Re:port 6/ミキはもう寝ない
「
メイン・ステージが見えて来た辺りで、私は軽く屈み、フーたんと目線を合わせる。
「ごめん、フーたん。
私、これからフーたんに、かなり
それでも……付いて来て、くれるかな?」
フーたんは目をパチクリさせた
「フー……。
パパマスターや、
「……うん。
その
フーたんが
けど、フーたんがお手伝いしてくれたら、
「……フー。分かった」
まだ不安そうながらも、決心するフーたん。
気持ちを新たに、私達はハクの元に赴いた。
「そこまでだよ!!
この、親不孝者!!」
メイン・ステージのセンターに立っていたハクは、私からの罵倒を受け、振り向いた。
「……ちょっと驚いたよ。まさか、生き延びていたなんて。
通りで、フルレストアが叶わなかった
「『フルレストア』?」
「簡単に言うと、ゼロから作り直すって
父さんは
そして僕は、
演説めいた調子で
先程までハクに隠されていたが、奥にナオくんが捕らえられていた。
十字架に縛り付けられ、鎖に
「み……き……」
「ナオくんっ!!」
急いで壇上に登り駆け寄ろうとした私の前に、ハクが立ちはだかった。
「あんた……!!
何、してくれてるのよっ!!
あんたのご主人、父親なのよっ!?」
「
この
「誰がっ!!
そもそも、ナオくんが死んだら、あんただって!!」
「そう。死ぬね。それが何?
どうせ、ブレストなんて、いつ死ぬか分からない不安定な存在じゃないか
自分で
それに、ご心配
僕の分身を、他の人間の精神に宿し、別の
そうして、
それが、僕の最大の望みなのさ。
とっても
ねぇ、父さん」
不気味に笑い、ナオくんに答えを求めるハク。
ナオくんは、俯きながら弱々しく返す。
「……ミキ……。そいつに、全てを教えられた……。
悪かった……。お前の事情……俺は、何一つ知らなかった……。本気で知ろうともしてなかった……。
まさか、こんなダメダメな俺に、あそこまで尽くしてくれる存在が現れようだなんて……」
「『ダメダメ』なんかじゃない!!
ナオくんは、
私の
そもそも、分かる、信じられる
私が
消沈、傷心中のナオくんに
「謝り合う、慰め合うのは一向に構わないんだけどさぁ。
僕も
出来れば直接、手に掛けないのがポリシーってだけで、その気にさえなれば」
ナオくんと離された私に右手を翳し、闇のオーラを溜めるハク。
「
お前の標的は、俺だろ!? これ以上、その子を傷付け
ハクが遠隔操作した鎖に口を塞がれ、何も離せなくなるナオくん。
ハクは、億劫そうに頭を掻いてから、再び私を捉えた。
「もう忘れた?
僕は前回の反省を活かし、徹底的に、完璧に物事を終わらせる方針にシフトしたんだ。
そういう
闇の力をボール状に纏めたハクは、それを私に飛ばして来る。
触れた
「ミキッ……!!
ミキィィィィィッ!!」
どうにか話せる
ハクは、やや満たされた表情のまま、この
そして、怪訝そうな顔色を見せた。
「……
確かに、たった今、この手で」
「簡単だよ」
我に返り振り返って語ったハク。その画面に空中回し蹴りをお見舞いし、私は危なげ無く着地した。
「まだ倒してないからだよ。
私は、何事も慎重派、正確性重視、神経質、
無策で感情的に、勢いとご都合主義任せで特攻仕掛けられる
「ミキッ!!」
まだ私が生きているという事実を、ナオくんが泣きながら喜んでくれた。
そんなナオくんは突如、自由の身となり、
その
「何を……何を、したぁ!?」
「ナオくん助け」
ニィッと口角を上げてみせ挑発する。
さも私の手柄の
そうとは露知らず。
「消してやる……!!
「ふーん」
案の
つまり、あの騎士に指一本でも触れたら、ドカーンッと。分かり
「ふむふむ」
割とピンチな状況で、私はマイペースにストレッチし。
「おりゃぁぁぁぁぁ!!」
正面から、敵陣目掛けて突っ走り。
触れる→爆発→無傷、触れる→爆発→無傷。といった具合に、駒を掃除して行く。
「ば、
なぜ、消滅しない!?」
「よっと」
爆風が消え去ったタイミングで、服すら元通りのまま現れた私は、ハクを指差し断言する。
「決まってるよ!!
私は、ナオくんを幸せに、自分を好きにさせなきゃいけないから!
こんな
せめて、ナオくんに素敵な奥さんが出来て、何人も出来た子供も独立して、ナオくんに可愛い孫達とイチャイチャ、デレデレして
「訳の分からん
いつまでも、垂れるなぁ!!」
騎士達を一斉に操り再び取り囲み、一気に仕掛けるハク。
「よっと」
ヒョイッと跳躍し、
そのまま腰に手を当て胸を張り、ハクに喧嘩を売る。
「どう?
「……」
私からの質問に対し、無言を貫くハク。てっきり、兵を全滅させられ、怒り狂ってるのかと思った。
しかし、違った。私は忘れていた。
彼女もまた、ナオくんから生まれていたのだという
「フー!!」
「おわっ!?」
最初にフーたん、続けてナオくんの悲鳴が、私の耳に入って来た。
「!?」
声の聞こえた方を見やると、隠れていた
「く、くくくっ……あはははははっ!!」
黙っていたハクが、ここに来て
「甘いよ、姉さん。
父さんのデータや理性しか担当していない、
あれだけ僕に痛めつけられたというのに、おめおめと乗り込んで来る
姉さんに協力者が
いや……考えるまでも
溜めていた分も含め一気に捲し立てたハクは、再び狂気的に笑んだ
「チェック・メイトかな?
さて、と。そろそろ出て来なよ、本物の姉さん。
今まで倒される度に作られてたのは、偽物なんでしょ?
早くしないと、父さん
やれるだけの
思い付く限りの、手は尽くした。
精一杯、最後まで足掻いた。
それでも、敵わなかった。
……万事休すだ。
「……ナオくん。
ごめん」
中途半端にしか助け出せなくて、ごめん。
多分、これから
腹を決めた私は、フーたんと作戦会議をしていた、建物の裏から姿を現した。
「……これで満足?
二人には、手を出さないで。
全部、私が……一人で、引き受けるから」
「ミキッ!!」
「ミキィィィィィッ!!」
二人からの、悲痛な叫び。
申し訳ないけど、今度ばかりは、どうしようもない。
ハクの、勝ち誇った顔が、何よりの証拠だ。
私は、負けた。
私が消える
理性を失った状態で、新たにブレストを設ける
そもそも、仮に務まったとしても、その前にナオくんの心が崩壊してしまう。
ナオくんは……死ぬ。
「……フーたん。
巻き込んで、ごめん。
あんな
ナオくんも……色々、ごめん。
ホント……ダサダサだよね、私。
でも……最後
最後まで二人を、守ってみせるから」
「フー!!
ミキィ!!」
「
『最後』だなんて、言うんじゃねぇよ!!
いつもみたいに……!! ……俺みたいに!!
『何とかなる』って、笑ってみせろよ!!
お前らしくねぇじゃねぇか!!」
自嘲モードの私は、
「……ほら。好きにしなよ。
「そんな
不敵に私に微笑むと、ハクは
「これで……ゲーム・オーバーだ」
私に向けボールを投げようとするハク。
やはり怖く、悲しくなり、私は目を閉じ。
ーーようとしたタイミングで、ハクの動きがピタリと止まり。
その表情が、困惑で染められた。
「なん……で……」
まるで心当たりが無かった私は、ハクに続いて後ろ……ナオくんとフーたんが倒れている場所を振り返り。
ハク同様に、絶句した。
「ふー」
「ざっと、こんな所でしょうかね」
ナオくんとフーたん以外には、物言わぬ
その、
フーたんが実際に会った
冴島と、犬原が。
「ふ、フー……?」
「あ、あー、うん。大丈夫っスよー。
自分
まー
ね?
「言わずもがな。
そもそも、こんな、可愛さのバーゲンセールみたいな尊い存在を平気で、笑顔で傷付けられる
「
そこはかとなくない犯罪っス!! 」
「失敬な。拝み、崇めるのみですよ。そこら辺は弁えています。
それより、立てますか?
「あ、ああ……。それより、お
「あなたと向かった喫茶店。その帰りがけに、このメモが店長によって仕込まれていました。
ブレストの事情は
開き直り受け入れ順応さえすれば、この程度を理解する
「で、自分にも情報共有されたっス!
『もし
「彼女が消せるのは、
つまり、他の世界の、ましてやブレストでも
そういえば、ナオくんと行ったのは、フミの店だった。
つまりフミは、あの時点で諸々を予見し、先手を打っていたという
まさか、この私にすら、
敵を欺くには
「冴島と犬原だけじゃないぜ!!」
「私達も
「俺もだ!」
「自分も!」
「
「私も……!」
「え?」
屈強な男性。
逞しそうな女性。
如何にも店長という風貌の人物。
しっかりしてそうな壮年。
今時風の女子。
ちょっとナヨナヨした女子。
ベテランっぽい奥様。
聞き覚えの
いや……話した
その全員が、この場に揃っていた。
「こ、こんな
さしものハクでも劣勢と踏んだのか、後ずさる。
そんな彼女に対し一歩、前に出た冴島がクールに告げる。
「あなたは、物を知らなさ
人間にとって、最大の武器。
それは、全幅の信頼を置ける仲間と、絶やさぬ日々のコミュニケーションと、迅速かつ確実なる
喫茶店で手紙を頂いてから、その日の
眼鏡を直した冴島が、強気に嘲笑った。
「あなたは、舐め
人類……いや。
過去? 自殺願望? 知った
我々が求め、必要としているのは今の、
それを阻まんとする愚か者は、
「そうっス、そうっス!」
「もっと言ったれ、未来の店長!
色付けるぞ!!」
「いや、
あと、このタイミングでいきなり引き継ぎしないでください。
ところで、
「
そもそも、
タツヤは不滅、年中無休なんだよ!」
「常に
それを抜きにしても、こんな優しい子を奪おうだなんて、罰当たりにも
おばちゃん、許さないわよ!」
「他の手下共は全員、やっつけてやったわ!
あとはあんただけよ、この悪魔め!
けちょんけちょんにしてやるわ!!」
「は、はい……! します……!
けちょんけちょん……!」
……
ナオくんは……私が愛して止まないナオくんは、
私よりやや劣るレベルで愛してくれてる人が、こんなに沢山、
「ま、待ってくれ!!」
すっかり流れが
最初に喋ったのは、冴島だった。
「
『俺とはもう関わるな』。
『お
そんな
「そうだ!
俺は、
本性隠して、ずっと騙してたし、迷惑かけ続けたし、仕事だって満足に
今日なんか、最悪だ! そいつに操られていたとはいえ、体調が悪い
『お前
見放されて
だってのに
「ナオくん……」
私は、考えが甘かったかもしれない。
別に私が連れて来た訳でもないし、不測の事態ではあるけれど、こうしてリアルの世界から大勢の救援が来たというのに、ナオくんは未だに自分を卑下している。
「ははっ……はははははははっ!!」
ナオくんに一言物申そうとした矢先、ハクの笑い声が戦場を駆け抜けた。
「
際限なく幸せな思考回路だ」
遠回しに煽り、天高く腕を突き上げ。
「ぐっ……!?」
「がっ!!」
誰ともなく胸を抑え、苦しみ出し一人、また一人と崩れて行った。
私とフーたん、ナオくんを除いて。
「確かに僕が消せるのは、父さんのブレストのみ。
人間に対して危害を加える
しかし、おかしいとは思わないかい?
簡単だよ。
私から離れ、ナオくんの同僚達の間を、ハクがゆっくり歩く。
「更に言うと、君達の意識は今、僕の
君達は今、人間としてではなく、ブレスト、精神その物として扱われているんだ。
となれば、虐めの現行犯達の夢の中に侵入し間接的に痛めつけるよりももっとシンプルに、剥き出しの君達にダメージを与えられる。
丁度、ミキと会っていた時の父さんみたいに、ね」
「な……に……」
ここまでは
仕事モードでは真顔をキープしてばかりいた冴島の顔に、冷や汗が見え始めた。
他の
ハクだけが唯一、この場で
しかし彼女は、冴島達への攻撃を
「さて、父さん。
そろそろ、終わらせる
さもないと、如何に精神体とはいえ、大切なお仲間がピンチだよ。
ひょっとしたら、このまま、父さんの心の中で、父さんの
父さんが植物状態になるのと、
果たして、どちらが早いかなぁ?」
「っ!!」
意見しようとする同僚達。
が、空かさず冷たい視線を向けられ、自分達の命が未だに握られたままなのをアピールされ、押し黙ってしまう。
薄情、だなんて思わない。下手したら死ぬかもしれないんだ。おまけに、自分達の
誰だって、口を噤むに決まってる。
「……」
静寂に包まれる中、ナオくんが一歩、前に出た。
「〜っ!!
ハクの挑発に乗り、
ナオくんは私には目もくれず、ひたすらハクだけを、自分が消える未来を見詰めていた。
「……ミキ。分かってくれ。
これ以上、
俺が、
俺が終わらせるのが、道理だろ」
「だからって!!
何も、そんな方法で終わらせる
「他に方法が無い。時間は、もっと無い。
頼む。分かってくれ」
「……っ!!」
……
「ナオくんのっ……!!
馬鹿ぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
ナオくんの左手を封じていた体を離し、私は
思いの限り、心の命じるままに、ナオくんを引っぱたいた。
意識が回復したフーたんが、倒れていたナオくんに慌てて駆け付けた。
そんな二人や冴島達に罪悪感を抱きつつ、私は涙ながらに叫ぶ。
「
倒れていたナオくんの胸ぐらを掴み、私の目線の高さまで掲げ、訴える。
「私だって、常にナオくん至上主義な
私はナオくんのアクセルであり、ブレーキなのっ!
そこら辺も思い出して
どうして、そんなにまで、自分を雑に扱うの!?
そんな
君を助けたい、守りたい、力になりたい、生きて
そんな
いつまでも
通知が来た瞬間に消して既読スルーして、自分は確認しといて、無かった
私に同調するかの
「
今のナオくんには、ナオくんをきちんと理解してくれてる大切な人が、
自分を傷付ける
「っ……!?
お前、
それまでだんまりを決め込み、バツが悪そうに明後日の方を何となしに向いていたナオくんが、私の方を正面から見た。
その眼差しは恐怖で満たされていて、
……分かってる。激しく怒るだけが、叱り付ける
私が
ここからは、もう少し緩やかに行こう。
そう自分に言い聞かせて、言い方や言葉、声色にまで気を遣い、私は喋り始める。
「知ってるよ。正確には、思い出した。
私は、ナオくんの理性だよ? ナオくんの思考、感情は、そのまま私に
君が苦しんでた時……私だって、君と同じ分だけ、苦しんでたんだよ?」
そろそろ精神的に耐えられなくなって来たのでナオくんを降ろし着地させ、そっと彼の手を取り、続ける。
「そんな私だからこそ、言わせて
もう、君自身を責める、攻める、縛る必要なんて、どこにも
君の周りにはもう、君を傷付けたいだけの、悪趣味極まりない乱暴者は
「え? 僕は?」
「
「我が姉ながら、ご挨拶だなぁ。
こっちは、こうして茶番に付き合ってあげてる上、君の仲間達も一時的に解放してあげたというのに」
自分が諸悪の根源なのを棚に上げ、他人事みたいに言い放ち、
「君はもう、自分の命の
ううん……
人との付き合いを散々、意図的に避け、怠って来た
まぁ……そのお陰で好かれてる部分も多分に
私が後ろを振り向くと、冴島や犬原くんを筆頭に、
「ね? ナオくん。
私、ナオくんの
だって、そういう
でも、こうして、設定とかじゃなく、きちんと、正しい形で、ナオくんの
まだ出会ってないけど、君を正攻法でオトしに来てくれる人も、きっと現れる。
だから、ナオくん。その人達の
きちんと自分の本心と、良い面と悪い面と向き合って、話し合って、守り、敬って。
だって、今までもこれからも、ナオくんが
いつまでも粗末に扱ってちゃ、その内、
こんなナオくんを、大切にしてくれる人達なのに」
「……
しかも、
「え?
だってナオくんのポジ、どう考えてもヒロインだし、実際に現在進行系で捕われてるし、私=君だからって今の
あらぬ方向に拍車がかかった私の口を手で塞ぎ、調子の戻って来たナオくんは、私に救いを、掬いを求める。
「俺……
「熟知してる。そこが可愛いのも」
「誰かに親切にした分だけ、相手にも同等の対価を求めてるぞ?
「君がきちんと見てないだけで、君は
だからこそ、今日まで
本心なんだから、偽善じゃないだけ
気持ちは分かるけど、高望みはしちゃ
「この年になって、誰かに褒めて
「今まで、
いーっぱい、甘えれば
「『言葉を交わさずとも通じ会える関係』に、未だに憧れてるとか、笑えるよな?」
「君が相手の動きを観察してれば、何も言わずとも、自ずと
でも、最低限は話そうね」
「普段の
本当の俺は荒くれ者で、そんな自分が嫌だから偽ってる、隠してるんだ」
「人間なんて、多かれ少なかれキャラ作ってるよ。
大事なのは、それによって皆が助かってるか、迷惑してるかじゃないかな」
「俺……俺……」
自分の
私は、そんなナオくんの頬に両手を当て、
「もう終わり? じゃあ、私の勝ち。
ナオくんは、
「……
また変な言葉遣いしやがって」
「素直じゃないなぁ、
ま、そこも
そろそろハクが本気でキレそうなので、私は本題に入る
「ナオくん。私は、まだ
だから君も、君の悪い、弱い部分を、受け止めてよ。
私が全部、壊さず、落とさず、損なわずに、抱き締めるから」
宣言通りにナオくんを包み込み、私は彼に懇願する。
「大丈夫。怖くないよ。
だから、ナオくん……いつもより、ちょっとだけで
君の
ナオくんは暫く戸惑った
「……ああ。……サンキュー」
ーーあぁ。やっとだ。
混ざり合い、手を取り合い、シンクロする心。
それを証明するかの
「な、
……この光はぁっ!?」
不測の事態に混乱し、後ずさるハク。
しかし、首を左右に振り迷いと恐れを振り払い、ハクは再び、条件反射的に、至る所に爆弾騎士を差し向けて来た。
「
「危ないっ!!」
それまで静観していた犬原くん、冴島が、
それよりも先に、目の前に、ヒーローが現れた。
ちょっと変わってるけど、こういう時には
「……ヒロハルッ!!」
興奮、喜びの
ヒロハルは、こちらに目線だけ寄越して
「中々に待たされたが、許そう。
いつもの口上を終えたヒロハルは
「な、
間違い無く消した
「そう。ヒロハルは、消された。
そして、蘇ったの」
「何!?」
ヒロハルではなく私が、ハクからの問いに答える。
「簡単な仕組みだよ。
私は、ナオくんのバック・アップ。
だから、ナオくんと私の記憶、心を共有、同期し、最適化、更新させた。
そして、引き継いでコピペした。
それだけだよ」
「
そんな力、
「そりゃそうだよ。だってナオくんってば全然、
私の固有、ユニーク・スキルが覚醒してなかったんだよ。
でも今、ナオくんが自分のデメリットを認めてくれた
「そういう
「っ!?」
先程と同じく、ハクの懐に入り、剣撃をお見舞いするフミ。
不意打ちを成功させたフミは、私の
「上出来だ、ミキ。
お前なら、
「だって、おかしいじゃん。
私、シキやアカリが能力を使ってる
あれって、二人がホビッグ未選抜だったからでしょ?」
「そうだ。
ブレストはライキング入りする
「で、この場に
となれば、こんな状況でもナオくんを助けようとする私がライキング入りするのは、自明の理だよね。
まぁ、ナオくんが自分を嫌い過ぎたばっかりに、それでも時間掛かったのは、かなりアレだし。
出来れば、こんな不戦勝、繰り上げ当選みたいな感じじゃなくて、きちんと実力、努力で選ばれたかったけど」
「感謝するよ、ハク。
私が力を手に入れるには、フミから口頭で伝えられただけでは足りなかった。
あんたが私に押し付けてくれた自分のデータ、ナオくんの黒歴史を、私が真正面から肯定したから、ナオくんは多少なりとも自分を好きになってくれた。
学校の成績と同じだよ。真にナオくんに必要だったのは、得意分野の底上げやキープじゃなく、苦手分野の克服だったんだ。
「何を訳の分からん
「おおっと!
ハク選手、ここに来て焦りが見え始めたぞぉ!!
解説のメディさん、
「ダッ……! サッ……!!」
「『誰が見ても負け確! 最後だね!!』だそうです!!
でも、そこまでするなら、次からは普通に
ハクが性懲りもなく騎士を作るよりも先に、レナとメディの名コンビが軽快に、遠距離から精神攻撃を
「今だ!! シカッと決めるよ!
ところで君、誰?」
「はっ! 現実世界所属、
文化祭のライブにも出てたので、バンド経験者っス!
以後、
「私がステージに招いたのよ。
「ギャラリーがシレッと飛び入りなんて、
それじゃあ、晴留、アカリ、ユカリ、ロマ!! ギュイーンッと、行っくよぉ!!」
「恥ずかしいけど……帰らない
「ところで私達の名前、似過ぎじゃないかしら?」
「努力の方向とタイミング、間違えてますぅ。
それはそうと、ラブリー・ビート・ボンバー、行くですぅ」
「な、何その、変で安直で恥ずかしい名前っ!
やっぱり、帰るぅぅぅっ!!」
「オッス!!
ド派手に噛ますっスよぉ!!」
メイン・ステージで即興バンドを組んだロクト、アカリ、ユカリ、ロマ、犬原の五人が、楽器やマイクから特殊な音波を出し、騎士達を浄化させた(
「敵のハートにターゲット、ロック!
冴島!!」
「皆さん、バリヤバです!!
カワイイとスマイルとハッピーがノンストップな、最高のワンダー・ワールドです!!
男も混ざってるのが残念でなりません!!」
「違う!! 仕事!!
特別に
「失礼しました!
ホーミング機能、エンチャント!!」
「よし!! じゃあ、一緒に決めるわよ!!
総員……!」
「「アタック!!」」
「ゲーム・スタート!! うぉぉぉぉぉ!! 」
「ぶっつけかつ初めての
「特別サービスでスイーツ〜。
絡めるカラメル、心行くまで、たっぷり味わってくださイートンメス〜」
「美味しくしてあげる……」
「いや、食べんなし! トリ○ちゃうわ!
引くっ!」
リアのサーチング及び冴島のバフを受け、ユウがバズーカからミサイル、ビビがチューブからインク、アマネが絞り袋からホイップやらカラメルやら、シキが同じく絞り袋からケチャップやマヨネーズを出し、騎士
見る見る内に駒を失い、心なしか、ハクは顔面まで真っ白に染まって行く。
「このっ……!!」
高みの見物を
しかし、一秒と経たぬ間に全員、記憶を維持したまま、再生される。
消されても、消されても、何度でも蘇り、やがて消される
「もう悪足掻きは
いきなり目の前に立たれた
そんな彼女を見下ろし、私は告げる。
「
ナオくんは、あんたなんかに屈しない。
今のナオくんは、
「……まれ……。……黙れぇぇぇぇぇ!!」
ギシッと強く噛み締め、ハクが私に手を翳す。
「もう一度だ!!
お前の心を支配し、もう一度、お前にリセットさせてやるぅぅぅぅぅ!!」
私に向けて伸ばした手を、ハクが
そんな
「な、
「当然じゃん。
今の私は、心が定まってるから。
強く大地を踏み締め、(必要無いけど、気持ち的に、ルーティン的な感じで)深呼吸し、私はこの
「私は、もうっ!! 二度と、寝ないっ!!
この
永遠に、守り抜いてみせるっ!!」
私の宣言に呼応したのか、
雲が晴れ、嵐と雷が止み、瞬く間に青空が広がり、壊されていた建物が直って行き、消えた他のブレスト達も帰って来て、ライキング・ボードも元の仕様に戻った。
いや……一つだけ、違う。
第1位の座に輝いているのが、新顔。
……私、だ。
「〜!!」
状況が状況なら今頃、ひたすら舞い上がっていただろえう。
周囲に誰かが居合わせていたのなら、
けれど、残念ながら、今はそんな空気じゃない。
だから私は、その結果を励みにし、次へと
その
「ハク」
恨み深き相手の名を呼び。私は、晴れやかな笑顔で、手を差し伸べた。
思った通り、ハクは拒絶する
「もう
この期に及んで反抗期なんて、みっともない、水臭いと思わない?
あなただって、ナオくんの
今はただ、使命が悪趣味で、理解者が、友達が
だったら……ううん。そういう、言い訳めいたのを抜きにして。
単純に私、あなたの友達になるよ」
「……なれる
僕は、君達とは違う。
罪人だ」
いつまでも握ろうとしない頑固者に痺れを切らし、私は自分から、ハクの手を無理矢理、取りに行き、彼女を立ち上がらせた。
「なれるよ。
だって私は、車ぶつけられても一切、怒らなかった、ナオくんの一部だよ?
あなたの壊し、奪った物は、
長きに渡る悪夢は、もう終わりにしよう。
それでも
その罪を私が一緒に背負い、一緒に罰を受け、一緒に出直し、やり直して行くよ。
だって私は、あなたのお姉ちゃんで、お母さんだから」
一旦、手を放し、ハクの頭を穏やかに撫でる。
そこで、ハクの心が、涙が
「思った通り。
あなたもやっぱり、きちんとナオくんの心だよ。
チョロくて、可愛くて、捻くれた頑固者で、ちょっと面倒な。
とっても
「うっ……!!
……わぁっ……!!
うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!
ごめんなさい、ごめんなさいっ……!!
ごめんなさぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃっ!!」
覆い隠していたコートが消え、目の曇りが晴れ渡り、そこから透き通った綺麗な空色を覗かせ、キャノティエが目を引くゴスロリ衣装を纏ったハクは、私に夢中で抱き着き中々、泣き止もうとしなかった。
「あ……」
重大な
「言っとくけど、断じて浮気じゃないから。
これ
母性とか、そういうんだから。
いや、
私の弁明に、全員が目を丸くし。
やがて誰からともなくドッと沸き起こった笑い声が、
「こりゃ
向かう所敵無しじゃねぇか」
「やっぱり、どこの世界でも
って
「もう
考えるのもツッコむのも億劫だ。
疲れた……」
「姉妹、親娘間の、ロマンシス……。
ぽよみがえぐい……。マジ、てぇてぇ……」
「前言撤回。やっぱツッコむわ。
お前、語彙力と意識と常識と冷静さ、とっとと取り戻して来い」
人間トリオの即興コントで、再び
こうして、私とハクの姉妹? 母娘?
そう。
良くも悪くも今までとは似て非なる、
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