すなんて」
犬原とは意気投合してたけど、あれは性格が似てたからに他ならないし、その間も俺を自慢してたりしたしノーカンだろう。
にしても、これだけ聞くと俺、とんだナルシスト野郎だなぁ! 痛さが留まる所を知らねぇぞ!
「フーたんは特別だよ〜♪ だって、こんなに可愛し〜♪
ほら、見て〜♪」
と、
「フー。パパマスター」
「う……うん? どういう意味かなー?」
相手に合わせて口調を緩くしてみせると、目の前にいたフーたんが姿を眩ませた。
今度はワープではなく、
「だ、
「……フー。ごめんなさい。
ミキー。ギュー」
「はいはい、も〜。甘えん坊さんなんだから〜。
私も、ごめんねー。言い方とか扱いとかキツかったねー」
「フー……。
うーうん。ミキ、すきー」
「私もだよー、フーたん」
フーたんを軽く叱った
程なくして、フーたんは熟睡し始めた。
「その子も、施設の子か?」
「私の最推し、オアシス、妹分。
ごめん、ナオくん。ちょっとフーたん返して来る。
先に行ってて?」
「お、おう?」
何やら答えになってる
などと疑っている間に、
……方向音痴なのか?
「んお?」
彼女を見送ったタイミングで眠気が、
公園の近くに居た俺は、タイムリーに見付けたベンチに座り、腕時計を確認する。まだ約束の時刻まではまだまだ余裕が有った。
そういえば、起き抜けに玄関の前で
「ほぁ……」と
思うが早いか、俺はスマホのアラームをセットし、襲い来る睡眠欲と陽気に身を委ねるのだった。
※
「なーおーきーさーん。
起きるっスよー」
「……んぁ?」
聞き慣れた声に誘われ、意識が覚醒した。
視界が定まって来た頃、俺の前には後輩、そして今日のデート仲間、犬原の姿が有った。
……自分で言っといて
いや、まぁ……他に適した言い方が思い付かないが。
寝惚けてるのか?
「おざっス!
いやー、ビックリしたっスよー。まさか、こんな
「……まだ一時間以上有るんですけども」
「え? 一時間前行動が絶対厳守じゃないんスか?
自分、部活でもサークルでも、ずーっと、そう教わって来たんスけど」
「いや、まぁ……
起こしてくれて助かった」
起こされた
犬原は、嫌な顔一つせずにカラッと返す。
「どーって事無いっス!
それより、ほら! 早く行くっスよ!」
「そだな。
……いや、ちょっと待った」
「ん? 何スか?」
「いや……『何スか?』じゃなくてだな……」
よし。一旦、整理しよう。
俺達は、これからデートに赴く訳だ。
んで、女友達同士のはさておき、両方が混ざったデートってなっと多少は、異性ってのを意識する必要が有る。
だってのに……こいつ、
え、絶対それ汗が気になる
こいつ、
「あー、これっスか。
自分、ランニングが日課なんで、
交通費浮くしー、健康的だしー、着替え直す必要も無いしー」
そうだった。こいつ、毎日のランニング通勤を物ともしないバイタリティーを持った、ガッチガチの体育会系だった。
まぁ、その、
しかしだなぁ……。
「お前……そういう
「も〜。何なんスか?
もっとはっきり言って欲しいっスよ〜」
「だから、そういう……」
こいつ、てんで懲りてねぇ……。
初出勤日にユニフォームを汗だくにして1時間前に現れたもんだから、こってり冴島に絞られて、次からは店で着替える事、もう少し遅めに来る事を義務付けられた
……しゃあねぇ。
っても、こっから犬原ん家までは距離が有る。
「……行き先変更だ、犬原。
お前を今から、俺の家に強制連行する」
「おっ!? もしかして、これから二人でスラブラ大会っスか!? 負けないっスよ〜!
ところで大会って、選手が二人だけでも
……あっ、そっか! CPUも混ぜるんスね!
「……うん。
そんなこんなで、犬原を自宅に連れて行き、家族のお古を着させ、気を取り直して俺達は待ち合わせ場所、駅前の花壇及び噴水前へと向かった。
失礼なのは百も承知だが、犬原に未だ恋人が出来ない理由を、俺は改めて、身を以て思い知った。
※
「ねぇ、ねぇ。あのクール系の人、カッコ良くない?
声かけちゃう?」
「
あの人、
「え? やっぱ、そうなの?
の割りには、かなり距離有るし、ずーっと
「どっちかってーと、修羅場じゃない?」
「……はぁ」
いや、うん、知ってた、知ってましたとも。
俺と犬原が一緒に行動してたって
でもさぁ……そこまで徹底しなくても良くない? ただでさえ二人共、目を惹く外見してるのに、余計に目立ってるじゃん……。
そもそも、冴島に至っては、まーた誤認されてるし……。まぁ、無理も
すっかり初対面じゃなくなった俺でさえ、今でも
「
てか、
俺の横で
……しゃあねぇ。ちぃとばかし心が痛むが、これが最適解か。
「……よし、犬原。ゴー」
「
おーい、お二人さ〜ん、おざ〜っス♪」
うん! お
だって、地雷原に入ろうとも、巻き込まれない上に爆弾解除してくれるんだもん!
それに加えて犬原は、天然ワンコ属性のオマケ付き!
これは、勝つる! 俺には
などと、割と最低な
頃合いだな。
「うぃーっす。お疲れー」
「
昨日まではさておき、今日は完全にプライベートなんです。無礼講で行きましょう。
でも、言われたからには返させて頂きます。お疲れ様です」
「……その
「
きちんと口調なり呼び方なりラフかつフランクにしてるでしょう?」
「根本的な部分が変わってないってんだよ! 視覚的な部分!
あと、分かり
スーツて。デートに、スーツて。
そんなだからクール系イケメンとか言われるんだぞ……。
「やっほー、愛しのナオくん♪
「自分は数秒
「
ずっと一緒に
「えー、何それ、聞いてない!
「いや、あんたとも途中まで
「待ってください。
待ち合わせイベントを改善した上でのリテイクを要求します」
「知っか! 全部、主にタイミングと相手側の性格の問題だよ!
それより、とっとと行くぞ!」
このままだと延々とコントを繰り広げそうだったので、俺は雑に切り上げ、その場を後にした。
……こんな調子で大丈夫なんだろうか? 不安しか
※
「……来たぞ」
「来ましたね」
「
「ウルトラ◯ンかオール◯イトっスか?
……はっ! もしかして、スーツ!?
ショー&握手会っスか!?」
「違うわ」
敬礼するかの
俺と冴島と犬原が週一で訪れている、ある種のホーム・グラウンドであり、人間性が色濃く出る場所であり、俺達が
「念願の……カラオケだぁぁぁぁぁ!!」
そう。マイクが要らなさそうなレベルで放たれた
これから、四人で仲良く(←ここ大事!!)楽しみつつ、
「それでは皆さん、本日の予定を確認しますよ。
最初に、限界までここで歌い
フリー・タイムかつドリンク・バー付きで、フードはオーダー自由ですが割り勘ではなく各自負担で。
人間関係、
以上です。何か質問は? 相違、
「犬原、
「イエ〜イ♪
って、
「お任せあれっス、ヒャッホー♪」
「あ、こらっ!
人の話は、最後まで聞きなさぁい! 同意したと
「やれやれ……」
何はともあれ、これで
さてさて……どうなる
※
「フッフーン! どーんなもんだいっ! そろそろ
私が、この私こそが、ナオくんに『アルティメットマッチ!!』な、あなたの理想のヒロインだって事が! 」
「「「……」」」
部屋に入ってから
というのも……この女、
しかも、上手いし、選曲が(オタク向け的な意味で)絶妙なもんだから琴線にピンポイントに触れて来るし、あれから一度もジュースやのど飴の力を借りずにいるのに、一向に喉が枯れないし息切れすらしていないと来た。
さしものクール、元気系代表の二人でさえ、開いた口が塞がらないでいる。
こいつ……何者だ? 中学ではバンドでもやってたってのか?
一緒に
どうやら俺達は、自分達のペース、ベース、スペースに持って行けると高を括りながら、とんでもないチャレンジャーを敵に回してしまったらしい。
そもそも、
俺好みになる
それとも、何か? 俺達に油断、同情させる
あの桐谷って人なら有り得そうなのが、また不気味だ……。
「いやー。
ラーニングした甲斐が有ったってもんよー♪」
などと抜かしつつ、腰に手を当て高笑いする
どうやら、やっぱり覚えてくれたっぽい。そういやこいつ、俺絡みの
「っても、いつまでも独壇場じゃ心象、悪いよね。ナオくん、デュエットしよ♪
とりま、ダブ◯ク制覇ね♪」
「
てか、あんたが歌う事自体は現状維持か!?」
……どうしよう。違う意味で、無事で帰れる気がしなくなって来た。
俺……ひょっとしなくても、とんでもないファンを生み出してしまったのでは……?
※
「恐れ入る……っス……」
俺同様にデュエットに付き合わされ、
最早、
よもや本領発揮されるのがラブ○イブからで、一曲で全員分を演じ分け、アドリブで
俺達の中でも取り分け愛の深い冴島に至っては、「感無量大数……」「マイ・ロード……マイ・ミューズ……」などと意味不明な
いや、お前、気持ち分かるけど扱いと態度、ガラッと変わり過ぎだろ……。あんだけ敵対しといてからに……。
「さてさてさーて。ぼちぼち時間なんだけど、どう? 思い知ってくれた?
私の、ナオくんに対する気持ちのでかさ。
私はナオくんの
かれこれ半日近く熱唱し続けているというのに一切、衰えていない、鈴を振った
「これから、もっともっと、あなた好みになりたい。
私の
私の
俺の目の前に立った
「こんな、ハチャメチャな私で良ければ、本採用してください!!
私を、あなたの彼女に……1位に、唯一無二に、してくださいっ!!」
「〜っ!!」
驚いた。
彼女は微塵も、恐怖を感じていない。
てんで、ネガらないのだ。
であれば。
次に俺が放つべき言葉は、そんなんじゃない。
ここで俺が彼女に届けるべき一言は、たった一つしか無いんだって。
そんな、覚悟を決めた俺の雰囲気に当てられたのか、犬原と冴島も、静かに見守ってくれた。
全員の視線を一度に受けながら、俺はマイクを
「……完敗だ。
そして、乾杯してくれ。俺に」
一同が息を呑む中、俺は
「祝えっ!!
こんな俺に……!! 人生初めての……!!
……彼女が誕生した、奇跡の瞬間であるぅぅぅぅぅっ!!」
「〜っ!!
ナオくぅぅぅぅぅんっ!!」
「うぉぉぉぉぉっ!!」
「非公式カプが公式に……!!
エモエモのエモォォォォォ!!」
実に感動的なシーンだろう。だが、待って欲しい。俺にはまだ、言わなきゃいけない
「
それが無理なら、最低でも三人で!!」
「え〜!? 何それ〜!?
ナオくんの甲斐性無しぃ!! ボッケナス〜!!」
「
冷静に考えてみろ! こんなの、ビビるに決まってんだろ!?
俺のヘタレっ
「あははっ!
自分はいつでも、大歓迎ですよ!
基本フリーだし無病息災なので、いつでも誘ってくださいっス!!」
「また、女神の恩恵に預かれるというのなら……この冴島
是非とも未来永劫、あなた様のお慈悲を
「いや、もう、何言ってるんだか分かんねぇよ!!
お前のポジならシフト調整とかガチで出来るし!!
あと
「ギャラ!?
十諭吉までは出せます!!」
「ギャラじゃねぇぇぇぇぇ!!
カズミ◯みてぇな
てか、タメじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!」
……うん。
今度からは、なるべく犬原だけ誘おっかなぁ。
でも、こいつ、誘わずとも来そうだなぁ。
んで、次のシフトの時とかに無茶な配置されそうだなぁ。
いや、プライベートでの怒りを仕事で返すなよ。
こいつ
※
結局、
自宅に帰り諸々を済ませた俺は、床に就こうとしていた。
ところで、あれ……
オタクが、男女の境目も年甲斐も無く、どんちゃん騒ぎしてた、ただただ痛々しいカオスな祭りだぞ?
まぁ……全員が楽しんでたんだし、
にしても、疲れたなぁ。
こちとら、今の職場に入るまで、団体行動とは無縁の人生を送り続けてたからなぁ。
早い所、慣れないと。
「ナオくん、お疲れ様。
ご褒美に、私がマッサージしてしんぜよう」
「おぉ、サンキュー。
頼むわ、
「お任せあれー♪」
ベッドに座っていた俺の後ろに回り込み、肩や背中を
力加減といいポイントといい、
こっち側は、一人じゃどうにもならんからなぁ。
いやー、助かるわぁ。
で、それはそうとして、だ。
「……君、
「そりゃあ、私の家だしー」
「いや、俺ん
「あー。
そういえば、そうだったねー」
「そう言うまでもなく、そうなんですけど!?
てか、どうやって!?
一体、いつの間に入って来たんだよっ!?」
「まぁまぁ。
細かい話は、置いといこうよ。
ね?」
「細かいか!?
そして、さも『俺が聞き分け悪い』みたいな感じで纏めようとすんな!?
「はいはい、分かったから、良い子にしててー。
もう
「だ〜か〜らぁ〜!!」
正論をぶつけても、意に介さない
数分後。
大分、楽になった肩を回してから。
改めて、
「
「簡単だよ。
今日のデートでの、唯一の不満点の解消。
だから、解散した後にナオくん
ナオくん
で、ベッドに潜んでたー」
「そうか。
帰れ」
「あーん♪
ナオくんの、いけずー♪」
「楽しそうだなぁ、あんたぁ!!」
ベッドから降ろさせ、立たせ、背中を押して追い出さんとする。
が、強制退去させられてなるものかと、こっちを振り返りつつ、
「てか、ナオくん的には平気なの?
仮にも彼女の私が、こーんな真夜中に、狼さんの群れに解き放たれるなんてー」
「だったら、施設の人に迎えにでも来て
「それこそ、無理だよぉ。
リアに、『戦利品も無しに帰って来るな』って言われてるもーん。
今のままじゃ、帰ったら帰ったで、大目玉だよー。
おまけに、リア、もう寝てる時間だしー」
「じゃあ、ホテルにでも泊まっとけ!!」
「私、お金持ってないし、ホテルの場所も知らないよー。
ナオくんだって、まだ足りないしー」
「手詰まりじゃねぇか!!
しかも、
愕然とし、
そのまま髪を掻き毟りつつ、折衷案とも妥協案ともなれる何かを模索する。
が……相変わらず、劣勢のままだった。
「あんたさぁ。
状況、分かってる?」
「ここは、ナオくんの実家でー。
ナオくんのママとパパは、都合良く旅行中でー。
ナオくん、一人っ子でー。
つまり今、この家には、ナオくんと私しか
「そうだ。
男女、寝室、夜間。
みたいなシチュが、図らずも成立しちまってる
「
ワクワクするね!」
「そうだな。
『迷惑』、『困惑』。
略して『ワクワク』だな」
「もぉ♪
ナオくんの、照れ屋さん♪」
「……」
そういや
つまり、そこら辺の知識と認識、機微で相違が生じるのでは?
……よし。
試してみるか。
「
サンタクロースの正体、知ってる?」
「え?
それって、あれでしょ?
クリスマスに、幸せを届けてくれるっていう。
私にとっての、ナオくんみたいな?」
「まぁ、それで
じゃあ、次のクイズ。
赤ちゃんって、どこから来るか知ってる?」
「コウノトリの運んで来たキャベツを食べた新婚さんが、初めて一夜を共にしたらでしょ?」
「色々混ざってんな!?
それでいて整合性、
奇跡的に、
「違うの!?
もしかしてナオくん、仕組み知ってるの!?
「
結局、根負けし。
俺は
当然の
念の
「なるほどー。
赤ちゃんって、そうやって出来るんだねー」
パンッと手を合わせ、得心する
どうにか、人心地ついたらしい。
これで、妙な
あとは、上手い
やれやれ。
偉い目に遭った。
「そうだよ。
分かったら、今から部屋を移れ。
親には、俺から掻い摘んで話しとくからよ」
話が丸く収まった。
少なくとも俺は、そう解釈したタイミングで。
ちゃんと理解した上で、意図的に。
「私……。
……ナオくんと、寝たい……。
ナオくんと……一つに、なりたい……」
大人の意味、雰囲気を
そう、俺に求めて来た。
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